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妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される・完結【第12回ネット小説大賞コミック部門入賞】  作者: まほりろ
改稿版

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改5話「幼なじみからの手紙」



 建物から門まで続く、庭をトボトボと歩く。

 門までが遠いです。

 公爵家の庭の広さが嫌になります。

 屋敷を去る前に、せめて最後に一目だけでもお母様の肖像画を見たかった。

 十年前にお母様が亡くなり、半年後お父様が再婚しました。

 継母の連れ子としてやって来たミラが、

 お父様とお義母様の娘だと知ったとき、雷に打たれるような衝撃を受けました。

 お母様は、ずっとお父様に裏切られていたのだと分かり悲しくなりました。

 ミラは公爵家に来たとき四歳でした。

 少なくとも五年間、お母様はお父様に裏切られていたのです。

「ニクラス公爵家の方ですか?

 リアーナ・ニクラス様にお手紙です」

 公爵家の正門まで来たとき、郵便配達の男に話しかけられた。

 交代の時間なのか、門番の姿は見えない。

「私がリアーナ・ニクラスです」

「えっ? あなたが?」

 郵便配達の方が驚くのも無理はありません。

 絵を描いている途中で殿下に呼び出され、着替える時間も与えられず部屋を出て、そのまま城から追放されました。

 なので白無地の木綿のフード付きローブの上に、エプロンを身に着けているのです。

 それに、服に染み付いた絵の具の独特の匂い。

 皆が、鼻を摘みたくなる匂いというので……私は今とても臭いのでしょう。

 私自身は、絵の具の匂いに慣れてしまって、何も感じない。

 これではとても、公爵家の人間には見えない。

「まあいいや。

 敷地内にいるんだからニクラス公爵家の人に間違いないんだろう。

 受け取りにサインを」

 私は配達人が柵越しに差し出した紙に、自分の名前を書いた。

 そして、配達人から柵越しに手紙を受け取った。

「本当にリアーナ・ニクラスって書いてある。

 貴族の間ではそういう服装と香水が流行ってるんですか?

 庶民の僕にはわからないね」

 配達人はロバに跨り、去って行った。

 彼が来るのがもう少し遅かったら、私は屋敷の外に出ていた。

 敷地の外に出たら最後、この格好では私が「公爵家の人間です」と言っても配達人は信じなかったでしょう。

 庭園をゆっくり歩いていたことが、思わぬ形で幸運をもたらしました。

 配達人から受け取った手紙の裏面を見ると、立派な蝋印(ろういん)が押されていた。

 差出人は、アルドリック・ルーデンドルフ……。

 彼の名前を目にした瞬間、私の心臓がドクンと跳ねるのを感じた。

 アルドリック・ルーデンドルフ様は、隣国ルーデンドルフ帝国の第四皇子。

 年齢は私と同じ十八歳。

 漆黒の髪と黒曜石の瞳を持つ、見目麗しいお方です。

 彼の母親は側室で、彼の上には正室との間に生まれた三人の皇子がいるので、彼自体の皇位継承権は低い。

 彼の母親と、私の母が古くからの友人だったので、彼は一度だけニクラス公爵家に遊びに来たことがある。

 そう、あれは十一年前……母がまだ生きていた頃。

 アルドリック様は彼の母親と共に我が国を訪れ、ニクラス公爵家に一月(ひとつき)ほど滞在しました。

 あの年の夏は、お母様がよく笑っていて、アルドリック様とも沢山遊べて、とても楽しかったのを覚えている。

 アルドリック様は、お母様の次に私の絵を褒めてくれた人。

 絵の具の匂いも「臭くない、いい匂いだ! 絵の具の匂いも含めて君(の絵)が好きだ!」と言ってくれました。

 私の絵を手放しで褒めてくださる、とても優しい方でした。

 十年前、お母様が亡くなり、それ以来彼とは連絡を取り合っていない。

 お母様が亡くなってすぐ、

 私は聖女に任命され王宮に上がった。 

 その後、王太子殿下と婚約したり、最高聖女に任命されたり、バタバタしていた。

 最高聖女であり、王太子の婚約者でもある私は、会える人を制限されていた。

 もし公爵家でアルドリック様からの手紙を受け取らなかったら、彼とは一生関わることはなかったかもしれない。

 そう考えるとあのタイミングで配達人が訪ねてきて、アルドリック様からの手紙を受け取れたことは奇跡に近い。

 私は封筒を丁寧に切り、手紙を取り出した。


「拝啓 親愛なるリアーナ・ニクラス様

 元気にしていますか? 

 今でも絵を描いていますか?

 あなたがキャンバスに向かい、筆を持つひたむきな横顔を眺めているのが好きでした。

 僕と僕の母と、あなたとあなたの母親のオリヴィア様と、四人で過ごした時間は僕にとって大切な思い出です。

 あなたと共に過ごしたあの夏を、僕は今でも鮮明に覚えています。

 オリヴィア様が逝去し、あなたとの縁が途絶えてしまったことが、残念で仕方ありません。

 僕は、毎年ニクラス公爵家に遊びに行きたかった。

 そして君が絵を描く姿を眺め、一緒に街を散策したり、カフェで他愛のない話をしたかった。

 そんな穏やかだけど、幸せな時間を君と過ごしたかった。

 僕だけが、そちらに遊びに行くのでは不公平ですね。

 あなたをルーデンドルフ帝国に招待したかった。

 その夢を、今からでも叶えられないか考えました。

 もしあなたさえ良ければ、ルーデンドルフ帝国に遊びにいらしてください。

 あなたならいつでも大歓迎です。

 オリヴィア様の思い出話をしましょう。

 誠実なる友 

 アルドリック・ルーデンドルフより」


 手紙に雫が溢れ染みを作った。

 手紙を持つ手が震える。

 目頭が熱い……。

 気付いたら私の目からは大粒の涙が溢れていた。

 アルドリック様は、まだ私のことを友達だと思っていてくださったのですね!

 アルドリック様に会いたい!

 彼に会ってお母様の思い出話がしたい!


 服の袖で涙を拭い、手紙を封筒にしまい、ローブのポケットに入れた。

 決めました。

 私、アルドリック様のいるルーデンドルフ帝国に行きます!

 その為には、ここで立ち止まってめそめそしている訳には行きません!

 私は決意と共にニクラス公爵家の鉄柵を開き、港に向かって歩を進めた。

 


4〜5話の内容。

 818年5月1日

 リアーナ、城からニクラス公爵家まで三時間歩く。

 リアーナ、ニクラス公爵(実母)と、ニクラス公爵夫人(継母)に再会する。

 リアーナ、ニクラス公爵家から勘当され平民になる。

 リアーナ、アルドリックからの手紙を受け取る。

 リアーナ、アルドリックのいるルーデンドルフ帝国行きを決意する。


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