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改4話「ニクラス公爵家」

・いつ 

女神暦818年5月1日 

・どこで 

ハルシュタイン王国・ニクラス公爵家

・誰が 

リアーナ、ニクラス公爵、ニクラス公爵夫人

・服装

リアーナ→白地のローブ(木綿製)、ローブの上にエプロン(絵画用)

ニクラス公爵、シルク製、茶色、ジュストコール

ニクラス公爵夫人、ワインレッドのドレス

・建物

 ニクラス公爵家、青い屋根、白い壁、二階建て、広い庭園、屋敷の敷地の周りには高い鉄柵

 


※城からニクラス公爵家まで馬車で1時間。歩いて3時間。






 王宮を出た私は、実家であるニクラス公爵家へ向かった。

 殿下に国を出ていけと言われましたが、お金がなくてはどこにも行けない。

 聖女のお仕事は衣食住を保証される代わりに、お給金は貰えないのです。

 私がお城に上がってから十年。

 お父様とお義母様は、一度も訪ねてくることはなかった。

 家族の縁は限りなく薄い。

 でも他に頼る相手がいないのです。


 城から公爵家までは馬車で一時間、歩いて三時間。

 久しぶりに訪れた公爵家は、相変わらず高い塀に囲まれていた。

 屋敷には、正面の門からしか入れない。

 たまたま門番をしていた使用人が、私を覚えていたので、敷地内に中に入ることができた。

 十年ぶりの実家……。

 しかし感傷に浸っている時間はない。

 門から建物までは少し距離がある。

 私は公爵家の広い広い庭を、歩いて抜けた。

 バラ園や花壇の花が蕾を付け、噴水がザーザーという音と共に水しぶきをあげている。

 敷地の奥に青い屋根に白い壁の二階建ての屋敷が勇壮に構えていた。

 玄関扉にある金属製のドアノッカーを掴み、ノックをする。

 しばらくして、燕尾服に身を包んだ年配の男性が扉を開けた。

 彼の事は知っている。

 父の執事をしていた。

「リアーナです。

 帰って来ました。

 お父様とお義母様にお会いしたいの。

 中にいるかしら?」

 執事に要件を伝えると、ここで待つように言われました。

 十年振りに実家に帰ってきたのに、建物にも入れないなんて悲しいです。

 玄関先で待つこと数分。


「なぜここに来た!?

 この役立たずの馬鹿娘が!」

 十年振りに会ったお父様は、思い出の中より、少しだけ老けていました。

 それに少し痩せたでしょうか?

 久しぶりに見た父は、髪の毛には白髪が混じり、顔に深い皺が刻まれていた。

 それにしても、開口一番怒鳴られるなんて……。

「リアーナ、久しぶりね。

 臭いわ、酷い匂いね」

 お義母様は私の顔を見ると、顔をしかめた。

 「あなた、リアーナを屋敷の中に入れないでくださいな。

 屋敷中が、ごみ捨て場のような匂いになってしまいますわ」

 お義母様が蔑むような表情でこちらを見て、自分の鼻を摘みました。

 お義母様の容姿は、ミラに良く似ています。

 金色の髪に、青い目、彫りが深く、華やかな顔立ちをしている。

 お義母様はワインレッドのシルクのドレスを纏っていた。

 お義母様の昔の姿は、あまり覚えていない。

 お父様がお義母様と再婚して、あまり時間をおかずにお城に上がったから、顔を合わせる機会が少なかった。

「分かっている、心配するな。

 リアーナは建物の中には入れんよ」

 お父様は眉根を寄せ、お母様と同じように鼻を摘んだ。

「お父様お願いがあります。

 少しでいいのでお金を貸してください。

 王太子殿下に国外に行くように言われたのですが、お金がないのです……!」

「先ほど王宮から知らせが来た!

 お前のことを聞いた!  

 最高聖女としての務めを果たさず、部屋に閉じこもり、気味の悪い絵ばかり描いて、怠けていたそうだな!」

「ミラは聖女として病人や怪我をした人の治療をし、

 貧しい人々の話を聞き、

 教会の炊き出しに参加したりしていたのに……!

 役立たずな上に、怠け者で、恥知らずな娘なんでしょう!」

 お父様とお母様が生ゴミでも見るように、顔を顰める。

 どうやら私が歩いて公爵家に向かっている間に、公爵家に王宮からの使者が来たみたいです。

 こちらは徒歩、あちらは馬車。

 あっという間に追い越されてしまったようです。

 私は最高聖女として水晶に魔力を込め、結界を張るお仕事をしていました。

 結界を張った後、部屋で絵を描くことは、国王陛下から許可を得ていました。

 そのことはお父様とお義母様に伝わっていないようです。

 聖女の職務に、貧しい人の話を聞くことが含まれていたのは先ほどミラから聞いて知ったばかり。

 教会での炊き出しがあることは、お母様から聞いて、今知りました。

 仮に知っていたとしても、陛下から王宮から出ることを禁止され、会える人間を制限されていたのでできませんでしたが……。

「お父様、お義母様、それには理由が……」

「うるさい!

 お前が聖女の職を失い王太子との婚約を破棄された事実に変わりはない!

 公爵家の顔に泥を塗りおって!

 リアーナ、お前のような不出来なわしの娘ではない!

 本日ただ今をもってお前を勘当する!」

 お父様は額に怒りマークを浮かべ私を罵った。

「ミラが王太子殿下のご機嫌をとってくれなかったら、公爵家はどうなっていたことか……。

 優しくて賢いミラに感謝しなさい」

 お義母様は、眉を釣り上げ私を睨みつけた。

「リアーナ、今すぐこの屋敷から出ていけ!

 二度と公爵家の敷居をまたぐな!」

 お父様は苦虫をかみ潰した顔でそう言い放つと建物の中に戻っていった。

「お金は体でも売って稼ぐのね!

 もっともそんなに臭い体では、農夫すら寄り付かないでしょうけど!

 オホホホホ」

 お義母様は高笑いをしながら、戻って行った。

 二人が去った後、執事が無表情で扉を閉めた。


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