改2話「妹に最高聖女の地位と婚約者を奪われました」
王太子殿下との婚約は陛下が決めたもの。
なので、王太子殿下に恋愛感情はない。
婚約を破棄されるのは別に構わない。
だけど、聖女の仕事は別。
腹違いでもミラは妹。
十四歳のミラに、全てを押し付けて王宮を去るわけにはいかない。
結界がなくなったら、国内に魔物が侵入し、民の生活が脅かされる。
結界を張るために、ミラが無理をして倒れたら……。
だからせめて聖女のお仕事は続けさせてほしい。
最高聖女でなくてもいい。
普通の聖女、いえ聖女見習いでもいいから……！
「フン、ちょっと魔力量が多いからって調子に乗るなよ！
リアーナ、お前は自分がいなくなったら結界が張れないと思っているようだな？」
事実なので否定はしない。
「だか、それは自惚れだ！
ミラの左手を見ろ！」
王太子殿下に言われ、妹の左手に目を向ける。
ミラの左手の薬指でキラキラと輝く黄金の指輪。
まさか、あの指輪は……！
「アンドヴァラナウト……？」
「そうだ！
父上が学者たちに作らせていた魔力を百倍にする黄金の指輪！
アンドヴァラナウトだ！！」
国王陛下がアンドヴァラナウトを作らせていたのは知っていた。
陛下はアンドヴァラナウトを私にくださると……。
「まるでアンドヴァラナウトは自分のものとでも言いたげな顔だな？
父上は常々お前よりもミラを可愛がっていた！
『ミラは気立ての良い優しい子だ！ 幼いのに聖女の務めを果たしているなんて素晴らしい！ ミラのような少女は他にいない！』
と言って彼女を褒め称えていた！」
明るい性格で社交的なミラは、皆から好かれていた。
お父様からも、お義母様からも、王太子殿下からも、民からも……。
国王陛下も……やはりミラの方が可愛いのですね。
「アンドヴァラナウトは怠け者のお前より、働き者のミラに相応しい！」
王太子はふんぞり返り、鼻の穴を広げ、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「それは国王陛下のご意思ですか？」
「そうだ！
これは国王である父上のご意思だ！
魔力を百倍にするアンドヴァラナウトがあればミラにもこの国を覆う結界が張れる！」
仮に私の魔力が普通の人の百倍だと仮定し、ミラの魔力が普通の人の二から三倍だと仮定する。
二〜三✕百＝二百〜三百。
完全にミラの魔力量が私の魔力量を超える。
それだけの魔力があればミラ一人でも結界を維持することは可能だ。
「ようやく自分の立場を理解したようだな？
リアーナ、お前は用済みだ！
去ったと王宮から出ていけ！」
王太子殿下は声を荒げ、出口を指差した。
「国王陛下はどちらにおいでですか？
ここを去るにしても、最後に陛下にご挨拶してからにしたいです」
王宮を去る前に、お世話になった陛下にご挨拶をしたい。
「父上は不在だ！
父上は、お前の顔すら見たくないとよ！」
国王陛下は私の魔力量を認め、最高聖女の地位を与えてくださった。
母が亡くなり、父が再婚したばかりで、家に居場所がない私のために、王宮に部屋を与えてくれた。
私の絵を褒めて下さり、聖女の仕事の合間に絵を描くことを許可してくださった。
城を出る前に一言お礼を伝えたかった。
陛下が不在なのはとても残念です。
「王太子殿下、今までお世話になりました。
ミラ……いえ、最高聖女様、あとは宜しくお願いします」
私は深々と頭を下げた。
