26話「現れる異変」ざまぁ回
「申し上げます! 炊事場にあった炎をまとったトカゲの絵と、鍛冶工房にあったドワーフの絵が消えました! 炊事場と鍛冶工房では火が熾せなくなり、料理が作れず、剣も槍も打てません!」
「申し上げます! 靴工房にあった靴職人の妖精の絵が消失しました! 靴職人が革を裁断するとき包丁で手を切り、靴ハンマーで手を打ち付け、怪我人が相次いでおります!」
「申し上げます! アンドヴァラナウトの指輪の研究施設にあった首だけの老人の絵が跡形もなく消滅しました! 研究者たちが馬鹿になり、簡単な算術すら出来なくなってます!」
「申し上げます! 訓練場にあった右腕のない男の絵が消散! 騎士たちが剣もまともに振れなくなっております!」
「申し上げます! 馬小屋にあった八本足の馬の絵が消失しました! おとなしかった馬たちが急に暴れだしました!」
「申し上げます! 豊穣の神の絵が消え失せました! 各地より冷害や水害などで農作物に多大な被害が出ているとの報告が入っております!」
「申し上げます……!」
「もうよい!」
衛兵たちが入ってきてはリーゼロッテの絵が忽然と消えた事、それによる兵の弱体化や馬が暴れるなどの被害が出ている事を報告していく。
「リーゼロッテが消えたことで、絵も消えるとは……!」
国王は玉座に力なく座り頭を抱えた。
リーゼロッテの描く絵には神や精霊が宿っていた。それによりハルシュタイン王国は富を得ていた。
鍛冶工房で打たれた武器は攻撃力が高く、靴工房で作られた靴は美しく高値で取り引きされた。フレイ神の影響で農産物は毎年豊作、ニョルズの加護で海の恵みが豊かで、安全な航海が保証され他国との貿易が盛んだった。
兵士が負け知らずなのはチュール神の冥護によるもので、馬が大きくて毛艶がよく足が速いのはスレイプニルの冥加だった。
神や精霊の冥護を受けハルシュタイン王国は発展してきた。だがこれからはそうはいかない。
リーゼロッテを無一文で叩き出したことで、ハルシュタイン王国は神や精霊から見捨てられたのだ。
アンドヴァラナウトの指輪でリーゼロッテの魔力量を増やし、大陸中の結界を張らせようとしていたことにも神や精霊は怒っていた。
「船を出しリーゼロッテを連れ戻せ!!」
「しかし海は大時化です」
「そんなことは知らん! さっさと船を出せ! ブルーメ大陸に渡りルーデンドルフ帝国からリーゼロッテを攫ってでも連れ戻せっっ!!」
国王の無茶振りにより、いくつもの船がブルーメ大陸を目指して出港し、海の藻屑と消えた。




