25話「消えた絵、悪天候、大時化の海」ざまぁ回
数時間後、リーゼロッテの行方を追っていた衛兵が戻ってきた。
「報告します! リーゼロッテ様はニクラス公爵家を出たあと港に向かい、港から船に乗ったようです!」
「船だと? 乗船券はどうした? リーゼロッテは金を持っていなかったはすだ!」
国内にいると思っていたリーゼロッテが、海外にいると分かり国王は焦った。
「偶然知り合った夫婦と仲良くなり、乗船券を買ってもらったそうです」
国王は「余計なことをした奴がいるものだ! 見つけ出して八つ裂きにしてやる!」と呟き拳を強く握り壁を殴った。
「それでリーゼロッテはどこに向かった!」
「はいブルーメ大陸のルーデンドルフ帝国行きの船に乗ったようです」
「ルーデンドルフ帝国だと……!」
国王はリーゼロッテの実母がルーデンドルフ帝国の側妃と仲良くしていたこと。ルーデンドルフ帝国の第四皇子がニクラス公爵家に遊びに来たことがあると元ニクラス公爵が話していたことを思い出した。
リーゼロッテの価値に気付いた国王はリーゼロッテの実母を殺し、王太子へーウィットと婚約させ、最高聖女として幽閉に近い形で城に住まわせた。
ルーデンドルフ帝国の側室と仲の良いリーゼロッテの母親を殺しルーデンドルフ帝国との縁を切ったのに、十年経過してもその縁が続いていたとは……!
国王は苦虫を噛み潰し、床を蹴り飛ばした。
「ルーデンドルフ帝国の皇族を頼ったか……くそっ! 皇族に保護されていると厄介だな!」
国王は眉間に深いしわを作り、奥歯をギリリと噛み締めた。
他国の皇族に保護されている者を無理やり連れ戻せば戦争になる。別の知り合いを頼り海を渡ったことを願った。
だがずっと王宮に籠もっていたリーゼロッテに、他に知り合いがいるとも思えない。
「リーゼロッテがどこに逃げていても構わん! 泣き落としでも、脅迫でも手段は問わない! リーゼロッテを連れ戻せ!! リーゼロッテさえ連れ戻し結界さえ張ってしまえば、ルーデンドルフ帝国などどうとでも出来るわ!!」
元ニクラス公爵夫妻とミラを人質にすればリーゼロッテは必ず帰ってくる。
心優しいリーゼロッテは家族を見捨てられない、自国にさえ連れ戻せれば結界を張らせるのは簡単だ……国王はそう考えていた。
その時別の兵士が玉座の間に入ってきた。
「申し上げます! 船着場にあった海神ニョルズの絵が消えました!」
「なっ、何……!」
リーゼロッテの描いた海神ニョルズの絵は、航海の安全を願い船着場に飾ってあった。
リーゼロッテの描いた絵には神や精霊の力が宿る。それを知っていた国王は結界を張る為に神殿を訪れる時間以外はリーゼロッテに絵を描かせていた。
リーゼロッテは絵を描くのが好きなので、無理やり描かされている感覚はなく、楽しんで描いていたが。
国王は絵の価値を知る何者かに、絵を盗まれたと推測した。
「消えたとはどういうことだ! 額ごと盗まれたのか?!」
「いえ、額縁もキャンバスもそのままです。中身の絵だけが魔法にかかったように消え、キャンバスが真っ白になっているのです!」
「そんな馬鹿な……!」
額縁もキャンバスもそのままなのに消しゴムで消したみたいに絵だけが消えた。にわかには信じがたいことだが、リーゼロッテが国を出たことに関係しているなら、あり得ない話ではない。
「申し上げます! 海が大荒れに荒れており船を出すことは不可能です!!」
「なんだと……!」
別の衛兵が入ってきて海が荒れていることを国王に報告した。
国王には海神ニョルズの絵が消えたことと、海が荒れていることが無関係には思えなかった。
「絵を調べろ! リーゼロッテが描いた絵全てだ!! それと絵の飾ってあった場所の異変も報告しろ!! ニョルズの絵が消えたのだ、他の絵も消えた可能性が高い!」
国王は怒鳴りつけるように衛兵に命じた。
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