21話「王太子へーウィット、パニクる」ざまぁ回
自室にいた王太子へーウィットは、神官長からの知らせを聞き愕然とした。
「結界を張っている途中でミラが倒れた!? 結界が王都にしか張れていないだと?」
へーウィットの顔はみるみる青ざめていく。
「なぜだ! ミラは魔力が百倍になるアンドヴァラナウトの指輪を身に着けていた! 魔力が人より多いミラがアンドヴァラナウトの指輪を着けて水晶に手をかざせば、国中に結界を張るなんて朝飯前だろ!」
元最高聖女だった姉のリーゼロッテには遠く及ばないが、ミラも聖女の中では魔力量が多い方だった。
「リーゼロッテの魔力量が多かったと言ってもミラの百倍程度だろ? 魔力量を百倍にするアンドヴァラナウトの指輪で十分補えたはずだ!」
「恐れながら、リーゼロッテ様の魔力量がミラ様の百倍以上あったとしか申し上げられません」
そういった年若い神官長の顔は青白く体が小刻みに震えていた。
神官長も他の神官や聖女たちも、リーゼロッテの魔力量はミラの百倍程度だと思っていた。
アンドヴァラナウトを装備したミラが、国中に結界を張れないのは想定外の事態だった。
「馬鹿な……! リーゼロッテの魔力量はいったいどれほどだったというんだ……!」
へーウィットはリーゼロッテに国外追放を命じたことを後悔した。
「こんなことになるならリーゼロッテが国に残り結界だけは張らせてほしいと言ったとき、拒否するんじゃなかった……!」
へーウィットは唇を噛んだ。
「だがおかしいぞ、リーゼロッテが王宮を出て一週間になる、今までは結界はなんともなかったじゃないか!」
「推測ですがこの一週間はリーゼロッテ様が水晶に注いだ魔力が残っていたため、結界が維持出来ていたものと思われます」
「まずいことになった……!」
へーウィットは額から汗を流し独り言を呟いた。
結界があったからハルシュタイン王国は魔物の被害に苦しむことも、他国の侵略に怯えることもなく、平和を維持してこられた。
「神官と聖女全員で水晶に魔力を込めろ! 結界を張り直すんだ!」
「かしこまりました!」
神官長は王太子に頭を下げ、部屋を出て行った。
リーゼロッテが最高聖女になる前は、百人の聖女が水晶に魔力を込めていた。
リーゼロッテが最高聖女になってからは、一人で結界が張れたので、前任者はお役御免になった。
百人分の仕事を一人でしていたので、リーゼロッテの魔力量は通常の聖女の百倍程度だと思われていた。
しかし先代の聖女たちは命の炎を燃やし、寿命を削りながら仕事をしていたのだ。
国王からお役御免を言いつけられたとき、彼女たちは長生きできることに感謝した。しかし秘密の漏洩を恐れた国王により離宮に幽閉され、暗く狭い部屋で余生を終えた。
箝口令が敷かれていたので聖女たちが命を削り水晶に魔力を込めていたことは、国王と先代の神官長しか知らない。
代替わりするときに伝えられなかったため、今の神官長は先代の聖女たちが命を削っていたことを知らないのだ。
リーゼロッテにもこの事は知らされていない。知っていたら優しいリーゼロッテは、妹を残しこの国を去らなかっただろう。
「申し上げます! 国王陛下が帰国なさいました! 王太子殿下に至急玉座の間まで来るようにとの仰せにございます!」
部屋に入ってきた衛兵の言葉に、へーウィットの顔は青から白に変わる。
へーウィットは「終わった……」と力なく呟いた。
国際会議に出席するため隣国に行っていた国王が帰国した。
今いる神官や聖女では元の通りに結界は張れない。魔力量も数も足りていない。
へーウィットは完全に詰んでいた。
しかし事態はへーウィットの予想を遥かに超えていた。
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