19話「新しい部屋」
「ここがリーゼロッテの部屋だ」
「えっと……?」
アルドリック様に案内され連れて来られた部屋は、ハルシュタイン王国で与えられていた部屋の十倍の広さがありました。
職人さんが魂を込めて作ったと思われるタンス、美しい生花が生けられた花瓶、きらびやかなシャンデリア、白いレースのカーテンがかかった天蓋付きのベッド。
クローゼットの中には色とりどりのドレスがぎっしり詰まっていて、引き出しの中にはアクセサリーが整然と並んでいました。
確かこのドレスは今帝国で流行しているドレスです。
流行のドレスやアクセサリーについての知識は、ゲレさんから教わっています。
なのでここにあるものの価値もだいたいわかります。
どのドレスにもリボンやフリルが沢山ついていてとても美しいです。
クローゼットの中には、ドレスの他にも沢山の装飾品が入っていました。
リボンの付いたチョーカー。
サファイアが付いた髪かざり。
真珠のネックレス。
ダイヤモンドのイヤリング。
華やかなデザインの扇子。
大きなサファイアの付いた指輪。
アメジストの付いた腕輪。
黒真珠の耳飾り。
エメラルドのブローチ。
ルビーの付いたリボン。
花やリボンが付いた帽子。
美しいデザインのハイヒール。
それらが綺麗に並べられていました。
「あの……この部屋本当に使っていいのでしょうか?」
十年間カーテンと小さなベッドと簡易のテーブルと椅子しかない部屋に住んでいたので、この部屋は私には眩しすぎます。
「もちろんだよ! リーゼロッテのために用意したんだから!」
アルドリック様が黒檀色の目を細めます。
「私は今日先触れもなく訪れました、お部屋はともかく、ドレスやアクセサリーはこの短時間でどうやって用意したのですか?」
職人さんが一針一針魂を込めて縫い上げたと思われるドレスや豪華なアクセサリーは、そう簡単に手に入らないような。
「もしかしてどなたかがお使いのお部屋だったのでしょうか?」
アルドリック様は皇太子、婚約者候補の一人や二人いたとしてもおかしくありません。その方が住んでいたお部屋だったのでしょうか……?
「皇太子殿下はいつリーゼロッテ様が訪ねて来てもいいように、毎年ドレスやアクセサリーを新調していたのですよ」
「えっ……?」
アルドリック様が私の為に?
「バラすな! カイル!」
アルドリック様が眉間にしわを寄せ、カイル様をお叱りになる。その顔はほのかに赤い。
「長年主を待ち続けた部屋です、十年前からリーゼロッテ様のお部屋だったと言っても過言ではありません。住んで上げてください」
「本当ですか? アルドリック様」
アルドリック様に尋ねると、顔を手で覆い視線を逸らされた。その顔はトマトのように真っ赤でした。
「……リーゼロッテがハルシュタイン国の王太子と婚約したのは知っていた。それでも諦めきれなくて、いつかリーゼロッテが何らかの理由で王太子と婚約を解消して我が国を訪ねて来ることがあったら使って貰おうと思って……身一つで来れるようにいろいろと準備していた」
「気持ち悪いですよね〜」
カイル様がからかうように言う。
「……すまない、重いよな……気色悪いと思われても、仕方ない……」
アルドリック様は耳まで真っ赤にされていた。
お母様が亡くなったあと、私を気にかけて下さる方はもう現れないと思っていました。
国王陛下は聖女の仕事をこなす私を労ってはくださいましたが、それは主君が臣下を労う類のものでしたから。
聖女としてではなくリーゼロッテ個人として大切にして下さったのは、アルドリック様だけかもしれません。
「いいえとっても嬉しいです、ありがとうございます」
にっこりと笑ってお礼を伝えると、アルドリック様は顔をほころばせ深く息を吐きました。
「良かった、リーゼロッテに嫌われたかと思った」
「私がアルドリック様のことを、嫌いになるなんてありえません」
アルドリック様がまたお顔を真紅に染めました。
私何か変なことを言ったでしょうか?
「皇太子殿下、リーゼロッテ様は長旅でお疲れのようです。休ませてさし上げてはいかがですか?」
「そうだな、リーゼロッテがいつでも絵が描けるようにアトリエも用意してあるんだ、明日案内する」
「まぁアトリエを……!」
ドレスや宝石を見たときより気分が高揚しています。
「侍女を手配する、リーゼロッテのお風呂や着替えの世話は私では出来ないからな。今日はゆっくり休むといい」
「何から何までありがとうございます」
私に侍女が付くのも子供の頃公爵家で暮らしていたとき以来です。
こんなによくして頂いていいのでしょうか?
幸せすぎて申し訳ないです。
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