16話「ずっとここにいていいんだよ」
テーブルの上には華美なティーセットとハーブティー、それから色とりどりのマカロンが並んでいます。
「そうか、そんなことがあったのか……」
私はアルドリック様に尋ねられ、ルーデンドルフ帝国に来たいきさつを説明しました。
「許せないな! 十年間国全土を覆う結界を張り続け国防と国の発展に大きく貢献してきたリーゼロッテを評価し大切にするどころか、罵詈雑言を吐き、蔑み、ないがしろにし、婚約を破棄し、国外追放にするだなんて!!」
アルドリック様の額には青筋が浮かんでいました。
「それでリーゼロッテはこれからどうするつもり?」
「幸い回復魔法を使えますし、特技を活かして働こうかと」
「それなら王宮で働くといいよ、私が紹介状を書いてあげる」
「そんな、アルドリック様にご迷惑をおかけするわけには……!」
「水臭いことを言わないでくれ! 私達は幼い時からの友達だろ? どんどん頼ってくれ! リーゼロッテが望むなら永遠にここにいて構わない!!」
アルドリック様が私の手を取る。
「お友達……」
「十年間君が辛い思いをしているのに何もしてあげられなかった。君の母親が亡くなった時も側にいて支えになってあげたかったのに、何も出来なかった。私は君の力になりたいんだ! これからは何でも相談してほしい!」
ハルシュタイン城にいたときこんなに優しい言葉をかけてくださる方はおりませんでした。
国王陛下がたまに絵を褒めてくださいましたが、基本的に私は一人でした。国王陛下は私が他者と関わると良い顔をしませんでしたから。
アルドリック様の言葉が胸に染みる。
「お言葉に甘えてもいいのでしょうか?」
「うん、どんどん甘えて! 私に頼って!」
アルドリック様がにっこりとほほ笑まれた。アルドリック様のお顔が近づいてくる……びっくりして瞳を閉じてしまう。
「あー……ゴホン! ゴホン! お二人ともちょっと距離が近くありませんか?」
アルドリック様のお付きの方の咳払いで、我に返る。咳払いしたのは部屋に入った時からいらした真空色の髪の青年です。
目を開けると鼻先が触れ合うほど、アルドリック様のお顔が近くにありました。
どうにも幼い頃の距離感が抜けません。相手は一国の皇子様、もう子どもではないのですから距離感に気をつけなくては。
「カイルいたのか」
アルドリック様が天色の髪の青年をカイルと呼びました。軍服の青年のお名前はカイル様というのですね。
「もちろんです、婚約者でもない女性と殿下を二人きりにするわけには参りませんから。皇太子殿下、長年片想いしていた相手が現れて嬉しいのは分かりますが、手順をすっ飛ばして暴走しないでください」
「なっ……?」
「ふぇっ……?」
カイル様がアルドリック様を【皇太子殿下】と呼びました。
アルドリック様は第四皇子だったはずですが……。
「なっ、カイル何を言い出すんだ! リーゼロッテ違うのだ、いや違くはないのだが……私がリーゼロッテを慕っていたというのはその……」
「おめでとうございます」
「はっ?」
「アルドリック様、立太子されたのですね、おめでとうございます。お祝いが遅くなって申し訳ありません」
アルドリック様が皇太子になられていたなんて、王宮で引きこもり生活を送っていたので知りませんでした。あの頃は外界の情報がほとんど入って来ませんでしたから。
第四皇子様というだけでも平民の私とは身分の差があるのに、立太子されていたなんて。アルドリック様がますます遠い存在になってしまいました。馴れ馴れしい態度は慎まなくては!
「えっ……と気になるところはそこか?」
「はいっ?」
アルドリック様が額に手を当て茫然としている。
「リーゼロッテ様の前では皇太子殿下もたじたじですね、リーゼロッテ様は手強いですよ。殿下どうなさいますか?」
カイル様が口に手を当てクスクスと笑う。
私何かおかしなことを言ってしまったでしょうか??
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