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15話「皇太子アルドリック・ルーデンドルフ」



門番さんが門を通してくださり、宮殿まで案内してくださいました。


もう一人いらした門番さんが、私が来たことをお城に知らせに走りました。


今の私はニクラス公爵家の令嬢ではなく平民。アルドリック様からのお手紙を持っていたとはいえ、私などを簡単に通して良かったのでしょうか? 門番さんが後でお叱りを受けたりしないといいのですが。


手入れの行き届いた広い庭園をしばらく歩くと、宮殿に着きました。


青い屋根に白い壁の壮麗なお城。


建物の入口に年配の執事さんが立っておりました。その方は執事長さんで、執事長さんがアルドリック様のお部屋まで案内してくださるそうです。


門番さんにお礼を言って別れ、執事長さんの後について歩きます。


豪華なシャンデリアが飾られた玄関ホールを抜け、階段を登り、きらびやかな絵画が飾られた廊下を歩いた先に、その部屋はありました。


美々しい彫刻が施された木の扉を執事長さんがノックをし用向きを伝えると、「入れ」と涼やかな声が聞こえました。


今のがアルドリック様のお声でしょうか? 以前アルドリック様とお会いしたとき、アルドリック様は八歳でした。私は声変わり前のアルドリック様のお声しか知らないのです。


それはアルドリック様も同じこと。成長した私を見てアルドリック様はどう思うかしら?


扉の向こうにアルドリック様がいると思うと、胸がドキドキしてきました。


執事さんがドアを開けると、懐かしい顔が目に入りました。


髪は烏の濡れ羽色の髪、黒真珠の瞳、陶磁器のように白く美しい肌。


思い出の中の少年より身長がかなり伸び、顔つきが大人びて、纏う雰囲気が凛々しくおなりですが、見間違えるはずがありません。


「アルドリック……様!」


「リーゼロッテ! リーゼロッテなんだね!」


アルドリック様が大股で近寄ってきて、私を抱き上げ、その場でくるくると回り始めました。


「月のように煌めく銀色の髪、紫水晶のように輝く瞳、雪のように白くきめ細やかな肌! 懐かしい! 全然変わってないねリーゼロッテ!」


「アルドリック様もお変わりなく……!」


アルドリック様はあの頃より精悍な顔つきになられ、勇壮で男らしく、皇族としての気品を(まと)い神々しくなられました。でも本人を目の前にするとなかなか言えません。


「リーゼロッテはその……綺麗になった」


アルドリック様の端正なお顔が朱色に染まる。


「……えっ?」


えーと今の【綺麗】は何に対しての感想なのでしょうか?


アルドリック様は幼い頃私の描いた絵を【美しい】【可愛い】と褒めてくださいました。


今は絵を持っていないですし……私が身に着けているもので褒められるものは……? 服しかありませんね。 アルドリック様はロイヤルブルーのドレスを綺麗だと褒めてくださったのですね。


ドレスを貸して下さったゲレさんにお礼を言わなくては。


「よろしいですかアルドリック様、廊下でリーゼロッテ様のお連れの方が固まっていらっしゃるのですが」


部屋の隅にいた軍服を身に纏った青い髪の青年がゴホンと咳払いし、廊下をちらりと見ました。


「そうだったのか、すまないリーゼロッテ。君と再会出来たのが嬉しくて舞い上がってしまった」


アルドリック様が床に下ろしてくださったので、アルドリック様から距離を取る。


「いえ、こちらこそ失礼いたしました」


もう幼い頃とは違うのですから、むやみに体に触れてはいけませんよね。幼なじみとはいえこちらは平民、相手は皇子様なのですから。


「再会したところからやり直そう、よく来てくれたリーゼロッテ歓迎するよ!」


「お久しぶりですアルドリック様、先触れもなく訪ねたのにも関わらず、面会して下さりありがとうございます」


私は淑女の礼に則りカーテシーをする。


「して、そちらの方々は」


「紹介します、王族の専属の鍛冶師のデリーさんと、王族専属のお針子のゲレさんです。お二人とはハルシュタイン王国の港で知り合ったのですが、道中大変助けていただきました。私がブルーメ大陸に来られたのはお二人のおかげです」


無一文の私を船に乗せて下さり、ご飯を食べさせて下さり、お風呂に入れて着替えの服を貸して下さった。ブルーメ大陸に着いてからは帝都まで同行してくださった、優しくて親切なご夫妻。お二人には足を向けて寝られません。


廊下にいるデリーさんとゲレさんを見ると、口を大きく開けたまま固まっていました。何か衝撃的なことでもあったのでしょうか?


「そうかリーゼロッテが世話になった、私からも礼を言おう」


デリーさんとゲレさんは周章狼狽(しゅうしょうろうばい)していました。


「リリリリリ……リーゼロッテ……様? アアアア……アルドリック殿下と……お、お知り合いで……?」


ようやく動けるようになったゲレさんが、どもりながら尋ねてきます。ゲレさんの体が小刻み震えています、寒いのでしょうか?


「はいアルドリック様のお母様と、私の母がお友達だったので、アルドリック様と私は幼友達なのです」


「会うのは十年振りだね」


にこやかに話す私達を見て、デリーさんとゲレさんが倒れてしまいました。


「リ、リリリ……リーゼロッテがアルドリック殿下のお友達……! あわわわわわ……えらいことに……!」


「リーゼロッテ様の恋人への失言の数々……! オオオ……オ、オレたち無礼討ちにされる……!」


急いで駆け寄ると、お二人は口から泡をふいてました。


「大変! 最大(マクシムム)回復ベッセルング! 最大(マクシムム)回復ベッセルング!」


すぐに回復魔法を唱えましたが、お二人は目を覚ましません。


「どうしましょう……!」


「大丈夫だ精神的なショックで気を失っただけだろう。執事長二人を医務室に運べ、リーゼロッテの恩人だ丁重にな」


「承知いたしました」


執事長さんが仲間を呼び、デリーさんとゲレさんを担架に乗せ運んでいきました。



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