計画
「今後のことを考えよう」
そう言って、ミツルはリュックからノートとシャーペンを取り出す。
自転車の横に座りかけた瞬間。
視界が揺れて周りの世界がスローモーションになる。
立っていることができなくなる。
地面に膝をつく。
ゴォォォォと耳鳴りもする。
俺は死ぬのか?
そう考えて、ミツルを見る。
するとミツルも同じように地面に転がっている。
俺だけじゃなくて、世界が揺れている???
「地震だ!」
ミツルの声にハッとする。
自転車が大きな音を立てて倒れる。
かなり大きい。
そして長い。
永遠にも感じる揺れはしばらくするとおさまる。
無事乗り切れたことに安心して地面に突っ伏す。
「大丈夫か?」
ミツルに問いかけるが返答がない。
「ミツル?」
彼のみている方向には川がある。
何かおかしなところは??
川の方を見ると血の気が引いた。
「ボ、ボーッとしてる暇はねぇ。逃げるぞ」
ミツルの肩を叩くと、彼も正気に戻る。
ミツルは鍋を、俺は枕にしていた少女漫画とぬいぐるみをリュックに突っ込む。
何が起きたのか。
川の水が引いていた。
下流に向かって、凄い勢いで引いている、
川底が見えそうだ。
そう。これは津波の前兆だ。
川の向こう岸にある山に今ならいける。
走って逃げようとする俺にミツルは
「移動手段は持っておくべきだ」
と言う。
幸い、二人の自転車はマウンテンバイク。
通学路に坂道が多い彼らの学校は、
通学用の自転車に制限をかけていなかった。
邪魔にはならないだろうーそう判断して山へと急ぐ。
段差に苦戦しながら自転車を押して川を走り抜ける。
川の水は、もうほとんどない。
山の前で立ち止まる。
登山道は、ここから1キロほど下流にある。
「どうする?」
「そこまでいく余裕はない」
俺の言葉にそう答えたミツルは山へと入っていく。
「マジか」と言いながら俺は追いかける。
山は、鬱蒼と生い茂る。
ひたすら高いところへとミツルは無言で登り続ける。
そうして登ること5分。
ゴォォォォォ。
聞いたことのないような音とともに水の音が聞こえてきた。
木々の隙間から見えた波の大きさは想像よりも遥かに高かった。
「まだ俺たちのいる場所は低い。走れぇぇぇぇぇぇぇ」
ミツルが絶叫する。
山頂を目指して俺たちは走る走る。
そうして走ることさらに3分。
山頂に達した。
山頂は開けた丘のようになっている。
周囲を見渡すとそこにはこの世のものとは思えないような光景が広がっていた。
見渡す限り濁流しかない。
街全体が黒く高い波に覆われていた。
その日見慣れた街は消滅した。
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