煮沸
「ふわぁぁ」
もうすっかり朝だ。
「なんでこんなところで寝てるんだ?」
とつぶやきが漏れる。
そうして考えること10秒。昨日の記憶が蘇る
完全に覚醒した。そうだ、ミツルはどこだ?
あたりを見渡す。
すると少し離れたところで寝ているミツルがいた。
起こしに行こうと歩き始めると、
ミツルのそばに石が積んであることに気づく。
なるほど、煮沸の準備か。
ライターと俺のプリントを使って火は簡単におこせる。
あとはその火をキープする方法。
薪? いや、簡単には入手できない。
小枝を集めるしかないのか。
視線は、川の向こうの山に向かう。
渡ろうとは思わない。
それは、この地域の川の浅さに慢心して
毎年多くの人が命を落としていることを
マコトたちは、学校の先生から耳にタコができるほど
聞いていたからである。
となると、草か。
河川敷には雑草が生えている。
ど田舎の街では、河川敷の草刈りに出す金などない。
放置されるのは必然だった。
その辺に生えている草は腰くらいの高さがあるのに簡単に引き抜ける。
このあたりの地面は柔らかい。
草の根は川で洗って泥を落とす。
積まれた石の隣に草を積み上げる。
抜いて洗って運んで積み上げる。
この動きを繰り返すこと数十回。
身長くらいの高さまで草が、積み上がっていた。
多すぎたな。
そう結論づけて川に向かったその瞬間、
「ざぁ〜」と音を立てて草の山が崩壊する。
ミツルが下敷きになる。
急いで掘り起こす。
「おはよう」ミツルに声をかける。
「寝起きの男の顔ほど気色悪いものはない」
と返答しながらミツルは起き上がる。
「なんだ、この草は」
「いや、火を使うんだろ」
「長すぎるし多すぎるだろ」
確かに言われてみれば、
この草の長さでははみ出してしまう。
「半分に切るか」と俺が呟くと
ミツルは、「この量をか!?」と驚きの声を上げる。
そう言いつつも、ミツルは黙々と大量の草を切ってくれた。
そうして切ること1時間。
ようやく最後の束を切り終え、腕に巻いた時計を見ると時間は朝10時。
自転車の横にある鍋には8割くらいの水が入っていた。
ミツルが鍋を持ち
それを石の横へと運ぶ。
「沸かした水は、どこに入れる?」
ミツルは俺に問いかける。
「どこって水筒に決まってるだろ」
俺がそう答えるとミツルは
「ダメに決まってるだろ。俺の大好きな麦茶が入っているんだぞ」.
と憤慨する。
「透明な麦茶とは珍しいもんな」
そう答えると、
「透明? 俺の大好きな麦茶は焦げ茶色だぜ」
そう言いながら、水筒を取り出すが、その中身は透明。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ」
どうやら彼は、昨日水筒をちゃんとみていなかったらしい。
俺の水筒の中身も見える限り透明。
2人とも謎の透明な液体を飲むには、抵抗があったし、幸い喉は乾いていない。
川へとその液体を流して2人は鍋を見る。
「よし、加熱しよう」
ミツルがリュックからライターを取り出し、
俺は、10枚のテストを取り出す。
見たくもないテストをクシャクシャに丸めて積んだ石のところに放り込む。
ミツルがそれに火をつける。
カチャッという乾いた音と共に火がつく。
先程の草を少しずつ放り込んでいくと火が安定してきた。
その上に鍋を置いて待つこと数分。
グツグツと音がしてきた。
「少しは殺菌になるだろう」
沸騰する水の上で先程の水筒の口を下にして蒸気を水筒の中に入れる。
それが終わると沸騰して2〜3分経ったお湯を水筒に少し注ぎ入れ、一度捨てた。洗浄の代わりだろうか。
次にミツルは
お湯を水筒に注いで鍋に戻す動作を何度か繰り返した。
「何をしているんだ?」俺が聞くとミツルは
「冷ましているんだ」と答えた。
そうして水が完成した。
喉が不思議と渇いていない俺とミツルはまだ飲んではいないが飲料水の完成を喜んだ。
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