ろ過
「飲み水を得よう」
どうやって得るか。その方法を2人は考えていた。
川の水を生で飲むと細菌の危険性があるのは知っている。ところが「それをどう殺菌するか」という点で、
2人の知識は一般人のそれをこえることはない。
「ろ過」と「煮沸」
検討を重ねた2人は両方を実践することにした。
空には満点の星空。
月は天頂にさしかかろうとしていた。
何も飲まず食わずの二人は、
不思議と空腹も、のどの渇きも感じていなかった。
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「まずはろ過装置を作ろう」
そう言ってミツルはリュックからティッシュと1.5Lペットボトルを取り出した。それを見て、俺はリュックからはさみとマスクを取り出す。
まず、ミツルは俺からはさみを受け取ると
ペットボトルの底を切り始める。
俺は自分のおぼろげな記憶をたどりつつ、
丸くきれいな小石を集める。
下流であることも幸いし、すぐに必要な量が集まる。
俺が小石を川の水ですすぎ洗いをして間に
ミツルはペットボトルを逆さまにして
キャップ側を下にし、ティッシュを敷き詰め始める。
そこで俺はミツルに声をかける。
「おい! それは水に流せるティッシュだ!」
「しまった!」
ミツルはすぐにその意図に気づく。
ろ過装置の最下層部のティッシュが水にとけやすくては、不純物が混ざりかねない。
俺は自分のリュックから箱ティッシュを取り出し渡す。
「なんでお前箱ティッシュ持ってるんだ?」
ミツルの問いに笑いながら返答する。
「内職を隠すためさ」
「お前本当にぶれないな」
そんな会話の間にミツルはティッシュを詰め終わる。
ミツルからペットボトルを受け取り、小石を入れると俺は思った。
(これでは隙間がありすぎる。何かが足りない)
最初はこの上にマスクをかぶせれば完成だと思っていた。だが、それでは明らかに隙間が広く不純物は取り除けない。
「ミツル、何が足りないと思う?」
「『砂』じゃないか?」
「そうか。俺は砂利だと思うのだが……どっちにしよう?」
「両方入れてみたらどうだ?」
言われてみれば、どちらかに絞る必要はない。
両方入れることにした。
そうして探して詰めること30分。
ろ過装置の中身は下から順にティッシュ→小石→砂利→活性炭マスク→砂→活性炭マスクの順になっている。
「マコト、何かで蓋できないか?」
そういわれて、ハンカチをぎゅうぎゅうと押し込む。
「よし。完成だ」
こうして、ろ過装置らしきものが出来上がった。
ろ過装置に水を注いで自転車のまえかごにくくりつけて放置する。朝までにはろ過装置の中身もきれいになるだろう。こうしてろ過装置を完成させた俺たちは眠気を感じる。
ミツルに「交代で寝よう」と提案する。
ミツルは、「先に寝ろ」と俺に言って
何かを考え始めたようだ。
お言葉に甘えて寝させてもらおう。
寝ようとしてまた気づく。
(どこに寝よう)
アスファルトは固い。
草むらで寝れば朝露にやられる。
とりあえず、少女漫画を枕にしてぬいぐるみを腰に添えて、寝る。アスファルトの上で何もなしに寝るよりは幾分かましだろう。
そうして僕は深い眠りへ落ちていく。
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