持ち物確認①
日は完全に落ち、夜になっていた。
今の季節は春。
幸い制服とリュックと自転車は最後に記憶がある状態のまま、ここにある。
今はまだ、衣替えの前。つまり冬服。
さらに今日は文化祭の日。
仮装ができるうちの学校では、
文化祭は私服で楽しむのが定番だった。
だから、2人とも私服を持っていたのだった。
だけれども、登校は制服という謎ルール。
このルールのおかげで着替えを確保できていた。
ブラック校則がこんなところで役に立つとは…….
だが、夜の気温はまだまだ低く、顔に当たる風は冷たかった。
だからこそ、2人は我にかえって動き出した。
もし、気温が高かったら2人はそのまま思考の海を彷徨っていただろう。
(まずは水の確保だ)
2人は言葉を交わさずともまずやるべきことをわかっていた。
生物が活動を行うには水が必要である。
特に人間は、水と睡眠さえとっていれば食料がなかったとしても2~3週間は生きられる。
だが、水を一滴も飲まないと、4~5日程度で死んでしまう。
河川敷を下りて川へと向かう。
「この水は飲めるのか?」
そう言いながらミツルは水をすくう。
それに倣って俺も水をすくう。
(冷たい……)
元の世界ではこの川は清流で、ほとんど加工なしで飲めるし透き通っていた。が、やはり沢の水の独特の匂いがしている。
「このまま飲むのは危なくないか?」
未だに匂いを嗅いでいるミツルにそう答える。
「しかし、どうする。ろ過するには道具がない」
「いや、作ろう」俺はそう言った。
「まず、持ち物を確認しよう」
そう言って、立ち上がる。と、そこでふと気づく。
(あれ、どうしてミツルが遅刻ギリギリなんだ?)
歩きながら考える。
ミツルは普段から授業開始10分前には必ず学校についていた。
それが俺と同じ遅刻ギリギリなんてありえないはずだ。
「ミツル、どうして今日はギリギリだったんだ?」
「いや、持ち物を忘れてさ」
言われてみればミツルのリュックは、パンパンだ。
「何を入れてるんだ?」
そう尋ねるとミツルはおもむろにリュックから鍋を取り出した。
「いや、なんでそんなもん持ってんだよ! そんな高校生いねぇよ!」
と突っ込むと
「ほら、うちのクラス文化祭でうどん作るだろ。だから鍋が必要だろうと持ってきたんだよ」
と誇らしげに応える。
「なるほど。でも、今日は『1時間早く行く』とか言ってなかったか?」
「差し入れ買ったりしながら学校に行って、着く直前に鍋を忘れたことに気づいて家に取りに帰ってた」
「そこまでする必要ないだろ……」
鍋のために片道30分かけて往復する彼に呆れたのは言うまでもない。
そして、彼のリュックの中身はバラエティーに富んでいた。
────────────
ミツルのリュック
・私服(Tシャツ・ジーンズ・上着・靴下・帽子)
・時計
・スマホ
・鍋
・プラコップ×12
・割り箸×100が3袋
・プラスチックのお椀×4
・トング
・お玉
・1.5Lペットボトル3本
・タオル
・ライター
・ハンカチ
・ティッシュ
・お菓子の外装
・お弁当容器
・水筒
・筆記用具
・ノート×5
────────────
「なんでこんなに入ってるんだよ」
俺が聞くと、ミツルはこう答えた。
「いや、実は昨日の準備の後に買ってきて欲しいと言われていろいろ持ってきてたんだ」
「要するにパシリにされたのか」
「誰がパシリだ! 俺は自分から手を挙げたのだよ」
「社畜か」
「社畜じゃねぇよ!!!」
そんなやりとりをしながら、お弁当や菓子、ペットボトルを見るのだが……
「中身は……空?」
「いや、来る時はちゃんと入っていた」
それもそうだろう。
飴を入れてあったと思われる袋は中身が空気でパンパンに膨らんでいる。
袋が軽すぎるので試しに一つ開封してみたが中身は空。
どれだけ探しても食品はきれいさっぱりなくなっていて、ペットボトルも空。残っていたのは空の容器だけだった。
でも唯一水筒には水が入っていた。
「おぉ、あるじゃないか」
そう喜ぶとミツルは、
「美味しい自家製麦茶が入ってるぜ」
と嬉しそうに言っていた。
(じゃあなんでペットボトルは空なんだ。金属の中にあるものだけが残ったのか? どういう仕組みだ?)
俺は深く考えて、無言のままペットボトルを調べること5分。
それを見かねたミツルは言いにくそうに、
「あ、すまん。ペットボトルは装飾用だから元から空だわ」
「最初からそれを言え〜〜」
思わず手元のペットボトルで殴りそうになった。
2020.10.21 疑問符・感嘆符を追加しました。
2020.11.01 文章を整形しました。
感想やレビュー・ブックマーク等してもらえると励みになります。よろしくお願いします。