目覚め
さっきから言い争う声が聞こえている
「できるだけ多くの人を救え! とにかく生き返らせろ!」
野太い男の声。
「ダメです! この世界はもう崩壊寸前です!」
そう答える可愛らしい女の声。
しかし、俺は目も開けられないし、体も動かない。
というかフワフワしている。聞こえるのは音だけ。
あとはなんの感覚もない。
ここはどこだ? 俺は死んだのか?
そう考える間にも会話は進んでいく。
「何か方法はないのですか?」
女からの問いかけに男の声が答える
「やむを得ぬ。あの世界に飛ばせ」
その直後意識は途切れ無音の世界へと落ちていく。
────────────────
「おい、マコト。早く起きろ!」
聞き慣れた友達の声が聞こえる。
俺の体が揺さぶられている。
「あともう少し……5分だけ……ムニャムニャ……」
「そんなことしてる場合じゃねぇ」
目を開けるとそこには友達の顔があった。
「男友達に起こされるとか気持ち悪すぎだろ」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇ! 周りを見ろ」
太陽がもう天頂にある。遅刻したか?
そう考えて周りを見る。
言葉を失った。
いつもの河川敷にいるのに見慣れた町がボロボロになっている。
「なんだよ…………これ」
ようやく出てきた言葉はそれだった。
地震? 火事? いや、それにしては街の建物がボロボロすぎる。
救助も来てない。
頭をフル回転させて、記憶を探る。
まず、自分のことは思い出せるか?
★★★★★★
俺の名前は神崎誠。17歳。
ごく普通の高校3年生。
自他共に認める陰キャ。
異世界転生小説が大好き。
横にいた友達は山崎充。18歳。
俺の友達の高校3年生。
彼も異世界転生小説が大好き。
★★★★★★
よし。大丈夫だ。ちゃんと覚えている。
「眠る前の記憶はあるか?」
ミツルに問いかけられる。
(そうだ。俺は何をしていた?)
記憶を辿る。
「今日は文化祭だ。昨日まで課題に追われていて、遅刻ギリギリで学校に向かって自転車で爆走してた」
胸を張って答える。
「俺も同じだ」
間髪入れずにミツルが応える。
となると、今の状況はなんだ?
思考の海に落ちていく。
どれくらいの時間が経っただろうか。
思考の海から抜け出してハッと我に帰る。
「そうだ! 何が起きた? ここはどこだ? 他の人は?」
矢継ぎ早に問いかける。
「俺もさっき目を覚ましたところだ。すまない」
ミツルはそう答えながら、空を見て固まる。
もう夕暮れ時だ。
「いつの間にこんなに時間が過ぎてんだ!!!」
そう叫んだ。
彼もまた時間を忘れて思考の海に潜り込んでいたのだった。
2020年10月21日 感嘆符表現を修正しました。
2020年10月30日 文章を整形しました。
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