おにいちゃん!!どうして起こしてくれなかったの!?
宿屋のご飯所で、コーヒーを啜る。
うまいうまい。
クロワッサンを齧る。
うまいうまい。
サラダに目玉焼きにフルーツを頬張る。
うまいうまい、うまいうまい。
おれ、ここに、住む。
ごはん、おいしい。
ダカラ、オレ、ココニ、スム。
「おにいちゃん!!どうして起こしてくれなかったの!?」
バターン!!
宿屋の扉を大きくあけ放ち、我が最愛のいもうと2号が顔を見せる。
「おお、どうしたマイシスターズの片割れよ!お前もコーヒー飲むか?」
「わたしコーヒー苦くて飲めない…、じゃないの!!!」
ぷんぷんとほっぺたを膨らませて、こっちに歩いて来る。
ほっぺたを突ついてやって、プシューってさせる。
呆気にとられた顔をして、それからニヘヘと笑う。
可愛い。
またしても俺の妹であるところのミクの笑顔によって、世界が救われてしまった。
「ありがとう!お前は何度世界を救っても救い足りないんだな!!!」
「そうだよ!!世界なんてわたしの妹ちからで、何回でも救っちゃうんだから!!!」
「でもエミリアちゃんの笑顔もやばいぞ!!!」
「なんですって!!!!」
「あの笑顔の前では、みんなオオカミになるんだ!!!俺も!!お前もだ!!!!」
「わたしが、オオカミに!!!ごくり…!!!」
驚いて声も出ないようだな。
「これは、『世界を救うのが得意な選手権:IN 笑顔部門』を開催して、誰がナンバーワンかを決める必要がある!!!!!」
「いもうと部門!!!いもうと部門の新設を所望します!!!!!」
「駄目だ!!!!」
「どうして!!!!!!」
「お前がぶっちぎりで、ナンバーワンになってしまうからだ!!!!!」
「そんな!!!対抗馬!!対抗馬はいないの!!!!??」
「駄目だ…!!!誰も太刀打ちできない!!!!俺が頑張って、いもうとになるしか道は無い!!!!」
悔し涙を流す俺。
出来るだろうか。
この俺に、このちっぽけな俺に、いもうと道を極めることが出来るだろうか。
「なれるよ!」
「おにいちゃんなら、最高のいもうとになれるよ!!!!!」
ミクいもうとが声を張り上げる。
「だっておにいちゃんは、私たちの最高のおにいちゃんなんだから!!!!」
そうだ。
何を弱気になっている。
おれは最高のお兄ちゃんなんだ!!
妹になるなど、最高の妹になるなど、造作もない!!!!
「「わーっはっはっはっはっはっは!!!!」」
「「だーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」」
お互いに肩を組み、勝利の凱歌を歌う俺たち。
これで、世界中のいもうとたちが、皆平和に暮らせるようになる!!!!
「って、ちっがーーう!!!」
ミクいもうとが、急に俺を突き放す。
どういうことだ・・・?
我が最愛のいもうとが、俺を突き放すなんて・・・
訳を聞かねばなるまい。
「おにいちゃん!どうして先に朝ごはん食べてるの!?」
「いもうとたちが、気持ちよさそうにグースカピーしてたから・・・」
「ひどいよ!!一緒に朝ごはん食べるって、約束してたじゃない!!!」
「そうだったっけ・・・?」
「したよ!!わたしの夢の中で!!!お兄ちゃんならそれくらい察してよ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁん!!!」
ミクいもうとが泣きじゃくってしまう。
なんてことだ。
最高の兄であるにもかかわらず、いもうとの夢の中身を察することが出来ないなんて!!!!
俺はおにいちゃん失格だ!!!!
「すまない!!いもうとの夢の中身を理解してあげられないなんて!!俺はお兄ちゃん失格だ!!!!」
「うぉぉぉぉぉおおおおお!!!」
男泣きをする俺。
自分の不甲斐なさに、押しつぶされそうになる。
こんな時は、いつだってそうだった。
兄の絶望を救うのは、いもうとの慈悲に他ならない!!!!!
「いいよ。お兄ちゃん。」
ふわりとした優しさが、いもうとの腕が、俺を優しく包み込む。
「これから、お兄ちゃんは、いもうとの夢を、理解できるようになるよ。」
「出来るかなぁ…!こんな俺でも!できるかなあ!!」
「出来るよ!!だっておにいちゃんは!!!!」
「わたしたちの、最高のおにいちゃんなんだから!!!!!」
「「いもうと最高!!!!おにいちゃん最高!!!!!!」」
「「わーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」」
「「だーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」」
きみ(いもうと)のなになになにせから、僕たちは何かを探している。
「う~~る~~~~~」
背後に影が見える。
長い髪の毛がボサボサだ。
その後ろで、いもうと一号があくびをしている。
お姉ちゃんの赤茶の髪は、いつだって綺麗だなあ。
「さいっ!!!!!!」
ミクいもうとにはめちゃくちゃ弱く。
俺にはけっこう全力で。
イチカお姉ちゃんの器用ないつもの折檻で、やっと宿に静けさが戻ったのだった。
◇◆◇
「我々の急務を確認します!」
「はいっす!!!」
「はい、ニカちゃん!!!」
「アイドル普及活動を行い、全世界の人口のアイドル率を100%にすることっす!!!!」
「そうだ!!!」
「違う!!!」
イチカお姉ちゃんに怒られちゃった。
イチカお姉ちゃんは怒りんぼだなあ。
「はい!!!」
「はい、我が最愛のいもうと、ミクちゃん!!!」
「わたしの妹だ!!!」
「いもうと普及活動を行い、全世界の人口のいもうと率を100%にすることです!!!!」
「そうだ!!!」
「違う!!!」
イチカお姉ちゃんに怒られちゃった。
イチカお姉ちゃんは高血圧だなあ。
「いやまて、ミクいもうと!それは違うぞ!!!」
「えっ!わたしのカンペキな計画の、どこに不備が・・・!?」
「人口をアイドル率100%にすることは、とっても容易なことだ・・・」
「だが!!いもうとがいもうとであるためには、『お兄ちゃん』の存在が必要なのだ!!!!」
「「はっ!!!(ッス!!!)」」
「誰かが・・・誰かが『お兄ちゃん』にならなくては!!!!」
・・・。
いや。
違うぞ。
『誰か』じゃない。
俺だ。
俺が唯一の、『お兄ちゃん』になるんだ!!!!!!!
「俺がなる!!俺が!!俺が『お兄ちゃん』になる!!!!!」
「頼むっス!!!世界中のいもうとを救ってくれっス!!!!」
「わたしの悲願の為に、お願いします!!お兄ちゃん!!!!!」
『お兄ちゃん』。
これほど最強の言葉があるだろうか。
これほどに、心を奮い立たせる言葉があるだろうか。
いや、無い!!!!
俺に不可能は無い!!!!!
なぜならば、そう!!!!!!!!
「「「俺が!!俺たちが!!!!!お兄ちゃんだ!!!!!!!」」」
ピシパシグッグッ!!
三人での、複雑なピシパシグッグッも、俺たちにかかれば朝メシ前だ!!
「「「わーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」」」
「「「ぐわーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」」」
「もう、勝手にやってくれ…」
イチカお姉ちゃんがしょんぼりしちゃった。
イチカお姉ちゃんは低血圧だなあ。
◇◆◇
「スライムを倒します!」
「確かに私たちはスライムしか倒せないっすけど、スライム倒してもちょっとの銅貨しか手に入らないっす…」
「はい、質問!!スライム倒した後の『木の棒』はどうしていますか!?」
「はい!そこらへんに捨ててます!!!」
「愚かないもうとめ!!!!」
「ひゃあ!」
「俺はいもうとをそんな子に育てた覚えは無い!!!!」
「ごめんなさいお兄ちゃん!!反省します!!!」
「ならばよし!!」
ご褒美のよしよしだ。
我がいもうとが朗らかに笑う。
可愛い。
俺のいもうとはどれだけ世界を救えば気が済むのだろうか。
チョ○ラータ先生とセ○コの関係のようだ。
我ながらひどい例えだ。
額に手を当て、イチカお姉ちゃんがやれやれと首を振る。
「はぁ…。とにかく、なにか当てがあるんだな?」
「あります!!!このお兄ちゃんにあります!!!お姉ちゃん!!!!!」
「私はお前のお姉ちゃんでは無い!!!」
「お姉ちゃん!!ここはプロデューサーを信じるんス!!!」
「お願い!!信じて!!!!お姉ちゃん!!!!」
「も、もう。しょうがないなあ、我が妹たちは・・・」
イチカお姉ちゃんがデレデレしている。
『お兄ちゃん』と同じように、『お姉ちゃん』もまた、いもうとには弱いという事か・・・
なんてことだ。
成人前に一つ、世界の真理を知ってしまったぜ……。
「ああもう!分かった!!とにかく私たちは、『木の棒』を集めてくればいいんだな!!!!」
「そうです!!!!」
「信じるぞ!?信じるからな!!!もし当てが外れたら、また今日も野宿だ!!!」
「頼むっス!!!私たちの寝床を!!私たちの未来を!!!!!」
「お願いします!!!おにいちゃん!!!!!!」
「任せろ!!!!」
失敗など許されない。
許されていいはずがない。
なぜならば、そう・・・
俺は、『お兄ちゃん』なのだから!!!!!!!
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