ベイカ街ってどこ? 「「「「目と鼻の先」」」」
5人で揃って歩いていく。
結局、3姉妹が作った渾身のボロ服は、どうするんだろう。
イチカに聞いてみると、
「サイズ的に私が着るしかないな。」
とのことだった。
過程はどうあれ、俺の為に作ってくれた服だ。
俺が着ないにしても、無駄にならないで良かった。
いろいろ聞くことがある。
「エミリアちゃんって、この3人のこと知らないんだよね。」
「知らないです。ベイカ街の冒険者さんのことは、何人かしか。」
「どんな冒険者さんは知ってるの?」
「えっと…。とにかく強い人!強い人は私でも知ってます!!」
「なるほど。」
これは早急に強くなる必要があるということだ。
目標がひとつ出来た。
手をぐっと握りしめる。
「お姉ちゃーん、私たち、ぜんぜん知られてないっす。ぐやしいっス~」
ニカがイチカにくっついて嘆く。
「く、くそう。何がいけないというんだ。決めポーズをもう100種類は考えたというのに…」
何でそこに力を入れているんだ、この姉妹は。
他に何かあるだろ、いろいろと。
でももし良かったら俺も決めポーズ仲間に入れて欲しい。
聞いてみよ。
「なあ、決めポーズって3人だけのものか?」
「そうだな、個別ポーズと、3人のポーズだ。」
「私の個別ポーズは50種類くらいあるっス!!」
「そんなに」
「へっへっへーっ!街で拾った、可愛い女の子たちが一杯出てくる本に載ってたっす~!」
「どんなの?」
「こ~んなのとか、こ~んなのっス~~!!」
膝と手を高く上げたポーズ。
手でハートを作ったポーズ。
他にもいろんなポーズを決めていく。
正直、全部可愛い。
おまけにポーズのキレがどれもこれも凄い。
これはひょっとしたら、A○B48とかに入ったら、センターを張れるんじゃないだろうか。
俺が知っているカッコイイポーズも教えてやらねばな。
「じゃあ…こんなのは知ってるか!」
肘を鋭角に、空を仰ぐポーズ!!!
「おお!!!」
目を輝かせて、俺を見つめるニカ。
「あとは、コレだ!!!」
手を開いて、顔の前に掲げるポーズ!!!!!
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
思わずパチパチパチパチ!!と拍手をしてしまうニカ。
「かっこよすぎるっス!!!凄いっす!!!たまらないっス~~~~!!!」
テンションがこれ以上無く高まるニカちゃん。
ヤバイ。
可愛すぎる。
正直、惚れてしまいそうだ。
てかもう惚れた。
「師匠!!!師匠と呼びたいっス!!!いや!!ぜったいに呼ばせていただくっス~~~~!!!!」
俺に思いっきり抱き着いて来るニカちゃん。
思わず俺も、ニカちゃんに手を回してしまう。
無い胸の感触が、何故か今は心地いい。
「ししょう!!!」
「ニカちゃん!!!!!」
がしっ、と熱い抱擁を交わす俺たち。
今、確かに俺たちは魂が一つに繋がったのだ!!
これからは、ニカちゃんと俺はソウルブラザーズ、いや、
「ソウルブラシスターズだ!!!」
「なんすかそれ!?かっこいいっス!!かっこいいっス~~~~!!!」
ニカちゃんを担ぎ上げて、頭の上に持って行く。
ニカちゃんも手と足を広げて、夕暮れの風を一身に受けている。
「「だーはははははは!! あーっはっはっはっはっはっは!!!!!!!」」
ニカちゃん飛行機と発射台の俺は、駆け足でベイカ街への道を急ぐのだった。
◇◆◇
「ぜひゅーっ!!ぜひゅーっ!!!」
「ふたり、とも、速すぎっ!です!!ふぅぅぅーーっ!」
「待ってーーっ!みんな速-いっ!!!」
(⇒はるか遠くから聞こえてくるエミリアちゃんの声)
イチカとミクが息をつく。
だいぶ待ってから、ようやっとエミリアちゃんが追いつく。
これでやっと、皆がベイカ街の入り口…
いや!違う!!!
「これで、この4人のアイドルグループ道の第一歩が踏み出せるのだ!!」
「踏み出すっス!!!飛び越えるっス!!!」
「「俺たちならどんな困難も…」」
「「一緒に乗り越えられるっっっ!!(ッス!)」」
ニカちゃんと俺で、ハイタッチをかます!!
もしかしてと思って、ピシパシグッグッをやってみる。
ニカちゃんは、全てを察して、完璧に俺と手を合わせてくれる!!!
当たり前だ!!当然だ!!!!
なぜなら、俺とニカちゃんは、熱い熱い魂で繋がった、ソウルブラシスターズなのだから!!!!!!
「「いいぇえええええいい!!!!」」
再び、ハイタッチをかわす!!!
「さあ!!みんな!!宿に行くっス!!!」
宿屋にみんなを促すニカちゃん。
当然!!俺と肩を組んで高らかに足を上げて歩く!!!!
ステップ!ステップ!横ステップの練習だ!!!
いつだってこのグループのことを考えなくては!!
どんな仕事だって、俺が絶対に取ってきてやる!!!!!
ワンフォーオール!!
オールフォアワン!!!
ひとり(メンバー)はみんな(グループ)の為に!!!
みんな(グループ)はひとり(メンバー)の為に!!!!
俺たちはこの険しいアイドル界を突き進む!!
明日の綺羅星を目指して突き進む!!!
俺たちが、この世界に、アイドル旋風を巻き起こすのだあああああああああああ!!!!
「あのう。私は帰らないと、お母さんに怒られちゃう。」
「「バカヤロウ!!!(ッス!!)」」
「ひいっ!!」
エミリアちゃんが驚く。
かまうものか!!!
「レッスン中に親に会いたいなど、いつからお前はそんな甘えた子になったんだ!!!!!」
「そ、そんなあ…」
「そんなことじゃあ、死んだおじいちゃんも草葉の陰で泣くっすよ!!!!!」
「わたしのお爺ちゃん、この街いちの武器屋さんで、まだまだ超げんき…」
エミリアちゃんが何かをいっている。
聞こえん!!
「アイドルはそんな小さな声でしゃべらん!!もっと声を大きく!!!」
「はい!!」
「もっと声を張り上げるっス!!!」
「はい!!!!」
「いいぞ!こんどは三人で声を合わせるんだ!!!せーの!!!」
「「「はい!!!!!!!」」」
完全に声が合っている!!!
これなら今週のチャートに乗れる!!!
「「せーのぉ、」」
俺とニカちゃんの掛け声で、
「「「いいいぇぇぇえええええええええいい!!!」」」
三人で手を合わせて、ハイタッチ!!!
エミリアちゃんも笑っている。
ふっ、ようやく分かってくれたということか。
「ひ~と~~に~~め~い~わ~く~を~~~~」
背後に人影が見える。
「かけるなあああああああああああああああああ!!!!!!」
俺とニカちゃんに、イチカお姉ちゃんの特大のゲンコツが振り下ろされた。
調子に乗りすぎちゃった、てへりこ。
◇◆◇
「わたしのおうちは、ここから見える一番大きなあのおうちです!」
なるほど、確かに街の入り口からでもはっきり見えるうちがある。
ていうか…
「大きすぎない?あの家だけ四階建てなんだけど。」
明らかに世界観を間違っているとしか考えられない家がある。
家か、アレ?
ビルだろ、どう見ても。
「えへへ、お店とおうちが一緒になってるので…」
村娘は村娘でも、エミリアちゃんは超大金持ちの村娘ちゃんということか。
これは逆玉の輿を狙わなくては、グヘヘ。
「だめっス!!ししょうは私と女の子を48人産むんっス!!!それで子供たちに、閉ざされたアイドルへの道を引き継がせるんっス!!!」
「思考を読むな!思考を!!!まだシンクロがきれてないぞ!!まったく。」
一体感が加速しすぎてしまったのか。
二人してクリアマインドの境地に入ってしまった。
エミリアちゃんは、手をぶんぶんと振っておうちに帰っていく。
俺たちも動かなくては。
「宿屋ってどこにあるん?イチカお姉ちゃん?」
「私はお前のお姉ちゃんでは無い!!肩を組むな、肩を!!!!」
お姉ちゃんが連れない。
思春期か?
「私たちは、もう宿屋など何週間も行っていないからな。でも場所だけは分かるぞ。」
「なるほど、じゃあ案内だけしてくれ。」
「お前はどうするんだ?」
「もし宿賃が銅貨30枚で足りれば、一人用の部屋を借りる。」
「足りなければ?」
「宿屋さんに頼んで、手伝いを条件に納屋で寝させて貰う!!!」
「そ、そうか。逞しいな。」
当然だ。
こちとら元気が取り柄の若者じゃい!!!
「あ、あのう。イチカお姉ちゃんと、ニカお姉ちゃんがごめんなさい。」
ミクちゃんが謝ってくる。
うちの末っ子はいつだって天使そのものだ。
「気にするな。お姉ちゃんたちの失態は、お兄ちゃんのものだ!!」
「おにいちゃん…。」
!!!!!!!
うちの子が!!
うちの子が生まれて初めてしゃべった!!!!
おにいちゃんって!!!!
おにいちゃんって!!!!!!!!
「頼む!もう一回おにいちゃんと呼んでくれ!!!」
「えっ?えっ??」
「頼む!この俺の血に濡れた手では、お前にそう呼んでもらえないかもしれないが…!!!」
「おにいちゃん…!!」
ああ!!ああ!!
うちの子は!!
うちのミクちゃんは!!!!
この罪深き血に染まった俺を、許してくれるというのか!!!!!
「ミクちゃん!」
「おにいちゃん!!!!」
「ミクちゃん!!!」
「おにいちゃああああああんん!!!」
泣きながら抱擁する俺たち。
暖かな涙が、お互いを祝福する。
「ずっと!ずっと会いたかった!!刑務所の中でお前のことを考えない日はなかったぞ!!!!」
「わだしも!!わだしも!!ずっとずっとあいだがったよぉぉぉぉおおおおおお!!!」
わんわんと子供みたいに泣きながら抱き合う俺たち。
子供の頃の草原での約束が蘇ってくる。
あの日の爽やかな風が俺たちを包み込んで、癒してくれる!!!
「いいのか!?本当にいいのか!?俺たちは血が繋がっていないんだぞ!!!(本当)」
「いいの!!いいの!!!ずっとずっと!!!!おにいちゃんと一緒になりだがったがら……!!!」
「ああ!!ああ!!!そうだ!!俺たちは生きるときも!死ぬ時も一緒なんだ!!!!」
「わだし!わがっだよ!!宇宙の真理は、兄妹だったんだ!!!」
「「わたし(俺)たちは、同じ運命の輪の中にいたんだ!!!」」
「「うわあああああああああああああああん!!!!」」
尚も抱き合い、お互いの涙によって、お互いを慰め合う。
これまでの労苦が、これまでの道程が、たったそれだけで報われる気がした。
これからはもうずっと一緒だ。
ずっと、
ずっと…
呆れ顔のイチカとニカちゃんに引きずられながら、尚も俺たちはお互いを祝福し合っていた。
てへりこ Part2。
◇◆◇
宿屋の受付(カウンター?)で、受付のお姉さんに言われてしまった。
「申し訳ありません…。今は、四人用の部屋しか空いていないのですが…。銅貨130枚です。」
「じゃあそれで。」
俺が銅貨30枚で、
ニカちゃんが50枚で、
ミクいもうとが50枚。
何の問題も無い。
「オイ!?」
イチカお姉ちゃんが声を荒げる。
「おいおいイチカお姉ちゃん。もう夜遅いんだぞ!静かにしなきゃ。」
「そうっすよ!まったくうちのお姉ちゃんは常識が無いんすから…。」
「今夜はいつもみたいにお腹出して寝ちゃダメですよ。いつか、風邪を引いちゃいますよ!」
「あ、あぁ。気を付けるよ…。じゃなくってぇ!!」
イチカお姉ちゃんが尚もなにか言っているが、気にしない。
受付のお姉さんにキーを受け取りながら、ウインクを決める。
お姉さんがポッと顔を赤らめる。
妹二人が、足をげしげしと蹴って来る。
ごめんごめん。
部屋は、ベッドが四つ置いてあった。
一つのベッドに、3人分の荷物を置く。
(俺は『ポケット』があるから荷物問題はモウマンタイ。でもちょっと寂しい。)
「さーて夜遅いし寝るかあ。」
「私はししょうの右隣っス!!ししょうの右から見た顔は、世界中の画家が描きたいと殺到するっスから!!!」
妹一号が右隣に寝転がって来る。
「わたしはおにいちゃんの左隣です!!妹はおにいちゃんの左隣で寝るものって『兄と妹の禁断の恋 -めくるめくラプソディ-』に書いてありました!!!」
妹二号が左隣から抱き着いてくる。
「ぐぬぬ…。」
イチカお姉ちゃんが、一人寂しくベッドに潜り込む。
「いいか!?わたしはそこのアホ妹たちとは違うからな!!」
「おやすみー」
「ぜったいぜったい、お前なんかにほだされたりしないからなあああああああああ!!!」
「「「zzz」」」
イチカお姉ちゃんのクソ喧しい声が、その日の俺たちの子守歌となった。
ご意見、ご感想お待ちしています。