我ら、ベイカ街1の最弱3姉妹!!
改めて、追手の3人を見る。
中央にいる子は、一番大きな子だ。色々と。
簡素な服で身を包み、くすんだ赤茶色の髪をしている。
左の子は、一番小さな子だ。色々と。
すっとん。
これまた最低限の武装だけを身に着け、髪色は黒。
右の子は、保護欲を掻き立てる子。
美しい金髪の髪が、少し汚れていた。
正直、3人とも滅茶苦茶美人さんだった。
とんでもない美人だ。
名古屋風に言うと、どえりゃあ美人だがね。
美人さん3人が、一体何用だろうか?
「何の用だ?」
「ふう、ふう。」
「落ち着いてからでいいから。」
3人とも息を切らせている。大変だ。
「ふう、落ち着いた。おい!お前!!」
「何でしょう。」
「その服を寄越せ!!」
「服…このジャージ?」
そういえば、俺の今の格好はジャージだ。
何で欲しいんだろ。
「こんなものが、何で欲しいんだ?」
「決まってる!そんな服見た事無いぞ!!」
「きっと貴族さま用の高級品に違いないっス!」
「それを売って、私たちの今日のご飯代にさせてください!!」
とんでもない事を言い出したな。この子たち。
「これしか着るものが無いから、俺がすっぽんぽんになっちゃうよ。」
「心配するな!さっきまでの時間で、服を作っておいた!」
「お姉ちゃんのマントもつけるっス!裸んぼにはならないっス!」
「私たちの着てるモノで、頑張って作ったので!!」
そう言って、手製の服を突き出してくる。
粗末な布で作られた服だ。
ボロではあるが、良く見ると繋ぎ合わせた跡が見える。
それから彼女たちをもう一度だけ見て、納得した。
自分たちの着ている服を少しずつ破いて、一つの服を作ったのだ。
さっき草原でやっていたことは、これか。
「そんな事しなくても、スライムでも倒せばお金を稼げるのに。」
「ううっ。」
「?」
「あんたが、ここいらのスライムを全部倒しちまったんっス!!」
「私たちは弱いので、スライムしか倒せません…」
そういうことらしい。
ちょっと悪い事したかな。
「そういえば、君たちの名前は?」
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれたな。」
一番大きな子から胸を張って自己紹介。
ちょっと破けた服の中で、大きな胸がぶるんと揺れる。
「長女のイチカ!!」
腰に手を当て、ポージング。
大きな胸がゆさりと揺れる。
「次女のニカっス!!」
片手をブイにして、ポージング。
アイドルポーズを取ってくる。
「三女のミクです!」
胸の前で手を合わせて、ポージング。
可愛い。
守護らなきゃ。
「「「三人合わせて…」」」
「「「ベイカ街1の、最弱冒険者!!!」」」
3人合わせてポーズを取って来る。
見事なものだ。
俺も入りたいくらいだ。
「か、かっこいい…」
エミリアが感想を述べる。
俺も同意見だ。
「悪いことはいわない!おとなしくその服を渡せ!!」
「へっへっへ。パンツまでは取らないっスよ!」
「もうご飯抜きは嫌です!!」
彼女たちにものっぴきならない事情があるようだ。
ちょっと知りたいことがある。
不自然に思われないように、しゃがむ。
ごくちいさな声で、ポケットと言う。
狼の牙を拾って、『ポケット』の中に入れながら、会話を続ける。
「いいぞ、この服やってもいい。」
「ホント!ありがとう!!」
「でも一つ条件がある。」
「なんっスか?」
「俺と一手、手合わせして欲しい。勝ったら服をやる。」
ステータスを確認。
AGL:10(+10)
ポケット数 : 3/XXX
狼の牙(1個)
「うおおおおおおおおおお!?」
「な、なんだ!!どうした!!お腹痛いのか!!?」
「い、いや、何でも無い。ただの気合の掛け声だ!!!」
「な、なんだ。びっくりした。」
びっくりさせてしまった。
ごめんなさい。
しかし、これは驚くだろう。
だって、素早さ二倍だぞ、二倍。
ありえんぞ、こんなの。
ポ○モンだったら、『すばやさがぐーんとあがった』ってやつだぞ。
ポケットのなかみはいつもなん時もファンタジー。
知りたいことがある。
この子たちは、自分たちを『ベイカ街1の最弱冒険者』といった。
この世界の冒険者のレベルが知りたい。
ごく普通の現代人である、俺がどのくらい戦えるのかも。
「手合わせか・・・分かった、私が相手をする。」
イチカが前に出てくる。
「一本勝負だぞ。間違っても当てるなよ。」
釘は刺しておこう。
「当たり前だろ!当てるとか怖いこというな!!」
イチカも迎合する。
盗賊紛いかと思ったけど、結構いい子たちなのかも。
「では、いっぽん勝負…」
審判はエミリアだ。
付きあわせてしまって、申し訳ない。
「はじめー!」
イチカが突っ込んでくる。
動く俺。
2つ、分かったことがあった。
1つめ、イチカの動きが、鋭く、速い。
最弱なんていっていたが、結構洗練されている。
この世界は、強い奴がゴロゴロいるのだろうか。
2つめ。
俺の動きも、もっと鋭く、速くなっている。
イチカの動きに合わせて、横に躱す。
「なにっ!」
意外だったのか、イチカが驚く。
「まだまだっ!!」
イチカが二撃、三撃と木の棒による攻撃をしてくる。
躱す、躱す。
動体視力が上がっている訳じゃ無い。
俺の身体がはっきりと早く動いている。
軽い、軽い。
飛ぶように動くことが出来る。
イチカの攻撃の隙間を縫って、背後を取ることに成功。
「しまっ!」
木の棒を軽く振り、イチカに寸止めする。
「おわり!!」
エミリアが一本の宣言をする。
何とかジャージを守ることが出来たか。
「くっ!駄目だったか…」
「お姉ちゃん、残念だけど、3人分の今日のご飯は諦めるっス…」
「わ、わたしのご飯は、イチカお姉ちゃんと、ニカお姉ちゃんで、」
「馬鹿なことをいうな。私が我慢するさ。二人で分け合って食べろ。」
悲しい事を言い出す三姉妹。
…あー、もう!!
「ほら!!」
「えっ!?」
「やる!!ほら、ニカも!!ミクも!!!」
3人の手に、それぞれ銅貨を握らせていく。
相場が分からないが、50枚ずつ。
おかげで俺はすっからかんだ。
いいんだ、せっかくの異世界初日なんだ。
納屋かどっか見つけて寝るさ。
「い、いいんスか…。」
「いいよ!間違っても返すなよ!!もうやったものだ!!!」
ご飯くらいはせめて食べたい。
30枚あれば食べられるかな。
「お、」
「お?」
「おやぶん…」
うん?
「おやぶん!おやぶんっス!あんたは私たちのおやぶんっス!!!」
おやぶん…
「是非おやぶんさまと呼ばせて下さい!!」
「ああ、私も呼ぶぞ!親分!!!」
あのなぁ…
「親分はやめろよ!盗賊じゃないんだぞ!!」
「じゃあ、兄貴っすか?なんてよべばいいんスか!?」
まったく。
「そもそもお前ら、俺の名前も知らないだろうが。」
「「「あっ」」」
気の抜けた奴らだ。
「俺の名前はケンイチ。よろしく。」
一人一人と握手していく。
取りあえず、異世界での知り合いが4人できたか。
「よかったですね、えへへ。」
エミリアちゃんが、朗らかな笑みを向けてくる。
でもまあ、エミリアちゃんが無事で良かった。
聞きたいことは一杯あるが、まずは
「街があるんだよな?どっちだ?」
俺の質問に、4人が揃って同じ方向に指を向けたのだった。