[第2話]戻った記憶
前話投稿から大分間隔が空いてしまい...申し訳ないです(´•ω•`)
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「うーん、ここは、どこ......。」
かなめは変な世界にいた。彼女が見上げた空は、紫と桃色がまだらに混ざったような、不思議な色をしている。
『ーーそなたがこの世界に望むものは何か?』
「っ!??うえっへい!??!なになになに!?」
...相変わらずの素っ頓狂な悲鳴である。
声が空中に響いてきた。不思議と不快な感じはしないが、不意にそんなことがあれば、まあ誰でも驚くだろう。
(やば、恥ずかしっ......。)
つい変な声を上げてしまったかなめはーーそうだ、あの時は、確かそんなことを思っていた。
そこには“かなめ”以外の誰もいないし、第一それよりももっと気にすることがあるだろうに、と、全てを眺めていた“エレイン”はため息をついた。
そう。今ーー5歳のはずのエレインは、17歳のかなめに呆れていた。
精神にあるはずの12歳の歳の差は、不思議と感じられない。言うなれば、エレインの精神が、5歳からそのまま引き上げられたような感じだった。
そしてこれは”あの“続きだ。
魔法陣に呑み込まれてーーそして気がつくと、ここにいたんだ。
「『ーーそなたに生を与えよう。時に、欲しいものはあるか?』だっけ。」
エレインは、その後に続いた言葉に重ねて呟いた。その声にまた悲鳴をあげたのは、かつての自分、かなめである。
「......えぇ、なんですか急に!ていうか誰!?ここはどこ!?」
ぎゃーぎゃーとさわぐかなめ。呆れる世界の声。同じく呆れるエレイン。
「『まあ良い、そなたにはもう行ってもらおうか。』って...!」
エレインが世界の声に重ねて呟くと同時に、目の前のかなめが姿を消した。一瞬の出来事な上、その瞬間より先の事をエレインは知らない。彼の記憶の頼りであるかなめは、もう姿を消してーーおそらく、これからエレインとして誕生するのだろうから。
ああ、全て思い出した。けど思い出したからと言ってーーいったいこれから、どうすれば良いのだろうか。
ーーかなめだった時の、最後に手にしたあの本。彼女が妹に借りた、『この世界は私のもの』。そして、原作である『君は誰のもの』という乙女ゲーム。
まさかその世界が、今自分が生きる世界だなんて。しかも、その黒幕に狙われる(?)攻略対象者だなんて。
(なにがどうして......。)
夢の終わりのように白む世界の中で、エレインはぽつりと心に呟いた。
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「〜〜〜〜......〜〜............。」
「......〜〜〜............〜〜〜!!」
誰かが話す声がする。それも複数人。
ゆっくりと意識が浮上するにつれて、会話の内容がゆっくり頭に入ってくる。
「ーーー旦那様!奥様!落ち着いてください!」
「落ち着いてなどいられますか!ああ、どうしましょう。私の大切なエレインが...!」
「王宮からの使いはまだなのか!もしやこれは、不治の病と噂される〜〜〜。」
意識は戻ったが、とりあえず状況を整理しようと目を開かないままでいるところだったのだが......不意に今、不穏極まりないワードが聞こえた気がする。
(は、なに?王宮?今王宮って言った父さま??)
「はい旦那様、丁度王妃様がご到着なさったようです。」
「国王陛下もとても心配なさっているようで、王宮専属医部の医官長を特別に遣わせくださったようでございます。」
侍女と爺の声がする。聞き捨てならない単語がペラペラと飛び出してきて、危うくまた意識を失いそうになった。いや、いっそ失った方が良かったかもしれない。
(〜〜〜ッ大事になりすぎだろ!!)
どうしよう、一体なにがどうしてここまで話が大きくなってしまったのか。
もしかして、今までで10日くらい意識を失っているとか?無きにしも非ずだ。まだ目を開いていないから、今の時間や日付は全く把握できていない。
「エレインが倒れてからもう2日も経ったのに!!どうしてまだ目覚めないんだ!」
まるで狙ったようなタイミングで兄の声がした。......2日、ふつかかあ。
(なんか、微妙な長さだな......。)
なんとも言えない絶妙な期間。少なくとも、3日目まで大騒ぎは待っていて欲しかった。
王宮専属医とか、いくら公爵家といえども連れてきていいものなのかとか、そもそもなぜ王妃様までもが来ることになったのか、とか、考え始めたらキリがない。
ついにノックの音がして、ぞろぞろと続く足音だとか、母さまと王妃様の姉妹の会話だとかが聞こえてきた。
「王妃様、公爵ご夫妻、失礼いたします。私、医官長の〜〜〜。」
エレインは心で密かにため息をついた。
これはもう、流れに身を任せるしかない、と。
ーー入院がてら王宮に連れて行かれそうになった彼が飛び起きるまで、あと少し......。
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Date base
*乙女ゲーム『君は誰のもの』
前世(?)においてかなめの妹が好きだった乙女ゲーム。その影響で、かなめもあらすじを知っている。
複数人の攻略対象者が主人公の恋人の座を取り合う一見よくある乙女ゲームのシナリオであるが、実は全ての悪の根源はそのヒロインであるという大どんでん返しが待っている。作り込まれたストーリー、キャラクターデザイン等に加え、その特殊な設定が反響を呼び大人気であった。ゲーム内唯一その真実が明かされる事となるトゥルーエンドを題材に、原作者が書き下ろした小説『この世界は私のもの』がある。かなめは妹に勧められこれを読了済み。
ここまでお読み頂きありがとうございました!
ごちゃごちゃしてきたので次話は人物紹介などをまとめようかと思います♪