[第1話]白目を剥くのは癖じゃない
はじめまして、初の創作小説、書いてみました!ぜひ温かい目で読んで下さると幸いです!(笑)
『人魚姫』『マッチ売りの少女』『竹取物語』……etc、etc。
この世界の物語には、悲しい終わりがありすぎる。
全く納得できない。
何度も読み返しすっかりくたびれた絵本の最後には、泡沫となって消える人魚姫が。何度この絵をみて涙を流したことだろう。
思い返しながら、私はグスグスと鼻を鳴らす。溢れた涙を指で拭って、鼻をかむべくティッシュに手を伸ばした。
拍子に、そんな悲しい絵本から何かが落ちた。
パラリと舞った便箋には、鉛筆で描かれた王子様と手を取り合い笑顔を浮かべる人魚姫の姿が描かれている。その横にバランスの悪い丸文字で、『人魚姫と王子様は盛大な結婚式を挙げました。誰もが彼らを祝福し、前王妃様を含めた誰もが国の新しい王妃様を愛しました。』と。
懐かしい、小学生の頃に書いたやつだ。
話の筋も何も関係なく、突飛に良い結末だけを書き連ねた。みんなが幸せになれるなら、そう思って一心不乱に鉛筆を握ったんだっけ。
私の趣味は、納得いかない結末をねじ曲げて、ハッピーエンドに書き換える事。
高校生になった今とて、変わらずそういう事ばかりしていた。
今だって、妹に借りた一冊の本片手に構想を練っているところ――だったのだが。
「っうひょぉ!???!!?」
年頃の女子が上げるにはあまりに色気のない、素っ頓狂な悲鳴。誰かに助けを求める間もなく、私の身体はズブズブと沈んでいく。
―――床に突如現れた、魔法陣に。
*****
―――いや、あれ、死んではいないはず。
視界に目一杯広がる青空に向かって、呆然と息を吐く。
「きゃああエレイン様っ!??」
「誰か早く医者を…!!!早く!!」
メイド達の慌てふためく叫び声に、打った後頭部がズキズキと痛み出す。
雲珠かなめ、17歳。
――またの名を、エレイン・クロスフォード。
クロスフォード公爵家の次男、現在5歳。
てことは今いくつ?この5歳までの記憶を足せば、
17+5で……いや、ダメだ意味わかんない。
ここどこ?ーーいや、住み慣れた我が家。
わたしはだれ?ーーいや、ぼくだよ。
どうしてこんな所に?ーーいや、だからここ家で......
ぐるぐる回る思考と、それにリンクするように巡る視界にとうとう白目を剥く。
「エレインさまあああああ!!?!」
遠のく意識に僕を呼ぶ声がする。僕?私?ああもうダメだ。
―――公爵家次男、エレインが剣の稽古中に頭を強く打ち、泡を吹き白目を剥いてぶっ倒れたこの出来事は、後に王宮までその報せが届く大事件となった。
*****
「………イン、エレインッ!」
ゆさゆさと揺すぶられて、まどろみから意識が浮上する。
「うわあああ死なないで!!エレインーーー!!」
「キャメル御坊ちゃま、およし下さい。命に別状はないと思われます故、どうか今はそっと...。」
……正直、頭の整理がついていない。
いや整理つく奴いんの逆に?いるなら是非お目にかかりたい。あわよくば横で事細かに全てをご教授願いたい。だいたいあの魔法陣は一体―――
「じゃあなんでエレインは起きないんだっ!じいや、今すぐ医者を呼んで!!このままじゃエレインが死んじゃうよ!!」
「ですからお医者様には先程診ていただきましたので、その、安静にしていれば大丈夫ということでしたので……。」
近くでギャーギャー騒がれて、思考が阻害される。とりあえず考えるのをやめた。――バカ兄がうるさくておちおち寝てもいられない。
ぱちり、と目を開くと、じいやに掴みかかる兄キャメルの姿があった。
わたわたと困っているじいやが可哀想だ。助け舟を出すべく じいや、と声をかけると、2人がほぼ同時にバッとこちらを向いた。
「っ、エレイン坊っちゃま、ご無事で「エレインッ!よかった!エレインが生きてた!!」」
飛び込まんばかりの勢いで駆け寄ってきたキャメルに思い切り抱きすくめられ、グエッと変な声が出た。
「お、お兄様、くるしいです離して……。」
訴えると ああ、ごめん、と解放されて、その顔立ちがよく見える距離になる。
サラサラと流れる金色の髪。襟足短く揃えられた毛先が風に揺れる様をぼんやり眺めていると、深い青色をした双瞳にじっと見つめられる。
整った顔である。たった3つ上の、まだ8歳だというのに末恐ろしい。大人になったら一体どれほどのイケメンに……。
「あの、エレイン……。その、さっきは、ごめん!!」
見慣れている筈の彼をまじまじと見つめてしまったので、どうやら怒っていると勘違いしたらしい。
「いや、兄さんは悪くないよ。稽古してただけだしさ。」
そう笑って見せれば、キャメルはホッとしたように肩を落とした。
前世(?)を思い出したあの時、剣の稽古で1対1で向き合っていた。キャメルの剣を避けようとして転んだ先に、運悪く後頭部を打ち付けた。
――最も、泡に白目はそれだけが理由ではないのだが。
「はあ、何だあ良かった。外みたいに“お兄様”なんて呼ぶから、てっきり相当怒ってるかと思ったよ。」
返事をしようと顔を上げた先に、大きな姿見があった。チラリと覗いた自分の姿は僅かに見覚えがあって、ドクリ、と心臓が嫌な音を立てる。
――まさか、そんなはずないよね。
「あ、そうだ、髪結うときに使うと思って、たて鏡持ってきたんだ。」
良かったら使ってよ、と続いた声が、また遠のいていく。
キャメルに渡された鏡を間近に、心臓が止まりそうになった。肩の先までなびく、兄と同じ金色の髪。鏡の先で深青が大きく見開かれて、そして――ひっくり返って。
「ちょ、エレイン!?エレインーーー!!」
本日2度目の白目に驚いたキャメルが慌てて駆けていく足音が聞こえる。
――ありえない、信じられない。
「攻略対象者、エレイン・クロスフォード」の文字が脳裏をよぎる。一つに括られた美しい長髪は見覚えしかない。王道の金髪碧眼キャラ、と妹が言っていたのも、ゲーム実況で見た全エンドも、興奮した様子で私に貸してくれた――あの日抱えていたあの本も。
(主人公が黒幕の、乙女ゲーム……。)
そりゃあ、魔法陣だって出るわ。一周回って冷静になった妙な納得と共に、それでも遠ざかる意識に身を委ねる。
最後になぜか、処刑されたご令嬢―――悪役にされてしまった、哀れで可憐な少女の姿がふとよぎった。
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Database
『この世界は私のもの』
主人公があの日抱えていた本。
妹から借りた。あんまりな結末に、趣味である“書き換え”をしようとしていた。
原作は乙女ゲーム。
この本には、ゲームの後日譚が書かれている。(所謂ネタバラシ)
メインルート、王子とゲームヒロインの結婚、そして悪役の令嬢が処刑され、邪魔なく幸せに暮らす2人……というのがゲームの結末。
実際には、全ての悪の根源はヒロイン、つまりプレイヤー自身で、ある特殊なルートを攻略することでのみトゥルーエンドにたどり着く。
一見普通の乙女ゲーム、しかし衝撃の真実があるだけあって、当時物凄い人気を誇っていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます♪
誤字脱字、誤用等ありましたら教えていただけると助かります!
これからちょくちょくアップしていこうと思っているので、良ければよろしくお願いします(о´∀`о)