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第八話

「という事があったんですよ、本当に馬鹿じゃないのかと怒鳴りたくなりましたが、あっちの方が爵位が上なんで黙って堪えることしかできなくどれだけストレスが溜まったことか」

「意外と人間の貴族も苦労が多いんだな」

「全くだな、俺はてっきり毎日好き勝手に贅沢して楽しく暮らしてるもんだと思ってたぞ」

「そんなわけ無いでしょうが、貴方達だって色々あるんじゃないですか?」

「「ああ、まあな…」」



「これって甘くて凄く飲みやすいですね、何のお酒なんですか?」

「ふふふ、これはね魔界のある果物から作った果実酒なのよ。飲みやすいしお肌に良い成分も含まれているから女性に人気なの、気に入ってくれたかしら?」

「はい、とっても美味しくて気に入りました! 教会じゃな色々と禁止されていて、お酒もあまり飲んだことがなかったんです」

「そうなの? それは大変ねぇ、なら今日は遠慮なく好きなだけ飲みなさい。ほらもう一杯どうぞ」

「ありがとうございます!」



「やっぱり女は見た目じゃなくて中身で勝負するべきだよね!」

「全くじゃな、見た目に惹かれて寄ってくる男にはろくな者がおらんからな。だからこそ儂等に男がいないのは決して女としての魅力がないからじゃないのじょ!」

「そうだ、そうだ! 皆の見る目がないだけなんだよ!」



「……何だか皆すっかり出来上がっちゃてますね」

「そうだね~まあ暗いよりはずっと良いんじゃないか、明日二日酔いになって苦しむかもしれないけどね」


 あれから暗くなってしまった場の空気を変えようとしてくれたガラ達の好意に甘えて、歓迎会を始めるが酒が進むにつれて段々と愚痴会になってしまった。


 色々と不満が溜まっていたのか、向こうでは言っちゃ不味いようなことも色々と喋っている。中には知っちゃ不味いんじゃないかという内容のものまであり俺は内心ではビクビクしてるよ!


「ははは、どうやら元気になったようだね安心したよ」

「う、すみません。勘違いで攻めてきた俺達に気を使ってもらってしまって」


 騒ぐ皆を見ながらホッとしたように洩らすガラに頭を下げた。


「いやいや、気にしなくていいさ、こっちも騒ぐ口実ができたから良かったしね。それよりも君達はこれからどうするんだい?」


 どうすると聞かれても、どうしたらいいんだろう。俺達って一応、捕まった犯罪者だしどんな裁きを下されるか分からないと、どうしようもないんだけど。


「ああ、そうかまだ言ってなかったね。取り敢えず君達には今のところ君達には二つの選択肢があるんだよ」


 顔にでも俺の疑問が出ていたのか、笑みを消して真面目な表情になると指を二本立てて説明をしてくれた。


「一つはこのまま人間界に帰る、二つ目はこのまま魔界で暮らすかだ」


 う~む、特に罰を与えられるようことはないと知って安堵したけど、人間界に帰るか、このまま魔界で暮らすのかか。人間界に戻ったらまた勇者として権力争いの駒にされそうで嫌なんだよな、でも一生を魔界で過ごすのもどうかと思うし、何より聖剣を持ったままっていうのも不味いよな。


「やっぱり悩んでいるみたいだね」

「ええ、正直向こうに戻ったらまた面倒事に巻き込まれるのは目に見えてますからね、ですけど生まれ育った故郷を捨てて魔界で暮らすのも抵抗があるんです。それにこれでも一応は護国の要である聖剣に選ばれた勇者ですから、王族や一部の貴族が腐っているからといって国や国民を見捨てるわけにはいかないんですよ」

「聖剣か……それはコレのことで合っているかい?」


 何もない空間に黒い穴が現れたと思えばガラはその中に手を入れ一振りの剣を引きずり出した、それは間違いな俺が使っていたアレッサ王国に代々伝わっている聖剣だ。


 よかった、捕まった時に没収されたままだったからもしかしたら、壊されてしまったんじゃないかと心配していたけど無事だった。


「そうです、間違いなくこれが俺の国に伝わっている聖剣です」

「なら少し聖剣の力を使って見せてくれないかい? 確か聖剣は自分が選んだ者にのみその力を貸して、それ以外の者が使おうとしても無理なんだろ?」

「そうですけど、それがどうかしましたか? まあいいですけど、じゃあちょっと失礼してと」

 

 何を考えているのか分からないが真剣な目をして頼まれたのだ、嫌とは言えず聖剣を受け取ると鞘から抜いて構えると握る柄に力を込める、すると聖剣から青い光が放たれ体から力が溢れてくるのを感じた。


 この状態になると俺の身体能力は格段に上がり人間よりも遥かに身体能力高いはずの魔族達を軽々と倒すことができた、他にも魔法に対する耐性の強化など様々な力がある。


「キレイね~聖剣だけじゃなくて、ハルトも蒼く輝いているわね」

「ああ、それに感じる威圧感が明らかに強くなってるな」

「何か漫画のヒーロー物の主人公みたいだね」

「このまま変身したりするのかな? したら面白そうなんでけど無理かな?」


 いつの間にか皆が集まって俺が聖剣を扱うのを眺めていた。オルガ達は初めて見る聖剣に思い思いの感想を口にして楽しそうにしている中で、何故かガラだけは少し悲しそうに眉を寄せているけどどうしてだろう?


「なるほど、ありがとうもういいよ。じゃあ少し聖剣を貸してもらっていいかな?」

「どうぞ」

 

 素直に聖剣を渡すと大きく息を吐いた、聖剣を使うと一時的に凄い力が発揮できるけどその後が疲れるんだよな。まあそれはいいとしてガラは聖剣を受け取ってどうする気なんだ? 


「勇者ハルト、それにパーティの仲間達。今からやることをよく見ててくれよ」


 そう前置きすると俺と同じように柄を握っている手に力を込めた。


「なあっ!?」

「これは一体どういう事なんです!?」

「おいおいっ嘘だろ、どうして聖剣が……」

「むむむ分からんサッパリ分からんぞっ」

 

 その瞬間、目の前で起きたありえないはずの現象に、俺達は目を見張り驚きの声を上げることを止めることができなかった。


 だってそうだろ聖剣が、ただ一人だけ神によって選ばれた者だけが扱えるはずの聖剣が、さっき俺が使った時と同じように、いや違うな、明らかに俺の時よりも強い輝きを放っているし強化されている力も格段に上だ!


「ふぅ、疲れた相変わらずこれは体力を使うな」


 こっちは訳が分からずに大混乱に陥っているってのに、ベイルにいたっては目玉が飛び出しそうな程に目を開けたまま石像のようになって固まってるんだぞ! なのに何でアンタはそんなに平然としてんだよ!


「な、なあ室長さんよ、これは一体どういことなんだ? 何で魔族であるアンタが聖剣を扱えるんです? まさかアンタも実は勇者だった……とか?」


 いやいや兄貴、流石にそれはないだろ。自己紹介を聞いた限りだとガラはアンデットのはずだ、神様から遠い存在になったはずのアンデットが勇者のはずがないじゃないか。


「凄いぞゲルト君、正解だよ! 聖剣を扱える理由はその通り、僕が昔勇者をやっていたからだよ」

「「「何だって~~~っ!?」」」


 あまりにも信じられない爆弾発言に叫び声を上げてしまった、だが驚いているのは俺達だけでオルガを始めとする対策課のメンバーは特に驚いている様子がなかった。


「貴方達もしかしてオルガから聞いていなかったの? 室長が元・勇者だったて」


 首をひねりながらキョトンした顔で何でもない事のようにサイアが言ってくるが、そんなこと初耳だよ!

 思わずオルガを全員で睨むと忙しなく顔を動かしながら唸っているが、やがて何か諦めたように真っ直ぐに俺達の方を向くと。


 ビシッと親指を立てながら何故かドヤ顔になりながら。


「ドッキリ成功だな!」


 これはあれだな、完全に話すのを忘れていたな? その証拠にサイヤは笑顔で肘鉄を鳩尾に打ち込みエルムとアルムは呆れたように半眼になって蹴りを見舞っている、そんな大切事を忘れないでくれよ!

 

「僕が元・勇者だったらそんなに変かい? あ、ついでにコレも見てくれないかな」

「「「「っ!?」」」」


 またも生じた黒い穴からガラがもう一本の剣を取り出して俺達によく見えるように掲げる、その剣が目に入った瞬間、体に強力な電撃が走ったかのような錯覚を覚え今度こそ何の言葉も出てこなくなってしまった。


 何故ならその剣は、多少刃こぼれや傷があるものの間違いなく神がアレッサ王国に与えてくださった世界で一振りだけしか存在しないはずの聖剣だったからだ。


「室長さんが元・勇者で聖剣が二本? でも室長はアンデットで、聖剣は神様が授けてくれたものだって司祭様達がっ!? なな何でどうして!? はあわわっ!?」


「これは完全に予想外じゃな、全く人生は何があるか分からんものじゃ」


 あまりのことにローラは目をまん丸にしてグルグルとその場を回りだし、フリーデは考えることを放棄したのか何かを悟ったように安らかな顔で目を閉じている。


「う~ん確かにこっちは少しボロいが俺には間違いなく聖剣に見えるな。もしかしたらよく似せて作られた偽物じゃないかと思ったんだが」


「それはないでしょう、偽物を作るならわざわざ古く見せることなどせずそのまま似せて作るはずです。何よりこの剣から感じる魔力の波長は聖剣が発しているものと同じですよ」


 兄貴とベイルは室長が取り出したもう一本の聖剣を貸してもらうと、偽物ではないかと真剣に調べているがそんなことをしなくとも使い手である俺にはハッキリと分かる、あれは偽物などではなく間違いなく本物の聖剣だと。


 ガラが元・勇者だったというのは、この際だから生きていた頃に勇者に選ばれたのだろうと考えて納得することにした。別に俺が初代勇者というわけじゃないからな、だから聖剣を扱えても勇者だったのなら扱えても不思議じゃないと無理やり納得した。


 ここまではいいさ、だけどどうして聖剣が二本あるんだよっ!? 神が作ったこの世で唯一無二の物のはずだどうがっ!! ああっダメだっ! 正直に言おう、本当は少しも全く納得できてないんだよーーーっ!? 


 もう俺達はパニックだよ! 何かこれは新手の精神攻撃かなにかなのかっ、もしそうなら大成功だよこの野郎っ。




「予想通り驚いているようだね、でも少し落ち着いてくれないかな。サイヤ悪いけど新しいお茶を入れてくれないかな?」

「いや落ち着けって言われてもそんなの無理ですからっ、どういう事か説明をしてください!」


 こっちはアンタのせいで蜂の巣をつついたよな騒ぎだってのに何を呑気に茶のおかわりを頼んでいるんだよ!


「面倒だけど仕方ないか、聞きたいのは聖剣のこと? それとも元・勇者だったってことかい?」

「両方に決まってるでしょうが!」

「まあそうなるか、じゃあ教えてあげるけど覚悟はしてくれよ」


 う、これはさっきの爆弾発言をした時と同じ顔だ、と言うことは俺達にとってまたも衝撃的な事が語られるのか、正直ここに来る前から色々とあり過ぎてお腹がいっぱいだよ。

 

 それにガラの横ではオルガ達が何とも言えない微妙な顔で笑ってるし、あれって哀れんでるか? だとしたらこれからどんな事が語られるのか不安になってくる。


 それは皆も同じのようでローラは気持を落ち着けようと手の平に人と書いては何度も飲み込み。兄貴はあれだ、傭兵達が戦の前に行うという不思議な踊りラジオ体操なるものを踊っている、ベイルはメモ帳を取り出して今度はどんな知らないことを教えられるのかと、一人だけ楽しそうにして目を輝かせている。

 ……フリーデは論外だ、何せその長くよく聞こえる耳をどこから出したのか耳栓で塞いでしまっているんだからな、もう聞きたくない気持は分かるが一人だけ現実逃避するのは狡いんじゃないか!


「実は僕が勇者であり、聖剣が二本あるのは深い深い理由があるんだ、それはね」

「それは?」


 深呼吸をして一旦間を作ってからカッと目を開くと叫ぶ。


「君達と同じで勇者詐欺の被害者だったからだよ!」

「「「「なっ何だって!?」」」」



 て、とりあえず驚いてみたけど勇者詐欺て何だよ? 困惑する俺達の思いを感じ取ったのかガラは合図するようにオルガ達に目線を向けると。


「おお! これは伝説の美食の神が与えたスプーン! これを使えたということは君は今日から勇者だ!」

「はは、勇者として美味しいものを食べるために頑張っていきます!」


 エルムが置いてあったスプーンを握ると高く翳し、まるで神父かなにかのように宣下すると、いつの間にか跪いていたアルムが恭しくスプーンを受け取り頭を下げ、その隣では。


「今日、神から啓示がありました。それによれば貴方は勇者だったので以下略、頑張りなさい!」

「そこはちゃんとしろ……分かりました勇者とし悪しき者を倒します」

 

 両手を広げいかにも面倒くさそうなに棒読みで言い放つサイヤと跪きながら突っ込みを入れるオルガ、一体この寸劇は?


「まあ、早い話がだね勇者詐欺っていうのはね。それっぽい物を勇者の証に見立てたり、地位の高い聖職者なんかを使ったりして、適当に操り易そうな者を勇者に仕立て上げて周囲の者達を自分達の都合良く煽動しようとする行為だよ」


「……そ、そうなんですか? 確かに俺なんかが勇者に選ばれるのは変だとずっとも思ってましたけどこれが事実ですか、あのじゃあガラさんが勇者だったいうのは?」


 衝撃的な事実に打ちのめされながらも、気になっていたことを聞いてみた。ガラがさっき言ったことが本当ならガラ自身もその勇者詐欺の被害者のはずだからどうしても気になって仕方がないんだ。


「そうだねあれはもう何年前になるかな……」


 顎に手を添えながら昔の事を語り出すがガラだったけど、その姿は疲れ切った老人のよう見えた。




 ガラが勇者になったのは五百五十年程前で、その時も同じように魔王を倒そうとういう話になったがこの時は魔王討伐軍なるものが編成され、その大将に選ばれたのがガラだったらしい。


 選ばれた理由はまさに俺と同じで台座に刺さっていた聖剣を抜くことが出来たために勇者に祭り上げられ、勇者なら魔王と倒せるはずだという王の発言の元に大将にされ総数七万人にもなる討伐軍を率いて魔界に来たはいいが直ぐに様々なトラブルに襲われることになった。


 いざ魔界に来てみれば七万人いた討伐軍の内、実に半数が行方不明なっており、次に武器や武具の質の悪さにあるはずの食料がなかったりと実に様々だった。そして一番討伐軍を苦しめたのは人間界に帰るために術がなかったことだと自嘲気味に笑った。


 その事実に気づいた時誰もが混乱し大騒ぎになりもう戦どころではなかった、このまま戦えば無駄に死人を出すけだと考えたガラと討伐軍の司令部は、協議の末に討伐しに来たはずの魔族に助けを求めることにしたらしい。

 この頃には斥候などを放っており、その報告により魔族が人間が思っているような野蛮な者達ではないと分かったからだそうだ。

 

 そしてガラは大将として自分の首を差し出す代わりに他の者は許してくれないかと、自分でも虫のいい話だと思える頼みをすると当時の魔族はあっさりと受け入れてくれ、十分な食事に狭いながら雨風を防げる寝床も用意してくれ、更にはもう魔界に攻めてこないならという条件付きで全員を人間界に帰してくれたらしいが、その後が大変だったそうだ。


 戻ると直ぐに魔界での出来事を国王達に話し、魔王軍が侵略しようとしているというのは自分達の勘違いであることを伝えると、魔族に魂を売り払った裏切り者扱いされ討伐軍の者達も同じく魔族の手先とされて重罪人として追われることになったのだいう。


「でもどうしてそんなことになってしまったんですか? 確かに魔王を倒すっていう期待は裏切ってしまったかもしれませんけどあんまりじゃないですか」


 唇を尖らせるローラに俺も頷く、流石に話を聞いてる限りだと理不尽すぎというのが正直な思いだ。


「簡単なことだよ元々国王達の狙いは国に害をなす魔王を討伐することじゃなくて、国民の人数を減らすことだったからさ」


 どうして人数を減らさなきゃならないんだろ? そんな事をしたら働き手も減るから国力が落ちるだけで国としても困るだけだろうと思うが違うのだろうか?

 だが横を向けば理由が分かったのか兄貴は血管が浮き出るほどに手を強く握っており、ベイルは眉間に皺を寄せて肩を震わせている。その様子から何か良くないことがあったんだろうことは確実なんだけどそれが何なのかが思い浮かばない。


「実はね、その時は二年続けて酷い冷夏に見舞われて農作物なんかに大きな被害が出ていたのさ、それもうちに国だけじゃなく他の国も同じようにね」


 頭を揺らし唸りながら理由を考えている俺を見かねたのか、当時のことを説明し始めたがその顔はとても暗いものだった。どうらガラにとっては思い出したくない過去の出来事ようだな。


「国は酷い食糧難に襲われ他所から食料を輸入しようにも、当時は大陸規模で食糧難が起きてしまっていてそれも無理だった。そのままいけば確実に多くの者が飢えて死ぬことになる、少しでも犠牲を減らし多くの者を救うにはどうすればいいか? それは最初から救えないだろう者達を切り捨ててしまえばいい、早いうちに切り捨てれすばその分多くの食料が残るからね」


 流石にここまで語られれば俺でも気づけた、ローラも分かったのか悲しそうに目を伏せてしまっている。


「つまりは口減らしってことですか?」

「残念ながらその通りだよ。より多くの国民を救うために必要なことでも犠牲になる方はたまらないよ、そんな事を正直に言ってしまえば反乱を起こされるだろう、ならばどうするか? 答えは簡単だ、口減らしをする者達を元から敵対していた魔族達を討伐する事にして送り出し全員を死んだことにしてしまえばいい」

 

「やっぱりそうなんですか……あの元・勇者だったことは分かりましが、どうして聖剣が二本あるんですか?」


 肩を落とし半ば投げやりな気持でもう一つの疑問も尋ねてみた、神が与えたはずの唯一無二の聖剣のはずなのに、と思う半面ここまでろくでもない話が続くと本当に神が与えたかも疑わしいけどな! そして案の定俺の予感は当たってしまった。


「これは調べて判明したんだけど、聖剣なんて呼ばれているけど実際はただの魔剣の一種だったんだよ」

「何とっ!? 聖剣が魔剣ですって? その話をどうか詳しくお願いします!」

「あ、ああ元からそのつもりだよ。だから少しは落ち着こう!」


 思わぬガラの言葉に真っ先に反応したのはベイルだ、テーブルの上に身を乗り出し興奮しているのか赤くなり目を見開きながら詰め寄っている。そう言えば旅の途中でも色々と聖剣のことを使ってはメモを取っていたっけな。


「コホン、申し訳ありません予想外の事に我を忘れてしまいました。もう大丈夫ですので続きをお願いします」


 取り敢えず落ち着いたようだな、しかし聖剣が魔剣だったなんてどういことだ? 魔剣は魔法装置が組み込まれた武器の総称で、珍しいものではあるが特別なものではないのにどうしてそれが聖剣なんてことになったんだ? それに俺やガラにしか使えないってのもおかしな話だ。


「聖剣は通常の魔剣よりも遥かに大きな力を使い手に与えてくれるのは使い手である君なら分かるだろう? でけどその代わり聖剣は誰にでも使える魔剣と違い使い手を選ぶ、正確には魔力の波長が合ったのものでなければ使えないんだよ。

 最初は普通に魔剣として扱われていたんだけど次第にその特異性から聖剣てことなったらしい、それと後はそうした方が色々と国民を扇動し易いという国の思惑だろうね」

 

 聖剣によって勇者に選ばれた時に何度も可怪しいと思っていたけどこんな裏話があったのかよ、勇者だって煽てられて良い気になって魔界まで来たってのに、これじゃ完全にただの道化じゃないか。

 

「ちなみ形や武器の種類は違うけど似たようなものが沢山あってね、エアムア王国の聖槍にパラマ王国の聖躬、アッシリア国の神剣とかもそうなんだよ。こっちで確認できてるだけで二十はあるかな?」

「ぐはっ!?」


 精神的に打ちのめされ落ち込む俺に、止めを刺すかのように放たれる無情の言葉の刃、それを受けて全身からやる気と力が抜け落ちてしまい、そのまま床に崩れ落ちるかのようにして膝と両手を着いてしまう。

 

「そのなんだ、元気を出せよきっとそのうち良いことがあるからよ……と思うから」

「そ、そうだよね。悪いことばかりの人生なんてあるはずないもんね」

「良いこと言ったよマルム! 頑張って生きていれば次は良いことが待ってるよ、多分だけどね!」

「お酒はまだあるか今日は沢山飲んで沢山愚痴を言いなさいな、溜まっているのものは吐き出さなきゃやってられないでしょ」

 

 うぅう、ここまで同情されるのが苦痛に感じる日が来るなんて思いもしなかった。顔を上げてみれば映るのは何とも言えぬ微妙な、悲しんでいるのか笑っているのか哀れんでいるのか分からないような複雑な顔をしているオルガ達と同じように打ちのめされている仲間達だ、やっぱり皆もショックが大きかったのか、どっと老け込んでしまったように感じるな。


「えーと落ち込んでるところ悪いのだけどこれからどうするんだい? どっちらを選んでも僕達はできるだけの協力をしてあげるよ」

「そうですか、なら俺は……」

 

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