プロローグ
誤字脱字が多いかもしれませんが最後まで読んで頂ければ嬉しいです。
「皆、もう一度だけ聞くけど本当にいいのか? この魔法陣を潜ればそこは魔界だ、無事に生きて戻ってこれるかは俺にも分からないんだ、それでも一緒に行ってくれるか?」
俺は地面に描かれた魔界に通じている魔法陣を見ながら、今まで苦楽を共にしてきた仲間達に改めて問い掛けた。
なにせこの先は邪悪な魔王が支配し、恐るべき魔物が跋扈する世界だ。これまでのように順調には進まないだろう。誰かが、いや、全員が命を落とすことになるかもしれないんだ。そんな場所に行くことを仲間に強要することは俺にはできなかったからだ。
四人の仲間の内誰かが去ってしまうのではないか、もしかしたら誰も残ってくれず一人で魔界に向かわなければならないのではないか、と不安になったが返ってきた返事はそんな不安を吹き飛ばしてくれるものだった。
「おいおいハルト! 俺たちを見くびってくれるなよ、一年も一緒に旅をしてきたんだぞ? ここで尻尾を巻いて逃げ出すくらいならもっと前にやってるぜ! ハハハ」
力強くそう言うと俺の背中を叩いてくるのは、灰色の髪をした二メートル近くある巨漢の傭兵であるゲルトの兄貴だ。その大きな体躯に見合った大剣を軽々と扱い敵をなぎ倒し、多くの戦場を渡り歩いてきた強者で他の傭兵たちからも一目置かれている。見た目はちょっと怖いが本当は優しく頼りになる兄貴分みたいな人だ。
「ゲルトさんが言う通りですよ、折角ここまで来たんですから何もしないうちから逃げるわけにはいきませんよ。それに私だって教会に選ばれた聖女なんですから悪しき魔王を放置することなんてできません」
頬を膨らませながら怒ったように手に持った錫杖をブンブンと振り回しているのは青を基調としたローブを着た長い銀髪をした小柄な少女、ローラ = ベッソンだ。
女神を信仰している教会から聖女の称号を授けられている凄腕のヒーラーで、教会で大切に育てられたせいか少し世間知らずのところがあるが、その治療魔法で今まで何度も助けてもらったことか。
「どうせここに残っても暇を持て余すだけだからの、どうせなら最後まで付き合ってやるとするさ。それにお前達だけ行かせて向こうで何かあったらこれから飲む酒が不味くなっていかんだろうしな、お主はどうじゃベイル?」
「私が陛下から命じられたのは、王国を侵略しようとしている魔族とそれを操る邪悪な魔王を退治することですからね、たとえ一人でも魔界に行くしか他に道がないんですよ」
「だそうだ、良かったのうこれで全員で魔界行きが決定したぞ」
少し冗談混じりに言ってきたのは、深緑色の長い髪を後ろで一本に纏めている、切れ長の目をしたスレンダなエルフの女弓兵であるフリーデ = アルントだ、そのフリーデに質問されぶっきらぼうに返事をしたのは黒いマントに仕立ての良い服を着ている若い男で、この中でただ一人だけ貴族の出で侯爵家の三男で魔法使いでもあるベイル = イェフォ。
フリーデは一般の弓兵では当てるどころか届かせるのもやっとの距離にある標的を難なく射抜くことができるほどの腕前を持っている、伝説的な弓兵だ。
ベイルは若いながら有能な魔法使いとして貴族達の間で有名であり、今回はその腕前を見込まれて陛下から俺の旅に同行するように命じられた、少し文句が多いけどしっかりとサポートをしてくれるし俺達じゃ難しい交渉事なんかもこなしてくれるし平民だから馬鹿にすることもない良い奴だ。
「ははは、ほら見ろやっぱり誰も逃げようとする奴なんていなかっただろ? お前は少し心配が過ぎるんだよ、もっと気楽にいったほうが疲れない楽しいぜ」
「お主は少し楽観的過ぎると思うがまあいいか。ゲルトが言うようにここまで来たのなら、もう我らは一蓮託生じゃよ。それに今更逃げ出したりしたらそれこそいい笑い者になるからのう」
「そうですね私も逃げたりしてそのことが司祭様にばれたら、こっぴどく叱られてどんなお仕置きをされるか分かりません」
「ローラはまだいいじゃないですか、私なんて逃げようものなら王命を破ったとして反逆罪ですよ? 下手すればそのまま死刑、何てこともあるんです逃げたくたくても逃げれませんよ」
「そうかそれは大変だな、ならそうならないためにもとっとと魔界に行って、さっさと魔王を倒すしかないな!」
「……ありがとう、本当にありがとう皆っ」
全員が誰も去ることなく、一緒に魔界に行ってくれることが嬉しくて目にじんわりと涙が滲んできた、そんな俺をゲルトの兄貴は呆れたようなそれでいて優しい目をしながら、子供にするように頭をポンポンと軽く叩いてきた。元気づけているつもりなんだろうけど恥ずかしいな。
「よ、よし!なら行こう皆、俺達の手で魔王を倒して一刻でも早く王国に平和を取り戻すんだ!」
「おうよ!」「そうですね」「うむ行こうか」「仕方ないから行くとしますか」
こうして俺達は魔王がいる魔界に行くために魔法陣へと全員で飛び込んだ。
さて今更だが魔界に着くまでに少し俺のことを説明させてくれ、俺はアレッサ王国という国に生まれたただの農家の三男だ。
三男ともなると親から貰える田畑などあるはずもない、成人すると同時に仕方なく故郷の村を出て仕事を探しに王都に来て、そのまま国軍に入隊して半年程が過ぎた頃、国から勇者を選ぶ儀式なるものをやらされることになった。
まあ儀式といっても何も難しいことなんてしていない、建国の頃から伝わっているとされている台座に刺さっている豪奢な装飾が施された聖剣を抜くだけという簡単なものだった。
抜ければそれは聖剣に選ばれた証であり、その者こそが勇者なんだとか。多くの力自慢達が顔を真っ赤にして血管が浮き出るほど力んで聖剣を抜こうとしたが、びくともせず俺の番が回ってきた。
どうせ無理だ抜けるはずがない、さっさと終わらせようと思いながら軽く引っ張ったらあっさりと抜けてしまいその場はもう大騒ぎになった。あれには本当にびっくりした、力なんて入れていないのスポンっと抜けたんだからな。
それに驚いて抜けた聖剣をマジマジと見ていたら、監視役の近衛騎士達の手によってあれよあれよという間に陛下いる謁見の間に連れて行かれると、そのまま新しい勇者だと認められ直ぐに聖剣を扱うための訓練や魔物と戦う術などを叩き込まれたけどあれは地獄だった、だがその甲斐があって俺は以前よりも格段に強くなることができた。
やがて俺の成長具合を聞いた陛下から『もう十分強くなったであろう、そろそろ我が国の平和を脅かしている魔王を退治してくるのだ』なんて命令を受けたけど、その時は正直歳のせいで呆けてしまったのかと陛下の頭を疑ってしまった。
魔族という種族がいることは俺も知ってるし、村に居た頃も時々ゴブリンやコボルトといった魔族が悪さをしているのを見たり、他の場所で暴れているなどの話は聞いていたけど、魔王なんて英雄譚などのおとぎ話の中くらいでしか聞いたことがない。
なのにそんな本当に存在しているかどうかも分からない奴を倒せとは何を言ってるんだこの爺さんはというのが俺の正直な気持ちだ。
驚き間抜け面を晒す俺を見かねたのか陛下は説明をしてくれた、どうやら知らなかっただけで多くの国が魔王によって大きな被害を受けているらしいことが分かった。
そもそも俺が抜いた聖剣も大昔に神様が人間に、世界に害をなす邪悪な魔王を倒すようにと王国に授けてくれたものなんだとか。
やたらと長い話が終わると早速、魔王討伐の旅に出されることになったが陛下達も流石に俺一人じゃ無理だとちゃんと分かってくれていたらしく、一緒に旅に出てくれる仲間を集めてくれていた、そしてその仲間こそが今一緒にいる四人だ。
最初は不安ばかりの旅だったけどもう何も怖くはないぞ、俺には辛く険しい旅をともにした信頼できる頼もしい仲間達がいるんだ、皆と一緒ならきっと魔界がどんな場所だって大丈夫、魔王だって絶対に退治できるはずだ!
俺は転移魔法特有の浮遊感を感じながら、一人一人の顔を見ると必ず誰も欠けずに無事に戻ってくるんだと決意を固めた。