戦隊ごっこはいつも青
目立ちたがりの恥ずかしがり屋、それが青木輝だった。だから子供の頃の戦隊ごっこはいつも青。赤はリーダー、目立ちたがり屋の中心ヒーロー。絶対のポジション。輝はこのポジションに憧れを抱きつつも自分に合わないと子供ながらに気付いていたし、周りの仲間も輝を青にしたがった。周りの仲間からすれば輝の心情なんかよりも輝の苗字に青が付くという理由が強かった。輝はそれも重なって余計にヒーローの青に惹かれていった。近所の友達は赤間烈火と黄場猛。赤間が赤で黄場が黄色だ。理由も本人の希望とも合致していたが何より苗字に色がついていたからだった。
現在、青木輝は二十六歳。流通会社で事務をしている。身長は百七十センチ、体は細めでどちらかと言えば見た目は地味。性格は相変わらず目立ちたがりの恥ずかしがり屋。酒の席では活躍するが翌日は後悔でいっぱいだった。そんな輝の青好きは大人になっても変わっておらず、私服は勿論青中心だったし、スーツ姿でもネクタイは青、ワイシャツも許されるなら青系、メガネも青のフレーム。靴下や下着だって青だ。そんな青をこよなく愛し続けていた輝の前に彼女は現れた。
「本日より総務部に転属になりました青峰遥です。宜しくお願いします」
四月中旬、週の始まり月曜日。青峰遥を前にその場はざわついた。それは彼女の容姿にあった。こんなガチガチの会社で彼女の髪は青かった。そして瞳も青い。身長は百六十センチくらいだろうか。年齢は二十四歳。運動でもしているのだろうか、シュッと締まった体形をしていた。しかし彼女の青感は強烈で、勿論そんな恰好がこの会社で許される筈が無い。しかしその事について上司からの説明は無く、社内は終日噂話で持ち切りだった。配属ではなく転属となった辺りでその容姿が影響している事を誰もが想像せずにはいられなかった。
輝は強烈に遥に惹かれた。青好きの輝にとって自分以上に青好きを貫いている。これはきっと気が合うに違いないと確信めいた感情を抱いていた。輝はこっそりと人事係長の北村へ彼女について質問をした。
「係長、青峰さんなのですが、何故あのような容姿をしているのですか?」
「コスプレみたいだろ?俺も最初は驚いたよ。でも実は理由があってな、彼女は先天性で体の色素に異常がある病気なんだ」
「そんな病気があるのですか。それは複雑ですね」
「ああ。何か、彼女の体の事を皆の前で説明するのも悪い気がしてな」
「そういうのは事前に皆に説明するべきだったのではないですか?」
「そうだな。これは個々に説明しないとだな」
「そうですね」
「じゃっ、頼んだよ」
「え?」
「では、俺は課長と飯だから」北村はそう言うとその場を足早に去った。
「チッ、クソ野郎が」輝は北村の擦り付けに腹を立て、その背中を睨みつけた。ふと気になって遥の方に目をやると、教育担当の女子社員が気怠そうに作業説明を遥にしていて、遥はその態度に気に留める様子はなくメモを取っていた。輝はこの日から一週間かけて部署内一人一人に事情を説明した。仕事を擦り付けた北村には腹を立てていたものの、この行いで遥のイメージが悪くないものになるかもしれないと思うとそれは苦ではなかった。
金曜日。皆足早に仕事を切り上げ、退勤する。そんな花金でも、輝は残業をしなければならない状況にあった。誰とでも分け隔てなく付き合えるタイプでもなかった為、遥の体質について部署内全員に説明するのには時間と労力を必要とした。そのツケは金曜に重くのしかかる。十八時までの勤務時間で現在二十時。仲間は既にその場にはいなかった。残業という出口のない迷宮で佇む輝は、一服入れようと給湯室へカップ麺のお湯を入れに行った。
「ううぅ・・・」給湯室へ入ると、青峰遥がうずくまっていた。
「え?ちょっと、大丈夫?」
「ごふっ」
輝は驚愕した。遥が吐き出したのは青い液体。
「え?」輝は目を丸くした。
驚き固まった輝を遥はキッと睨みつけると、口元の青い液体を手の甲で拭った。拭いきれなかった青い液体は遥の口の横に伸びた。
「驚きました?」
「ああ。君の登場から今までずっと驚きっぱなしだよ」
「はは。吐血したって言ったら信じます?」
「嘘だろ?」
「嘘・・・って言いたい所だけれど、誰もいないこの場所で態々青い液体吐き出すメリットってないですよね。どうしよう他に思い浮かばない。青い血でも青い液体だろうと、中々生物から出て来る色ではないですしね。しかも一応私は人間の形をしているし・・・」
「人間・・・ではないのか?」
「あっ、一応、人間、のつもりですよ。世間が認めるかは微妙でしょうけれど。こんな青い女」
「でっ、でも俺、青が一番好きなんだぜ」
「何それ?口説いているの?」
「あっ、いや、純粋に青が好きなんだ。ほら、俺の格好見て」
「ふふ。本当だ。でも、何故?」
「理由なんてないさ。青が好きなんだ。それより吐血、大丈夫なの?救急車呼ぶ?」
「いや、勘弁してください。意外と大丈夫ですので」
「でも」
「いや、本当、大丈夫。それより秘密にして下さい」
「あっ、ああ、分かった」
「ありがとうございます。じゃあ、今日の事は二人だけの秘密でお願いします」遥はそう言うと小指を前に突き出した。
「何か、照れくさいな」輝はそう言って遥と指切りをした。
月曜。輝は青峰遥を意識せずにはいられなかった。性格に言えば金曜の夜から、もっと正確に言えば出会った瞬間からなのだが、特に意識しだしたのは金曜に目撃した遥の青い吐血した時で、今日は胸の高鳴りと共に遥を目で追っていた。
遥もまた輝を意識していた。その証拠に、幾度となく輝と遥は目があった。最初は気まずく目をそらしていたがその頻度の多さに、次第に微笑み合うようになっていた。
遥を取り囲む環境も変わっていた。最初は明らかに忌み嫌っていた様子の人たちも、微笑ましく遥と接していた。輝はその様子を目の当たりに達成感を感じていた。そして月曜の十八時、輝は仕事を終えると会社の外で遥を待った。遥は少し居残った様子で三十分後に姿を現した。
「よっ、おつかれ」輝は先輩面で遥に声をかけた。
「お疲れ様です。じ奴」遥は輝が待っていた事、微笑み加減から食事にでも誘おうとしている事を勘付き、その場から速やかに去ろうとした。
「ちょっ、ちょっと待ってよ」輝は遥の素っ気ない振る舞いに動揺し、慌てて彼女を引き留めた。
「すみません、用事があるので」遥はそう言って会釈をすると、足早にその場を後にした。
少しは脈ありだと輝は感じていただけにショックを受けたが、すぐさまポジティブに用事があると言っていた事を思い出し、空元気な鼻歌を歌いながら帰路に就いた。この日から金曜日まで輝は毎日遥を誘おうと待ち伏せたが、事ごとく交わされてしまった。一週間丸々同じパターンでお断りされては流石に脈がないと悟らずにはいられない。社内では相変わらず目が合うし、目が合えば微笑み合う。たまに居合わせたら微笑みながら言葉を交わす。しかしその全てが遥にとっては仕事の一つだったのだと輝は痛感した。
何も遥に興味を示していたのは輝だけではない。二週目の金曜日の退勤時間までに転属してきてから遥は既に三人の男たちから食事やデートの誘いを受けていた。勿論、その全てを一蹴していた。遥には実際、男とのデートなんかよりもっと大切な事を抱えていた。しかし遥に一蹴された男の中には全く相手にされなかった事を不快に感じた者もいて、その男が遥の悪い噂を部署内に流し始めた。噂は瞬く間に広がり、遥は再び鼻つまみ者として部署内で扱われるようになって行った。遥が転属してきて三週目の出来事だった。
「青峰さん、男をとっかえひっかえしすぎて転属になったらしいよ」
「不倫しまくっていたんだって」
悪い噂は留まる事を知らなかった。その状況に輝は危機感を感じ、三週目の金曜、再び遥に声をかけた。
「よっ。おつかれ」
「お疲れ様です。すみません、今日も・・・」
「忙しい所申し訳ないのだが、ちょっと社内での君の状況が良くないって事には気づいているかな?」
「あっ、噂ですか?」
「ああ。勿論、ただの噂だけど、されど噂だろ。また転属とかなったら面倒じゃん」
「そう言われても、弁解した所で信じてもらえないだろうし」
「少し話せないかな?」
「じゃあ、三十分、いや、一時間くらいなら」
「よし、じゃあ居酒屋で良い?」
「あっ、お酒は飲めないので、カフェとかで良いですか?」
「あっ、そうだよな、用事あるんだよな。分かった」
輝は駅近の一見さびれた雰囲気の喫茶店へ遥を連れて行った。その喫茶店はブルームーンという名前で店内ではジャズのブルームーンが流れていた。
「ブルームーンが流れているのね」遥はメニュー表を見ながら呟いた。
「えっ、知っているの?」
「良い曲だからたまたまです」
「良いよね。俺は青好きが高じてこの店に辿り着き、ここでこの曲を知ったんだ」
「もしかして他のも沢山あるんですか、そのブルーエピソード?」
「ある。それこそ人生二十六年分ある」
「生まれた時からの青好きですか」
「そう、生粋の青好き」
「ふふふ、じゃあ飲み物はブルーハワイですか?」
「あっ、いや、ブルーハワイは好きだけれど、さすがに今はコーヒー飲むよ」
「でも居酒屋でチャイナブルーとか飲もうとしていた?」
「ははは、良く頼むよ」
「私も好きですよ、チャイナブル―」
二人は少し会話を交わし続けた後、コーヒーを注文した。
「あの、えっと青峰さんは今の社内での立場、何処まで把握している?」
「はい、悪い噂なんていつも内容は変わりませんので。もうこの点に関してはどうして良いか分からなくて。なるようになれって思ってしまいます。昔は黒のカラコンしてみたり、黒髪のカツラ被ったり、髪を黒く染めた事だってあるんです。でも、それを続ける事に疲れてしまったし、何より赤の他人の為に無理して自分を偽る事に疲れてしまった」
「そりゃあそうなるわな。分かった、じゃあ俺が何とかするよ」
「ふふ、ありがとうございます。期待はしません、期待して駄目だった時悲しいですから」
「ああ、期待しろとはとても言えない案件だ。しかし、毎日、君は何をしているの?」
「え?プライベートなので。じゃあ、そろそろ行きますね」
遥のその一言に輝は時計に目をやった。時計の針は丁度、一時間後を指していた。輝はこのままブルームーンで夕食を済ますと言って遥を見送ると、どうやって遥の噂を無くすかをずっと考えた。また、遥が毎日頑なに誘いを断ってまでしている事についても知る必要性も視野に入れていた。遥のプライベート、それは確実に謎のベールに包まれている。
青峰遥が転属してきて四週目、輝は遥の悪い噂を無くすべく行動した。それは依然同様、一人一人に話をする事だった。以前とは違って、今度は普通に言葉を交わせる関係までにはなっているので、さり気なく懐に入りながら噂の出所を探った。まずは朝礼前に喫煙所で一年先輩の広田信に聞き込みを行い、広田は本間希から噂と聞いたと話したので、輝は本間の元へ。そして本間はその噂を人事係長の北村から聞いたと話した。そう、北村だ。
「北村係長、おはようございます」
「おお、おはよう。どうした?」
「あ、いや、青峰さんの噂について耳にしたのですが、何か知っていますか?」
「ああ、噂だろ?俺も聞いたよ」
「へー、誰に聞いたんですか?」
「誰?あれ、えーっと本間だったかな」
「本間さんは係長から聞いたって話していましたよ?」
「あー、そうだったかな。えーっと忘れちゃったな・・・」
「そうなんですね、可哀想ですよね、変な噂たてられちやって」
「そっ、そうだな」
話の出所は北村だ。輝は仕事後、再び遥を呼び止めた。相変わらず遥は忙しそうに足を止める事はしなかったが、今日の出来事を歩きながら聞くと、ピタッと足を止め、苦笑いをしながら再び歩き出した。
「逆恨みですね」
「どう言う事?」
「北村係長にはデートに誘われたんですけど、断ったんです。だから多分その腹いせです」
「何だそれ、あいつマジでクソ野郎だな」
「いるんですよ、そういう人」
「まさか今までもそんな経験が」
「まあ、慣れっこです」
「酷いな、俺が何とかする」
「なんかすみません。でもこういうの慣れているから、無理しないで下さい」
帰宅後、輝は考えた。上手く事を運ばないと足をすくわれる、そんな気がした。そして少し時間はかかるが北村以外の人たちと会話の中で誤解を解いていく他無いと結論付けた。しかしそんな思い空しく、週明けには社内メールで青峰遥の次のターゲットは青木輝だと写真付きで新たな火種がばら撒かれていた。メールの出所は不明。勿論、犯人は北村だ。写真は金曜日に二人で話していた様子を撮影したもので、渦中の人物が異性といただけで噂には拍車がかかってしまう。ざわつく周囲の視線を感じながら輝は北村の元へ足早に向かい、胸ぐらを掴んだ所で警備員に取り押さえられた。全て北村の計算通り。輝と遥は転属させられる事となったが、嫌気が指した輝は辞表を提出した。また、遥も輝の動向関係なく辞表を提出していた。そして輝がその事実を知ったのは最後の手続きで出社した時の事だった。自分の荷物をまとめていると同じように自分の荷物をまとめている遥が目に入った。輝は会社から出ると、遥を待った。
「よっ、おつかれ!」まるで何事も無かったかのように輝は遥に声をかけた。
「お疲れ様です。何かごめんなさい。私のせいで会社辞める事になってしまって」
「いや、それは違うよ。会社辞める切っ掛けが君だっただけさ。どの道ここに居続ける事はなかったんだって今は強く思っているし」
「これからどうなさるのですか?」
「考え中だよ。それよりこれでサヨナラっていうのも寂しいしさ、最後に食事でもどうかな?」
「そうですね・・・」
「今日も用事あり?」
「ええ、そうなんですけど、じゃあ、一旦、家に来ますか?」
「え?」
「どうぞ、青木さんなら信頼できそうだし」
「じゃあ、伺うわ」
遥の家はマンションの一室で、十一階の一番奥の角部屋だった。部屋の前からは二人が務めていた会社が入るビルを望む事が出来た。
「こっから、会社見えるんだな」
「そうなんですよね、今では複雑な光景になってしまいますが・・・まあ、どうぞ」遥はそう言って部屋の施錠を解いた。
遥の部屋は1LDKで色合いは黒で統一されていた。真っ黒の部屋に佇む真っ青の彼女は、まるで宇宙に浮かぶ地球の様だった。
「ちょっとここで待って下さいね」遥はそう言うと輝をリビングのソファーに座らせ、キッチンで手早くお茶を入れて輝の前に差し出した。そして着替える為にその場を後に寝室へ一度姿をくらませた。
輝は部屋を見渡した。この部屋にはテーブル、ソファーくらいしかない。恐らく正確に必要最低限の物しか置かないタイプなのだろう。五分程して姿を現した遥はブルーで薄手のスウェットを上に下はデニム、長い髪はポニーテールに結っていた。遥の普段着に輝はまじまじと見入ってしまったが、そこで気づいたのが腕に着いた痣と治りかけであろう切り傷だった。
「怪我、どうしたの?」
「あ?これ?これ、ちょっと」
「もしかして誰かに暴力振るわれたの?」
「あっ、いやそうと言うか違うと言うか・・・一方的ではないから」
「え?何?喧嘩?」
「え、ああ、まあほら、悪と戦っているとこうなる訳ですよ」
「ふっ、はぐらかすかー。まあ、いいや。分かった」
「まあ外傷は早めに治るのだけれど、内部の傷は少し時間がかかるんですよね。だからあの時、吐血しちゃったんですよね」
「あっ!分かった。格闘技でしょ?」
「あー、まあそんな感じですかね。まあ、それより何が食べたいですか?」遥はそう言うと、溜めてあった宅配のチラシを輝の前に広げた。ピザ、寿司、蕎麦、中華、ファミレスなど種類は豊富だ。
「時間、大丈夫なの?」
「そうですね、場合によってはすぐに出なきゃいけなくなるかもしれません」
「慌ただしいな。まあ、分かった。じゃあ、早く来そうなピザにしようか?」
「分かりました。じゃあ・・・」
三十分後、ピザが到着した。そして二人はピザを頬張りながら、今後について話し合った。
「実際、青木さんはどうするんですか?まだ決めていないって話していましたけど」
「君とずっといたいよ」
「いきなりですね。同じ会社に入るって事ではないですよね?」
「それも悪くないよ。その調子じゃ、新天地でも同じ問題に遭遇しそうじゃないか」
「確かに。まあ、それでも良いですよ。残業をあまり強いられない会社なら」
「プライベート重視か。なあ青峰さん、俺とアメリカとかどうかな?」
「え?アメリカですか?頭に無かった訳ではないですが、まさか青木さんの口から出るとは思いませんでした」
「アメリカなら、君の容姿でとやかく言わないだろう」
「ふふ、行っちゃいますか、アメリカ?」
「行こう。でも、アメリカでも君の続けたい事は続けられるのかな?」
「ええ、続けられますよ」
輝と遥は早速準備に取り掛かった。恋人同士でも愛を確かめ合ったわけでもなかったけれど、二人で渡米する事に何の躊躇いも抵抗も無かった。輝が遥を思う気持ちに疑いの余地は無かったが、遥も輝に惹かれていた。しかし、その胸の内を輝に明かす事は無かった。いつものらりくらりとはぐらかしながら絶妙の距離を保ち続け、二人は渡米した。
アメリカの空港内で輝は人影に気付いた。
「なあ、誰かにつけられていないか?」
「ええ、つけられているわ」
「奴らは一体何者なんだ?」
「敵よ」
「試合の対戦相手って事か?何、敵って?もしかしてまだ逆恨み的な何か?」輝は声を殺してそう言った。
「・・・ねえ、青木さん、秘密は絶対守るのよね?」
「当たり前だ。秘密と約束は守る」
「・・・私の正体はね、正義の味方、ブルーソルジャーなんです」
「ブルーソルジャー?青の戦士?」輝は驚きのあまり足を止めた。
「足を止めないで聞いて下さい。そう」
「え?ふざけてんの?って顔じゃあないよね・・・。じゃあ、レッドやイエローもいるのか?」
「ええ、赤は火星、黄色は金星。私は青で地球の平和担当なのです」
「じゃあ、奴らは悪の組織的な何か?」
「そう、奴らは地球征服をして手にしようとしている侵略者。私たちはインベイダーと呼んでいる」
その時だった・・・。一瞬の静寂、そして次の瞬間、空港一杯の大爆発が巻き起こった。輝が目を覚ますと、見るも無残な姿に変わった空港で、ブルーソルジャーがインベイダーと戦闘を繰り広げていた。一対二十はあるだろう多数の敵と対等に戦っていた。しかし、一対一になった所で、彼女は輝の前に吹き飛ばされた。
「青峰さん!」
「やられた。青木さん、あなたがブルーソルジャーになって」
「え?何言っているんだ?」
「分かっているでしょ?この傷、私はもう間もなく息絶える。だから、お願い、あなたが好き。私の唯一のお願い。私の力を受け継いで」
「今好きとか言うなよー、もー、分かったよ」
輝が涙を浮かべながらそう返事をすると、遥は輝にキスをした。そしてそのキスによって力が輝の全身に駆け巡る。
「私のブルーウイルスが今、あなたの体内を侵食し始めたわ。もう間もなく、あなたはブルーソルジャーとして生まれ変わる。ありがとう」遥はそう言うと、微笑みながらそっと目を閉じ息絶えた。
この瞬間、青木輝はブルーソルジャーとして新たな人生をスタートさせた。子供の頃、初めて抱いた夢、それは青の戦士になる事だった。そして今、それになっている。輝には信念がある。約束を守る事、愛を大切にする事、正義を貫く事。今から輝は地球の平和を守る為、戦いに明け暮れる。そしてその戦いは地球の平和が訪れるその時まで終わる事は許されない。