モモちゃんの戦記
くまさんが本当にいなくなってしまったことが、くまさんとずっと一緒だったモモちゃんには分かりました。地テーブルの上には朝食の準備がしてあり、昨夜つんできた花がコップで萎れていました。玄関先には数日分のお弁当がありました。それと一緒に、モモちゃんが着ていた産着と町までの地図も。
「私、泣かないわ。だって私、くまの仔だもの。」
それらをしばらくじっと黙って見つめていたモモちゃんは、明るく呟くと顔を上げて小屋を出ます。
「でもくまさん、思っていたよりずっと早いよ。」
でもモモちゃんだって、もう小学校を卒業する年になるのです。昔モモちゃんが植えたくまさんの木は、もう森で一番小さな木ではありません。
道中、小鳥たちに出会いました。彼らはモモちゃんを見て、哀しい声でさえずりました。
おおかみさん達に会いました。意気揚々と進むモモちゃんに、おおかみさん達は尾を垂らして道を開けます。モモちゃんは大きな声で歌いました。
くまさんは行ってしまったけれど、モモちゃんはくまの仔だから、負けません。空は今日も晴れています。
「私、泣かないわ。だって私、くまの仔だもの。」
モモちゃんは唇を引き結び、走り出します。町までの道のりはまだまだ。
モモちゃんは悲しくなんてありません。いつかくまさんに会ったとき、思いっ切り褒めてもらわなくてはなりませんから。
「くまさん!いってきます!」
くまさんの優しい声が聞こえた気がしました。
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