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モモちゃんはくまの仔

 国で一番大きな火山からずっと北に進んだところ。そこにある小さな町から巨人の足で一、二、三と歩いた場所に広い広い森がありました。

 森で一番大きな木と一番小さな木が並んで立つ、その下を潜り抜けると見えてくるのは小さな可愛らしい小屋。小さなモモちゃんはそこにくまさんと二人で住んでいました。

 モモちゃんは人間で、くまさんはもちろんクマです。



 小さなモモちゃんがまだ乳母車に乗っていたころ、森にお散歩に連れてきた女の人はくまさんを見つけてびっくり仰天。

モモちゃんの入った乳母車を置いたまま逃げかえってしまいました。ひどいです。

でも無理もありません。モモちゃんのくまさんはとびきり大きくてハンサムなのです。

くまさんは女の人はすぐ戻ってくるだろうと思っていたのですが、森にすむ狼の群れと大きなカラスが赤ん坊のモモちゃんを狙っているのに気付き、仕方なく乳母車を押して連れ帰りました。

 くまさんはモモちゃんをとても大切にしていたし、モモちゃんは黒くてふわふわで、モモちゃんの三倍も大きいくまさんのことが大好きでした。


 森で一番大きな木はモモちゃんの木で、毎日モモちゃんが水をやります。これは昔々、くまさんのご先祖様が植えたどんぐりの木で、くまさんがモモちゃんの誕生日にプレゼントしたものでした。

木の上の方にはモモちゃんのための小さなブランコがかかっています。くまさんに手伝ってもらわないと乗れないくらいの高くて長いブランコ。ぐうんと漕ぐと森のずっと奥まで見渡せてまるで鳥になったような気分で、モモちゃんは大好きでした。


 森で一番小さな木はくまさんの木で、毎日くまさんが水をやります。これはモモちゃんが拾ってきたどんぐりを植えた木。くまさんの誕生日にモモちゃんが植えたものです。

いつかこの木が大きくなったらくまさんが木陰でお昼寝できるように、モモちゃんはこの木の下に真っ青な芝生を敷きました。

くまさんの大きな大きなジョウロではこの小さなどんぐりの木はいつも流されそうになってしまうので、毎日モモちゃんが水やりのお手伝いをしているのは二人だけの秘密。

また、モモちゃんの小さな小さなおててではモモちゃんのどんぐりの木に必要なだけの水を運べません。だから本当は、毎日くまさんが水やりのお手伝いをしています。

二人に話し相手はお互い以外にいなかったけれど、これも二人だけの秘密です。


 ほら、こんなふうに、モモちゃんとくまさんはとっても仲良く暮らしていました。



 モモちゃんは本当なら小学校に通わなくてはならない年です。

くまさんにはモモちゃんに勉強を教えることは出来ません。この森の中では友達を作ってやることもできないでしょう。ですからくまさんは本当は、モモちゃんは町の中で暮らすべきだと考えていました。

くまさんは、もうずいぶん前から、モモちゃんのお父さんとお母さんが誰かということもそのお家の場所も知っていたので、本当はいつでもモモちゃんをそこへ帰すことが出来るのです。

そうしないのは、ひとえにモモちゃんがそれを望まないからでした。


「きっと町に住めば友達が幾人かできるだろう。そして君には友達が必要だと思う。それでね、君を探している人たちのことを知っているんだ。」


 くまさんは時たまそんな事をモモちゃんに言いました。

モモちゃんは町の事を知りません。

でもくまさんはモモちゃんが帰りたいと言い出すことを望んでいることには何となく気が付いていました。そして同時にモモちゃんにここに居てほしいと思っていることにも。くまさんはモモちゃんよりずっと大人です。でも小さなモモちゃんだってもう小学校に通う年。だからモモちゃんは毎回、何も知らないふりをして笑い、諭すように言いました。


「お友達が?可笑しなくまさんね。ここの家にいるのはくまの仔だけよ。」


こんな時くまさんは、とても嬉しそうに、そして少しだけ悲しい顔をしてモモちゃんの頭を壊れ物を扱うようにそっとなでてくれます。

モモちゃんはくまさんのちょっと固い肉球の感触が好きでした。


「君はどこへでも、行きたいところへ行けるんだよ。」


 モモちゃんが、覚えていないお父さんとお母さんのもとへ行くより、このままくまさんと一緒に暮らしたいと考えるであろうことくらい、くまさんには簡単に想像できました。

でもくまさんはいつも、小さなモモちゃんに選択を求めます。

それはつまり、他の世界を何も知らないモモちゃんに、この森に居続けることを強いているのと大した差はないのかもしれない。

くまさんは密かにそんな風に思い悩み、くまさんのそばを離れることなど考えたこともないモモちゃんはいつもそんなくまさんを笑って許します。


モモちゃんは幸せいっぱい

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