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1話:神の庭

 神庭祥子は、緊張していた。


ホテルの最上階にある高級レストランのフロアーを丸ごとかしきって、2人だけの食事。


緊張しないわけがなかった。祥子の目の前に居るのは、神庭昌吾・・・祥子の保護者である。高級そうな背広をスラリと着こなし、左手首には、金で作られて高級腕時計を身につけている。


裕福な家庭・・・いや、実のところ、裕福なのは、神庭省吾だけである。祥子に与えられたのは、最低限の生活資金と安アパートだけ。


かってに生きろといわんばかりの突き放した神庭昌吾の方針は、祥子にとってとても都合がよかった。


毎日、昌吾と顔を合わせる様な生活は、自分には無理だと理解していたからだ。


月に一回の会食をするだけの関係でも、神庭昌吾が神庭祥子の保護者である事には、違いない。


「優秀な人間が居たとしよう。だが、その優秀な人間が複数集まって、集団になったのなら、その集団は、優秀だと言えるのか?」


突然だった。


唐突にそう祥子に質問をぶつけてくるのは、毎度の事であった。祥子は、そんな昌吾の事に嫌な顔すらせずに、キリっと表情を引き締めた。


「例え、優秀な人間であろうとも。その価値観、思想の違いにより、集団において相互の能力を否定し、足を引っ張る事になります。よって、集団においては、優秀な人間は・・・優秀ではなくなります」


「よろしい。では、優秀な人間でなくとも、同じ価値観、思想を持つ集団では、どうだ? その能力は、優秀な人間に迫るのではないか?」


「確かにその可能性は、十分あるといえます。しかし、それでは・・個性が無くなり、種としての多様性が失われます」


「それは、人間が進化すると言う仮定での話だろう?」


「………?」


「人間は、退化する事があっても、進化などしない生き物だ。食物連鎖の輪から外れ、文化を拠り所にしなければ生きていけない人間に進化などありえない。人間が再び、進化を手に入れるには、文化を捨て食物連鎖の輪の中に組み込まれる事だ。故に集団に置いて、個性、多様性は、必要無いのではないか?」


「それは・・・価値観、思想の統一こそが・・・優秀な集団だと・・・いえ、人類が優秀な種になるには、それが必要であると?」


「そうだ。だが、今の世の中はどうだ? 8割の知能があると錯覚した猿どもと2割の優秀な人間が猿ども管理している社会だ。猿は、どうあがいた所で猿でしかない。ならせめて、価値観、思想統一こそが猿を人間に押し上げる術だ」


淡々と語られる神庭昌吾の考え方に何時も祥子は、身震いを覚えるのだ。この男の考え方、思想は、とても極論であり・・・現実味を帯びない妄想とも思える。しかし、神庭昌吾には・・・それを成しえる財力と権力がある。


彼の発言には、狂気と現実・・・そして・・真実が見え隠れする。祥子は、そんな神庭昌吾に恐ろしいとさえ思う様になっていた。


「人間は、進化しない。しかし、別の方法もある。人間には、文化と知識が存在する。知識は、可能性だ。進化しないのなら、人為的に進化させる方法もある」


「無理矢理進化させる? 遺伝子を操作すると言う事ですか?」


「ああ、それも可能性だ。だが、もっと良い方法が存在する。遺伝子を弄る事では、所詮・・・動物である事から抜け出せない。人間が次のステップに進むには、動物である事をやめると言う事だよ」


「動物である事を・・・辞める・・・・」


「人間は、所詮動物だ。遺伝子に組み込まれた本能や欲求に逆らう事などできない。本能や欲求を廃した知性は、より高度な知性へと進化する可能性がある」


祥子は、神庭昌吾の言っている事が解らなかった。動物である事を辞める・・・これは、いったいどういう事であろうか。人間は、何処まで行っても動物である事から抜け出せない。人間は、動物だ。いや、動物であるからこそ人間なのだ。と、祥子は、そう思った。


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