第一章 Ⅲ 決闘
「く、クレインが一人ではぐれた…!?」
アルマイヤーは、報告を聞いて唖然とした。
山賊たちの攻撃から二時間あまりが経過している。
ダリルの背中で目を覚ましたアルマイヤーは、慌てた様子のルシアからここまでの話を聞いていたのだ。
ここは事前に決めていた合流地点の一つ。
アリシアとルシア、そして『親衛隊』の面々は、山賊の追撃を振り切って最も近いポイントでダリルやグレアムと合流することができた。
ポイントは他にもいくつか設定されており、襲撃を受けた際に散り散りになった時はこれらのうちのどれかを目指すようにとホルスが指示していたのだ。
現在ここにいるのは約三十名。ホルスを含め、残りの二十名の安否はわからないままである。
ルシアが半泣きで報告を続けていた。
「最初は一緒に逃げていたんですけど、副長にだけ矢が飛んできたんです!
そしたら一人で離れていっちゃって……」
「つまり、クレインは囮になったのか」
「そうだと思います。
それと、副長がなんだか変だったんです! 弓兵は女だとか、まだ他にも男が追っかけてきてるとか。
なんでわかるんですか、って聞いたら、自分もよくわからない、って」
「ふぅむ。グレアム、確か最初に襲撃だと叫んだのもクレインだということだったな?」
アルマイヤーが傍らでともに報告を聞いていたグレアムに確認すると、彼は黙って頷いた。
「そうか……なぜ奴がそこまでわかったのかは、今は置いておくとしよう。
グレアム、クレインのプランではこの後どう行動することになっているのだ?」
「はい。ポイントはそれぞれ第一目標の川に近づくように設定されています。そして、その川が最終合流地点になっているので、そこで全員が合流する予定ではあります」
「……逃げきれていれば、ということだな」
グレアムが頷くのを見て、アルマイヤーは深呼吸を繰り返した。
――まだ体はまともに動いてくれない。私も老いたものだ、この程度でお荷物になってしまうとは。
「隊長、だいじょうぶっすか?」
ダリルが心配そうに声をかけた。何でもない、とばかりにアルマイヤーは手を振った。
「いまはクレインのプラン通りに進もう。まもなく夕方だ、日が落ちる前に川へ到達したい。
……申し訳ございません、姫様。護衛を命じられながら、指揮官の私がこのような体たらくで」
彼はアリシアに向かって頭を下げた。
「そんな! もともとそのお怪我は、私を助けに来られてなさったものです。
むしろ私のせいで皆様を危険な目にあわせてしまって……」
そこで言葉に詰まり、彼女は悲壮な表情を浮かべた。ルシアが駆け寄って慰める。
周囲に沈黙が下りた。皆、不安げな表情だ。無事に村にたどり着けるのか、他の仲間は生きているのか。
実際に襲撃を受けたことで、気が沈んでいるのである。
――パン! と手をたたく音が響いた。
一様に驚く面々。
「くよくよしてても、仕方ないっす! 今は川に行きましょう。オレが川魚で御馳走しますから!
それに他の皆も副長も、腹空かして待ってるかもしれないですよ。
……特に副長なんて、待ちくたびれて昼寝してるんじゃあないっすかね?」
励ますように声を張ったのはダリルだった。
アルマイヤーを背負って逃げ続けたので、流石の彼にも疲労の色が見える。だが、それを感じさせないような力強い声に、全員がどこか勇気づけられたような気になっていった。
「そうだな、そんな場合ではない。
――出発しよう。ダリル、すまんが荷物を頼む」
一行は、希望を捨てないように自分に言い聞かせながら川を目指して進む。
……だがアリシアだけは、その俯いた顔を起こせずにいたのだった。
時は少しさかのぼる。
ホルスは木々の中をひたすらに駆け抜けていた。
――アリシアらと別れてからも矢は次々と襲い掛かってきたが、今のところすべて避けることに成功していた。
どうやら追ってきている女が矢をこちらに向けるたびにあの現象が起きるらしい。
今はそれを信じて逃げるしかなかった。
「うわっ!?」
木の根か何かにつまずいて盛大に転ぶホルス。
立ち上がろうとした瞬間に、もう何度目かわからないあの感覚がやってきた。
――相も変わらずあの女だった。だが、その表情がさっきまでとは違うことに彼は気づいた。
なんだ? 何を焦っている?
ホルスはその感覚の中で女の様子を注意深く観察した。
焦った顔。美人だ。煽情的な衣類。銀の髪に豊満な肢体。汗をかいている褐色の肌――いやいや、それは今どうだっていい!
気を取り直す。
――軽装。弓と矢。腰に大型のナイフ。空の矢筒。……空っぽ? そうか!!
世界が元に戻る。
彼は身体を起こさずに大きく転がった。
瞬間、すぐ横に突き刺さる矢。
「これで、もう矢は無いはずだ……!」
ホルスは起き上がって再び駆け出した。頭に叩き込んである地図を思い出し、最適なルートを考える。
目指すのはどこか、剣を振るいやすい開けた場所だ。
――追ってきたのは、あの女だけ。矢がないなら背中の剣で迎撃できるかもしれない。
無論、切れ味には期待できないが、その硬さは既に証明されている。鈍器としてなら申し分ないだろう。
彼は遮二無二走った。
どれくらい走っただろう。
女は追ってきているはずだが、あれから一度も矢は飛んできていない。どうやらあの感覚で見たものは正しいようだ。
そして、川に近づきながらの道中で、開けた場所。
該当する場所が一ヶ所だけあったことを思い出したホルスは、ついにそこにたどり着いた――。
「……馬?」
そこは周りを鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた原っぱ。まるで球技を行う広場のようだった。
そして、そのど真ん中。
一頭の馬がのんきに草を食んでいたのである。
見事な毛並みをしているその馬は、立派な鞍を背にのせていた。
馬上に乗り手は見当たらないが、警戒するに越したことはない。ゆっくりとホルスは馬に近づいていく。
――この馬、どこから来たんだろう。まさかこの森の中、木を避けながら……?
馬に触れるほどの距離まで近づいた。
見事な毛並みだ。相当大事に手入れをされているのがわかる。
その馬は、ホルスがこの距離まで近づいても逃げるどころか警戒さえしていないようだ。
いい馬だな――。
ホルスはつい、ゆっくりとその馬体に手を伸ばしてしまう。
「おう、俺の愛馬を盗もうとはいい度胸じゃねえか」
いきなり聞こえてきた声に、ホルスは反射的に振り返る。
男が、腕を組んで立っていた。
夕陽色に染まった赤い髪。百九十センチ前後の身長。年齢もおそらく三十前後と、共にダリルと同じぐらいか、それ以上だろう。だが、その顔立ちは洗練にして精悍。申し訳ないが彼とは比べ物にならない。
その筋肉質の体を護るは、厚手のレザーアーマーと鉄製の胸当て。
そして最も目を引くのはその背中に背負った両手剣だ。
二メートル以上。百三十センチのホルスの剣よりずっと長く、そして太い。その形に合う鞘などないのだろう、むき出しのまま背負っていた。
こちらの出方を見るつもりか、ニヤニヤと笑いながらホルスを見ている。
……だが、その眼光は決して油断していない。
碌な戦闘経験などないホルスだが、肌で感じた。――目の前の男は、一流の戦士であると。
「……兄さん、だんまりかい? 聞くかどうかは別だが、言い訳ぐらいすればいいんじゃないのか」
ニヤついたまま、男が再度話しかけてきた。
――戦えば勝てない。これは、どうにか言葉で突破口を見つけるべきか。
意を決したホルスはとりあえず、
「いや、いい馬だなと思って触りたくなったんです。ごめんなさい」
極めて正直に答えてみた。
それを聞いた男は一瞬目を丸くし、大笑いを始めた。
「ハハハハハ! まあ確かに、ソイツは最高の馬だ。
……なんだ、アンタも馬に乗るのか? のんびり歩くのが好きそうなツラだが」
「走るよりは歩くのが好きです。でも、馬に乗るのも好きですよ。仕事でも使いますし」
「ほう、どんな仕事をしてるんだい?」
「ごらんの通り、軍人ですよ。見えないとはよく言われますが」
男のニヤケ面が、ほんの少しだけ真面目な顔になった気がした。
「……ふん、隠す気はないのか」
「軍服を着ているのに、嘘をついたところで隠せるわけがないので。
――で、あなたは? 木こりや狩人には見えないけど」
「なんだと思う、軍人さん」
「傭兵か、山賊。……あるいはその両方かな」
「おう、両方で正解だ。やるな」
「……隠す気はないんですね」
大笑いする男。
ホルスは会話中にも頭を回転させて逃げ出す算段を立ててみたが、まったく成功しないという結果しか導き出せなかった。
――こうなれば、情報収集しよう。
ホルスは、思い切って尋ねることにした。
「で、貴方がこのあたりの山賊の親玉ですよね?」
「まあな」
即答だった。いろいろと正直らしい。
「一応聞いてやろう。どうしてそう思った」
「立派な馬、立派な鞍、どうみても特注品の両手剣。そんなの持ってる人が下っ端な訳ないでしょう」
「それもそうだ。よく見てるな、兄さん。俺が怖くないのかい?」
「まあ、怖くないといえば嘘になります。
でも、さっきまで弓矢で撃たれてたので。こうして対面していれば、少なくとも貴方から矢は飛んでこないでしょう?」
「なるほど、なかなか肝が据わってるじゃねえか。――エルヴィが殺せなかったんだ。運も実力もあるようだな」
男がゆっくりと背中の剣を手に取った。
二メートルの剣を軽々と一回振ると、ブォンと風切り音が唸る。
彼のニヤケ面は、いつしか好戦的な笑みと呼ばれるものに変わっていた。
「挨拶は終わりだ。死にたくなきゃ抵抗しな。――最も」
男が剣を上段に構える。
――こうなれば、もう運に任せるしかない。ホルスもまた、背中の剣に手をかけた。
幸運をもたらした剣だ、運頼みをするならこれが今は一番だろう。
「抵抗できるのならなあ!!」
振り下ろされる大剣――ホルスは剣を抜くことができずに横に跳んで避けるしかなかった。
男の剣は地面に深々と突き刺さる。
「――なんだ、その剣は飾りかい、兄さん」
「はあ、飾りにもならないというか、なんというか……」
やや失望したような男の声。
彼は無造作にグイッと大剣を持ち上げると、肩に担ぐ。
「俺は無抵抗の相手に剣を向けるのは好まないんだが」
「あの、我々はあなた方を捕まえにとか、そういう目的で山に入ったわけじゃありません。怪我人もいるので、できたら見逃がしてくれませんか?」
「……自分の首と引き換えに、か?」
「いえ、私も死ぬのは嫌です」
「なら、俺を倒すしかないな。――剣を抜け。次からは本気で殺しに行く」
顔つきが変わる。好戦的な無頼漢から、冷徹な殺人鬼へといったところか。
――すまない、皆。合流できそうにない。
ホルスは覚悟を決めた。どうせ死ぬのなら、全力で抵抗してやろう。この男がここにいる限り、仲間たちにその剣先が向かうことはないのだから。
再び背中の剣に手をかけ、今度は一気に引き抜いた。
刀身が光り輝く。
正眼に剣を構えて――ホルスは思わず言葉を失った。
「……えっ?」
「ほう?」
男からも嘆息が漏れる。
ホルスが構えていたのは、まさに正真正銘、長剣と呼べる代物だった。
新品とはいかないが、まるで歴戦を耐え抜いてきたような長剣。武骨な美しさとでもいうのだろうか。派手ではないが、存在感がある。
一瞬別の剣を持って来ていたのかと思ったが、その柄の部分の意匠は確かに見覚えのあるものだ。
「兄さん、実は名のある剣士かい? それはなかなかの名剣だと見受けるが」
「さっぱり、わからない。どうなってるんだ……」
「まあ、いい。アンタを殺した後で、そいつはもらうことにしよう」
賞品が現れたことで、男の雰囲気が再び好戦的なものに変わった。
ホルスは、動揺しつつも剣を構えて出方を待つ。
「いい顔だぜ、兄さん。さあ、遊ぼうぜ……!」
「くっ!?」
再び大剣が振られる。今度は横に薙ぐような軌道だ。
二メートルの大剣が繰り出すリーチに避けられないと判断したホルスは、せめて受け流そうと剣を合わせた。
ギィン!!
弾かれる互いの剣。男がひゅうと口笛を鳴らす。
「……驚いた。その剣が折れないようにと加減はしたが、まさか弾かれるとは。兄さん、どこでその剣を手に入れた?」
「話せば長くなる。お茶でも飲みながらどう?」
返事の代わりに再び攻撃が繰り出された。ホルスも剣を合わせる。
四合、五合と繰り返される剣戟。男の攻撃は、そのどれもが一撃必殺の威力だ。死と隣り合わせの緊張感がホルスを襲うが、しかし彼は奇妙に冷静だった。
「ねえ、なんでそんなに手加減してるの?」
「……何?」
男の動きが止まる。
ホルスが妙に落ち着いていられる原因がそれだった。何度か男の大剣と打ち合ったが、思ったほどの衝撃がないのだ。
身体の動きが止められることもないので、ともすればすぐに反撃に出られるほどに。
殺すといっておきながら手加減されていることに、ホルスは訝しんだのである。
男は、確かめるように二、三度自分の手を握っては開いてを繰り返したが、やがてホルスの方をまっすぐ見つめた。
「兄さん、名は」
「ホルス」
「そうか。俺は……フォルカだ」
「それ、本名?」
「さあな。悪かったな、ホルス。ここからは本気を出させてもらう」
また、男の――フォルカの顔つきが変わる。好戦的でも、冷酷でもない。澄んだ瞳。
あれは、『武人』のそれだとホルスは思った。
ブォン!
――予備動作も何もなく大剣が牙をむく。速い……!
ホルスはかろうじてだが剣を使って防御した。弾かれる大剣。だが、やはりそこまでの衝撃はない。
三合、四合。やはり変わらず、弾かれる。響き渡る金属音。
もう何度目になるか、それが続いた頃。
そこで、ここまで防戦一方だったホルスが思い切って剣を突き出した。
「ちぃ……!」
フォルカの表情が初めて苦々しいものになる。弾かれた大剣の軌道を腕力で強引に変え、自身の胸に向かう剣に対して合わせようとする。
だが。大剣は弾かれる。
「なんだとお!!?」
咄嗟にフォルカはしりもちをつくように地面に倒れる。ホルスの突き出した剣は空を切った。
彼は転がるようにしてホルスから距離をとったが、驚愕の表情は消えていない。
このあたりで、流石のホルスもその異常性に気付いた。
フォルカが手加減しているのではない。これは――
「なんなんだ、その剣は!? どれだけ力を籠めても跳ね返しやがる! そんなのアリか!?」
そう、ここまでホルスは自分から相手の剣を弾こうとしたことはない。むしろ受け流すつもりで剣を合わせたほうが多かった。
にもかかわらず、フォルカの大剣がホルスの剣に当たった瞬間、それは必ず弾かれるのだ。
――まるで、見えない何かに押し戻されるように。
見るとフォルカは肩で息をしていた。手加減なんてとんでもない。彼は全力で大剣を振り回していたのだ、それは疲れもするだろう。
とたんにホルスは申し訳ない気分になり、
「なんか、ごめん」
と、つい謝ってしまった。
両者の間に、しばらく無言の時間が流れる。……やがて、ハァとため息が聞こえた。
フォルカである。
「調子が狂う奴だな、お前は。もういいから、そこに座れ」
そうホルスに促すなり、彼は大剣を背に戻して自分も座り込んだ。攻撃はしないという意思表示である。
ホルスも剣を鞘に戻すと、彼に続いた。
「もう一度聞くが、ホルス。それをどこで手に入れたんだ」
「いや、本当に話せば長くなるんだけど」
「いいから話せ!」
彼の剣幕に押されたホルスは、かいつまんでこちらの事情を話した。――さすがにアリシアの事と、あの謎の現象の事は伏せているが。
「――で、私だけここに逃げてきて現在に至る、と」
「……つまり、今日の朝それを鞘に入れたときは、まだボロボロだったわけだな?」
ホルスは黙って頷いた。
「なんとも不思議な話だぜ。歩いてる間に綺麗になっちまうとは」
天を見上げるフォルカ。空が赤い。時刻は間もなく夕方である。
――ややあって、彼はホルスの方に向き直った。
「おいホルス。一度俺らのアジトに来い。
その手の変なもんを研究してるやつがウチに居候してるんだ。その剣の事も何かわかるかも知れねぇ」
「ええと、それ、誘拐の新しい手法?」
「ちげえよ馬鹿。俺を負かしたその剣が気に食わないだけだ。攻略法を見つけねえとな」
その言葉を聞いたホルスが、目を輝かせる。
「いま、負けたって言ったよね」
「ん、ああ――あ、いや! お前にじゃねえぞ!?」
「でも、負けたのは事実だろう。なら、約束は守ってもらうよ」
「約束だぁ?」
訝しむフォルカにホルスは要求を伝えた。
「――フォルカ!」
「おう、エルヴィ。遅かったな」
フォルカに要求を呑ませた直後に、女が広場に飛び込んできた。
彼女はそのままフォルカの胸に飛び込み、二人は熱烈なキスを交わす。
その女、エルヴィがホルスに気付いたのは、たっぷり三十秒以上のキスを終えた後だった。
「フォルカ、コイツ見逃すの?」
「ああ。話は付いた。他の兵隊たちも今回は見逃す」
「へぇ。珍しい」
べたべたとフォルカにくっつきながら甘えるエルヴィ。
煽情的かつ肉感的な彼女がそうしている姿はなんというか、すごい。
ホルスは羨ましそうに見ていた。
「そういや、追いかけっこはしただろうが、姿を見るのは初めてか。
こいつはエルヴィ。まあ、俺の嫁だ。エルヴィ、コイツはホルスって言うらしい」
じゃれつくエルヴィを撫でながらフォルカが紹介した。まるで飼い主とペットである。
――もっとも、ホルスは既に『感覚』の中で何度もその姿を見ているわけだが。
そのエルヴィがホルスを見て、言った。
「アナタ、足が速いのね。それに、体力もある。山で暮らしてたの?」
「ん、いや王都育ちだよ」
「そう……。私たち、一時間以上追いかけっこしてたのよ。その間アナタはずっと全力疾走だった。
おかげで私、途中で見失っちゃったんだから」
「え?」
一時間以上、全力疾走していた――?
そんなに長時間走っていたのだろうか。それにしては息切れした覚えもあまりないのだが。
考え事をするホルスをよそに、フォルカがエルヴィに言った。
「ホルスをウチに連れていく。『先生』に話があるんでな。
お前は先に戻って、部下にあの兵隊たちを探すように言ってくれ。探すだけだ、手は出すなよ?」
「わかった」
エルヴィはフォルカに短くキスをすると、森の中へ消えていく。
「いい嫁さんだね」
「ああ。……乗りこなすのは大変だったがな。コイツと同じだ」
などと意味深なことを呟くと、フォルカはいつの間にやらそばにいた愛馬にまたがった。
「コイツの名はエステリ。乗れよホルス」
「あの、もしかして馬でこの森の中を走るの?」
「心配すんな、俺は慣れてる」
「俺は、ね……」
なんとか命を拾うことができたのに、またしても命がけの乗馬が待っているとは……。
思わずため息をついてしまったホルスであった。