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妹のハムスター

作者: 一齣 其日

内容が内容なのでお蔵入りになっていた作品

去年の冬のはじめだったか、ハムスターを飼い始めた。

 発端は妹だった。急にハムスターを飼いたいといい始めたのだ。どうやら何かしらの思いがあるみたいだったけれど詳しいことはわからない。

 ただあまり僕はハムスターを飼うのに積極的ではなかった。むしろ反対していた。しっかり飼えるかの不安と、家にはまだ犬を飼っているからだ。

 弟は僕とは違う意味で反対だったが、母さんが妹の味方をし、父さんはどっちでもいいよというかんじだったので、結局何週間後にかにとうとうハムスターを買ってきた。

 正直反対はしていたものの、動物は好きだった自分は、もしゃあないかと思いハムスターを可愛がることにした、というよりハムスターが可愛すぎたので少しだけ夢中になってしまった。

 妹は毎日毎日熱心に可愛がっていた。籠の外に出しては手の上にのせたりヒマワリの種をあげたり、ときには、手のひらで糞やおしっこをしてしまっても怒ることはなく、笑って済ましていた。やはり女の子なのか、可愛いものには夢中になるんだと思わずにはいられなかった。

一緒に飼っている犬もよく可愛がっていた。ゲージの外側から、犬用のお菓子をあげたり、なでたりしていた。ときには散歩に行きたあいといって、僕に付き添いをさせることも多々あった。正直なところめんどくさいし、どうせ行くなら一人でいきたかったのだが。

話が逸れてしまった。とりあえずハムスターの方に戻そう。

僕も妹がハムスターを出した時に手にのせて遊んでいた。これが可愛くてしょうがない。しかも暖かいやら、感触がいいやらで至福を感じる。これは妹が可愛がるのも無理はない。

 でもこういうことがいつまでできるのかはわからない。昔、ハムスターを飼っていた友達によると、約一年ほどで死んでしまったそうだ。あまりにも早い寿命に呆然としかけた。でも、そうだからこそ今可愛がらなくてはいけない気もする。短い寿命のなかで、どれだけの思い出を作れるのか。

 だが、思い出なんて、そう作れなかった。

 ハムスターを飼い始めて、三週間ほどだったか。突然ハムスターの挙動がおかしくなった。

 エサはあまり食べす、動きが硬くなり、だれが見ても異常

を感じることができた。その姿は見てるだけで、心が痛くなりそうだった。

 妹は心配しすぎて泣き始める。僕もハムスターについてはそう詳しくはない。しかし、できうる限りのことはしようと思った。ケータイでハムスターの情報を集めるだけ集めた。最終的に湿度が原因じゃないかと思った僕は、ストーブをガンガンにつけて、どうにか乾燥させようともした。

 翌日になると、ハムスターは元気そうにケースの中を走り回っていた。僕と妹は一安心した。これで何とかなったんだと。

 だが、翌日にハムスターは死んでしまった。

 見つけたのは妹だった。あまりにも不自然な倒れ方をしているので心配になったので母さんに話し、そして僕が呼

ばれた。母さんは死亡判定するのが怖かったらしい。しぶしぶ自分が直にハムスターを触って確かめることになった。

 しかし、僕も怖いのだ。たかがハムスターの死骸だろと、自分に言い聞かせたが、怖い、怖い、怖かった。

 そんな気持ちを顔に出さないようにしつつ、僕はそれに触れ手に乗せる。

 ああ、これは死んでいる。手に触れることで、その実感が揺らぎないものに思えた。

 死後硬直なのか、その体は硬くなってはいるが案外もろそうだった。どこにでもあるようなおもちゃのような感覚もした。

 それと同時に、気持ち悪いという感情が心を支配した。早く手から離してしまいたい、こんな気持ち悪いもの。

 薄情なのかもしれない。でも、本能的に気持ち悪いと感じる以上、自分ではどうしようもできなかった。手に乗せたハムスターを、ぽいとケースの中に落としたのもそんな感情からだった。

 その日の夜のうちに、母さんと妹と一緒にハムスターの死骸を花壇に埋めてあげた。

 僕はもう一度ハムスターの死骸を手に乗せることになったのだが、心を鎮めることで気持ち悪さを我慢した。

 逆に、その死骸の観察を少しばかりしてみた。観察とは言ったものの、実際は糞が垂れ流しになっていて、窒息死したことぐらいしかわからなかったのだが。

 ハムスターを埋めるときがやってきた。

 母さんと妹は結構泣いていたように思える。母さんはともかく、妹はかなり可愛がっていたからしょうがないように思える。本当に女の子なんだと、あらためて思えた。

当の自分はというと、どうにも泣くことができなかった。妹ほどじゃないにしろ、自分もそれなりにハムスターを可愛がっていたはずなのに。

手を合わせて、ハムスターの冥福を祈る。妹は天国で元気でねと声をかけていた。

その時、ふと思い出したことがあった。

 ハムスターの挙動がおかしくなったときにケータイでかき集めた情報の中にこんなものがあった。

それはあるサイトの知恵袋で、ハムスターが死んでしまったという質問があった。

 その質問者はずいぶん可愛がって手に乗せたりして遊んでいたらしい。しかし、その質問の回答者によれば、その行為はハムスターをいじめているのと同じだという。自分がどんなに可愛がっていても、ハムスターは苦しんでいるという。結局あなたがハムスターを殺したのだと、その回答者は言っていた。

 そういえば、妹も自分も同じようなことをしていたっけと、思い出す。

 よくよく考えれば、僕らは生き物をおもちゃのようにして遊んでいたのかもしれない。

 そしてハムスターは一か月足らずで死んでいった。本当にハムスターをわかっている人たちから言わせてみれば、ハムスターが死んだのは、ハムスターを殺したのは僕らじゃないかということになる。

 あんまりな話かもしれない。でも、死なせてしまったのには変わりはない。

 こんなこと、隣にいる母さんと妹には言えなかった。

 これ以降、僕らの家ではハムスターを飼っていない。また買う可能性もあるかもしれないが、おそらくはないだろう。

 


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