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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
時の抵抗(2)
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時の抵抗

 翌朝。

 見張りの交代を挟んで、俺たちはレイラとセシリアさんが目覚めるのを待った。


「おはよう。今日も遺跡調査日和かな?」


 テントから出てくるなり伸びをしながら翼を広げたレイラは、空を仰いですぐに訂正する。


「ひどい雲だな」


 まったく今日の天気は良くない。広い平原の中央に位置するモリス村は、一年中気候が安定している。だからそうそうひどい雨は降らないはずなのだけど、今日は妙に重たい雲が低く垂れ込めていた。雲が低く見えるのも、はるか頭上を覆った木々のせいなのかもしれない。


「どうせ遺跡は室内だから、まあ関係ないんじゃない?」


 マイが言うと、強い風が森の頭を撫でて、轟々と唸った。


「なんか嫌な予感がする」


 俺のつぶやきに応じたのは、テントから出てきたセシリアさんだった。


「悪い予感を持てば引き寄せてしまうものよ。気のせいと信じなさい」


「それに、曇り空や強い風が悪いものという考えは、太陽神信仰しか知らないからこそ感じることだ。世の中には嵐の神ル=ロウド様もいらっしゃるのだから、これもまた、神の恵みの一つと思えばいい」


 珍しく神官戦士らしいことを言ったレイラは、水袋から水を一杯飲んで、もう一つ大きく伸びをしながら声を上げた。


「よし、今日の予定だが、私たちが水場を探す。明日の出発前に、体を洗うくらいのことはしたいだろう? マイたちはまた遺跡探査。地上部分の調査を終わらせてしまいたいな」


 たしかに水は浴びたいけど、この雲行きなら雨に降られて嫌でも水を浴びることになりそうだ。


「やっぱり地下も調べたいわよね?」


 マイが片眉を上げて困惑したような表情を作る。


「そうなると、危険じゃない範囲で急がないとダメかな。パート、アレン、行きましょ」


 まだレイラたちが起きたばかりで探索には早い。それでも、マイは急かすように入り口に向かい、パートもそれに続いた。


 せっかくレイラが目覚めたっていうのに、また別行動か。


 内心でつまらなく思ったけど、しかたなく俺もマイの後を追う。視線の先で、パートがもう一度照明を光らせた。


「行ってくる」


 わざわざ振り返ってレイラに言ってみる。レイラはにこやかな笑顔で片手を軽く上げ、


「あんまり好奇心でものを触るなよ」


と言うと、今度はあくびをこぼして口を覆った。


「仲良しねぇ」


 踵を返すとマイが悪そうな笑顔でおちょくってくる。


「うるさいな、ほら、行くんだろ?」


「んもう、つまんないぞ、アレン」


 追い越したマイの非難を背中に受けながら、パートが照らした遺跡の中に、もう一度足を踏み入れた。


 相変わらず、遺跡の中は暗い。上の階に行けば窓を覆った植物も無くなって、少しは明かりが漏れるのかもしれないけど、今日の天気ではそれも望み薄だ。


 予定通り、階段を登っていく。3階の踊り場で、パートが足を止めた。


「います。レンザバンです」


 照明は階段の先を照らしていた。3階のフロアには、すでにこちらを警戒しているのか、クモ型の魔動機が1台、じっとこちらを見つめている。クモ型といっても、その胴体はそれ自体が銃みたいな作りをしている。どれが目なのかなんてわからないけど、銃口がこちらを向いているということは、こちらを見ているということなんだろう。


「ここで仕留めておきますか?」


 パートが弓を抜かずに確認する。こちらが交戦姿勢を取れば、レンザバンも攻撃を開始するだろう。そうでなくとも3階に登ってしまえば交戦することになるのだから、ここで1台だけでも駆除しておくのは悪くない気がする。


「いえ。相手が連動していたら厄介よ。相手に見下ろされた状態で戦うのは歓迎したくはないでしょ?」


 沈黙のにらみ合いが続く。

 しかししばらくして、俺たちが身動きを取らないのに焦れたのか、レンザバンは向きを変えて、左手の廊下に消えていった。


「何台くらいいる予定なの?」


「わからないけど、6台以上ね。レンザバンだもの」


 どういう魔動機なのかという説明はすっかり忘れていたけど、マイがいうからには6台以上いるんだろう。ひょっとしたら、廊下の左右に分かれているかもしれない。挟み撃ちをうけるのも、それはそれで歓迎したくはない。


 パートがベルトのようなものを取りだして、魔動機の照明を左手首に固定する。パートが弓で狙っている方向しか照らされないから、暗闇からの攻撃に気をつけないといけない。


「突入したら二人は左を排除して。右の数は私が確かめるから」


 マイなら暗視ができる。本当はこの位置から魔法で支援してもらってもいいんだけど、敵の数を確認するのが先決だ。


 ・・・でも、右の方が多かったら?


 左を手早く片付ければ済むだけのことだ。あまりにも数が多かったら、マイが撤退を宣言してくれるはずだ。あとは反復攻撃をすれば、相手の数には限りがある。


「アレン、号令だけお願い」


「了解。3、2、1、行くぞ!」


 3人で階段を駆け上る。廊下に飛び出した瞬間に左を向くと、足元にさっきのレンザバンが1台だけ、こちらに尻を向けている。


「こっちに6台!」


 マイが叫ぶ。そのときには、パートはすでに矢を放っていた。矢はレンザバンの足の付け根を貫通して、動きを制する。ワンテンポ遅れたが、俺も飛び込んで、小型の魔動機を全力で叩き潰す。


 軽い金属音と共にその銃身がひしゃげて、動作が停止したのがわかる。

すかさず振り返って、反対の6台に向かって駆け出そうとしたとき、パートに突き飛ばされた。


「上です!」


 振り返ると、パートが照らした天井に、レンザバンが張り付いていた。

見えなかったけど、パートは相手の弾丸から守ってくれたのだろう。


 パートは矢をつがえて、素早く引き絞って放つ。射抜かれたレンザバンの足が天井に張り付き、本体は引き剥がされて落下する。自由落下する魔動機なんて、俺の的だ。すかさず拳を引いて、全力で突き出す。


 炸裂音に続いて、ガシャンと金属がつぶれる音がする。

 弾き飛ばされたレンザバンがもう一度起動することはないはずだ。


「連結した! 伏せて!」


 俺とパートの間に、マイが頭から飛び込んでくる。

 俺たちがその声に反応するよりも早く、暗闇の中から高い炸裂音が響いた。

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