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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
時の抵抗(1)
70/83

暗闇の中で

 元来た廊下を抜けてレイラたちのところに戻ろうかと思ったら、マイに腕を引っ張られた。


「まだ。二階まで安全確保をしてから戻りましょ」


 外も日が傾いているのか、もう薄暗くなっている。パートのマギスフィアから放たれる照明の方が、まだしも明るい。


「マイさん、これを」


 その光がマイに手渡される。俺に渡すのはダメで、マイはいいのかよ。


「矢を補充してきます」


 パートは玄関に向かう。

 矢束にあった12本の矢は、もう残り4本になっていた。24本持ってきたはずだから、虎に使った分も合わせて、もう半分は失ってしまったことになる。ひどい消耗戦だ。


「ほかのみんなは?」


 エントランスの向こうから、レイラの声だけがはっきりと聞こえた。


「そうか、マイに迷惑かけるなとアレンに言っておけ」


 何か偏った報告が行われた気がする。パートが言えば客観的事実なのかもしれないけど、俺だって俺なりに頑張っているつもりだ。


「ですって」


 俺の顔に向けてマギスフィアの光を向けながら、マイが悪戯っぽく言う。いやに白い光に目が眩んで、俺は思わず手をかざす。


「迷惑かけてないだろ?」


「あら、自覚がないみたいね」


 光を下げたところで、入り口にパートの姿が現れる。


「とにかく、遺跡では余計なことはしないように。それさえ守ってくれたらいいのよ」


 余計なことって、俺、何かやったっけ?

 扉の開け閉めくらいしか自分でやってない気がする。たしかに、あのときマイが怒っていたような。


「では、行きましょう」


 マイから光を受け取ったパートが再び先導して、俺たちは2階への階段を進んだ。

階段も石造りで、踏んでいる限り古びた印象は受けない。ただ、踊り場の窓が突き破られて、大きな木の枝が中に覗いている。当然、踊り場から先は、その気から落ちた葉が積もって、柔らかく朽ちている。


 二階も似たような構造だった。左右に廊下が伸びていて、左右に部屋が連なっている。ガラス窓で仕切られていたのか、ぽっかりと口を開いた壁面の足元にはガラスが散乱している。


 その只中に、赤いランプが灯っていた。


「おい、なんかあるぞ」


 先導するパートを追い越してランプを覗き込んでみると、何か円い突起が付いている。


「これ、さっき言ってたボタンってやつ?」


「押しちゃダメ!」


 マイに尋ねると、見るより先に悲鳴にも似た指示が飛んできた。


「さすがにわかってるよ。最初に注意されたし」


 パートがランプの付近を照らすと、壁の一部が赤いパネルになっていて、その中央、胸の位置にランプが付いていた。魔動機文明時代にこれが何に使われていたのかなんて、俺にはさっぱりわからない。


「消火栓ですね」


 パートがぼそりと言って、照明を足元に置くと、パネルをいじり始める。


「パートは触っていいのかよ」


 非難を込めてマイに指摘すると、マイは「当然でしょ」と相手にしてくれない。


「まだ水が通っています。どこかに貯水槽と動力に接続されたポンプ室があると見た方がいいでしょう」


 そう言ってパートが照明を取り上げ、俺たちの方を振り返ったところで、いつも固まっているパートの表情が体ごと硬直した。いつも一緒にいる俺たちだから、その変化を見逃さずに済んだ。


 マイがすかさず振り返る。


「何、いまの!?」


 俺がやっと振り返ったところで、マイが俺の腕に飛びついて背中に隠れる。でも、俺の振り返った視線の先には、何も見えない。


「光の先に何かいるの?」


 パートの照明があるとはいえ、10mくらいしか照らし出してはくれない。暗視能力のある二人にだけ、何かが見えているのかもしれない。

 俺の背中から恐る恐る首を伸ばして、もう一度前を確認したマイは「はあ」と息をついた。


「なんか蜘蛛みたいな虫みたいな、気持ち悪いのが這ってたのよ。パートも見たでしょ?」


 パートはゆっくり頷くと、弓に矢をつがえながら「・・・たぶん、魔動機です」と応じて表情を引き締める。


「蜘蛛の魔動機って、何のためにそんなもの作ったの?」


 魔動機文明は謎だらけだ。どうしてそんな気持ち悪いものを作る必要があったのだろうか。


「知らないよ! とにかく3階に登ってったみたいだから、危険な存在かどうかっていうことだけでも確かめないと・・・」


マイが嫌そうに言う。


「・・・あれ? 蜘蛛みたいな魔動機って、なんか勉強しなかったっけ?」


 前にも同じことを思ったことがあるような気がする。たしか糸の代わりに水を出す、変な魔動機がいた気がする。


「・・・レンザバン!!」


 マイ先生が冷静さを取り戻して、思い出してくれたみたいだ。


「放水する魔動機よ。水とポンプが生きてるってことは、いまでも水圧銃で侵入者を排除してるはず」


 さっきから二人が言ってる、ポンプってなんなんだろう。水をどうにかする魔動機なんだろうけど、魔動機通じゃない俺にはさっぱりだ。


「で、倒しとくの?」


 俺にとって重要なのはそこだけ。相手が何であろうと、戦う必要があるなら全力で潰す。まだまだ戦闘以外のことで貢献することはできなさそうだし、それならその分、戦って信頼を勝ち取らないと。


「いえ。レンザバンなら、侵入しない限り攻撃してこないはず。かえってそのおかげで安全性は確保されたと見ていいんじゃないかな。他の敵もレンザバンが排除しているってことだし」


 つまり外で泊まる分には、安全確保はこれで完了ということか。


「よし、降りて一旦休みましょ」


 せっかく補充した矢を使う機会はなかったものの、俺たちの1日目の探索日程は無事に終了した。

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