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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
時の抵抗(1)
68/83

忘れ去られた罠

 どこからともなく響いた音に続いて、劇場全体の5ヶ所で太い柱がせり上がった。

 一瞬でわからなかったけど、柱の上に何か大きな魔動機が乗っていた気がする。


「アレンさん!」


 パートが柱の一つに駆け寄りながら俺に声をかけると、柱に背を当てて両手を腿の上に乗せた。柱の上に俺を跳ね上げるつもりか?


「相手は!?」


 パートに向かって走りこみながら叫ぶ。


「ガーウィ! 勉強したでしょ!?」


 俺と同時に駆け出したマイの悲鳴に似た声が耳に入る。

 ・・・ガーウィ? 勉強したっけ?


 右足をパートが構えた両手に乗せて踏み込むと同時に、パートはその両手を押し上げる。俺の体がぐいと持ち上げられて、背丈よりも高く伸びた柱の上まで飛び上がった。柱の上で受け身を取って構えると、ところどころ塗装が落ちて錆びた金属の塊が置かれている。


 古すぎて故障したのかと疑った瞬間、魔道エンジンの起動音が響いて、金属の塊から銃身と一体化した腕が左右に伸びた。立て続けに金属塊はぬっと立ち上がって、俺とそう変わらない背丈になる。


 こんなガチャガチャの金属の塊、殴ったら俺の拳が痛そうだ。


 しかし文句は言っていられない。相手の銃身が俺に向けられるより先に、その肩に拳を突き出す。拳を覆ったハードノッカーのおかげで、俺の骨にダメージはない。これだけ体勢が崩れるなら、柱から叩き落とせるかもしれない。

 大きく体勢を崩したガーウィに、立て続けに2発の拳を浴びせる。金属が軋む音がして、ガーウィは後退る。叩きおとすにはわずかに及ばない。次の拳を構えたところで、視界の左右奥の方に、別の柱の上から俺を狙う魔動機の姿を捉える。


「まずい!」


 とっさに目の前のガーウィの体を捕まえ、引き込んで一方の射線を塞ぐ。

 立て続けに4発の発砲音が響く。一発の弾丸が俺の脇腹をかすめて、魔力が炸裂する。

 ほとんど同時に、俺が捕まえていたガーウィの魔道エンジンの動作音が停止する。こちらには直撃したみたいだ。


 脇腹をおさえて、柱から飛び降り、双方の射線が通らない側に隠れる。

 そこには、すでにマイとパートが柱を背にカバーしていた。


「パート、いい判断だった」


 この柱の上のやつをはじめに始末していなければ、隠れた頭の上から弾丸が降り注いでいたことになる。


「でもどうするの? この距離じゃ走ってる間撃たれ放題でしょ? パート、ここから狙える?」


 マイが言うと同時に、弾丸が柱の脇を抜けていく。狭苦しいカバーポイントに、俺たちは3人で一層縮こまって肩を寄せる。


「いえ、体を出せば撃たれます。相手の装填のタイミングを狙うしかありません」


「装填っていつ?」


 今度は柱に弾丸が当たったのか、魔力が炸裂した鋭い音が響く。相手は劇場の中列客席の左右に現れた柱の上からこちらに撃ち込んでいる。俺たちは舞台前の柱の陰。あとは後列の左右にも柱が出ている。この距離じゃ射撃はできないだろうけど、その上にもガーウィがいるんだろう。


「ガーウィの装弾数は・・・たしか3発」


「えっと、じゃあ次?」


 相手が何発撃ったかなんて、いちいち覚えていられない。


「あー、最悪」


「アレンさんに撃って、そのあと2度撃たれましたから、いまでしたね」


 マイのため息に続いて、パートがほとんど同時に言う。


「行く?」


 一応尋ねてみても、パートが首を振る。


「もう遅いです」


「じゃあ、次の3発が終わったら?」


「そう願いたいところだけど、たぶん無理。ほら、次がこないでしょ? 私たちの位置を確認するまで、待っているつもりなんじゃない?」


 マイが頭を抱える。打開策が必要になるということだ。

 一斉に駆け上がってまた俺が柱によじ登るか、誰かが囮になってパートの射撃をアシストするか。


「よし、弾丸くらいなら俺が躱せるだろ」


「撃たれて頭おかしくなってない? 大丈夫?」


 マイはそう言うと、俺の脇腹の傷の状況を見て、手をかざして回復する。


「おかしいのは前からだろ? 俺がこの柱の上に出るから、相手が撃ってきたらパートは右のやつを射抜いて。それで相手が続けて撃ってくるようなら、俺はここに戻って、3度目の射撃のあとに右の柱まで一気に走ろう」


 俺の提案にパートは同意するが、マイは難色を示す。


「つまり、アレンは4発の一斉射撃を躱すつもりってこと?」


「そうなるな。柱の上の魔動機を盾にする時間もないだろうし。そうだ、ヤーマの時にやったあの光の盾、使えないの?」


 マナを圧縮して光の盾を作り出す魔法を、マイかスタンリー司祭のどちらかが使えたはずだ。


「あれは蛮族とかアンデッドの攻撃にしか機能してくれないの。あくまでそういう勢力と戦うために、神様がお与えくださった力が神聖魔法なんだから。あーでも、あそこまで強力じゃないけど、守りの加護を与えることはできるから、やっておくね」


 マイが首にかけた聖印を握って目を閉じると、マイを中心に地面から光が湧き出る。あのときみたいに、マナが俺の目の前で盾になるようなことがおきないから、あまりあてにしちゃならない程度の防御なんだろう。


「光の加護で体の中のマナを少しだけ活性化しただけなの。体に当たってからその傷が深くまで達するのを防ぐだけだから、前みたいに当たる前から防いでくれるような強力なやつとは違う。はっきり言って気休めだから、それは忘れないで」


 マイが念を押す。何を言われたって、やることは変わらない。


「パート、頼む」


 助走をつけるほどスペースに余裕はない。たった二歩だけ踏み込んで、再びパートに押し上げてもらう。重力に逆らって、俺は高く飛んだ。


「来いよ!」


 着地と同時に左右の魔動機に目を走らせる。両手に組み込まれた銃が、左右からこちらを狙った。


 バババッ


 銃声が響くと同時に、かがめた姿勢から高く飛び上がる。後ろ向きに宙返りしながら体をひねる。弾丸が低く唸って耳元を通り抜ける。わずかに遅れて、もう一つの弾丸が捻った体をかすめていく。


 俺はそのまま柱の裏側に落下して、再びマイとパートの前に着地する。


 スコンッ


 自分の強運に感動していると、間抜けな音が右のほうで聞こえた。


「行けます!」


 パートが号令して駆け出した。

 すかさず俺も後を追って、パートの矢に体勢を崩したはずの右のガーウィめがけて走りはじめる。


 わずかに登り階段になった走りづらい床面を上った先の柱に、パートが背をつけて再び身構える。


 バンッ


 左側から銃声が響いた。走りこむ勢いを殺さないようわずかに身をかがめるが、俺には弾丸が飛んでこない。


「早く!」


 パートが叫んだ。


 額に血が流れている。

 パートを撃ちやがったか。


 両腕の支えに跳ねあげられて、俺はまた柱の上に飛び上がった。

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