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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
時の抵抗(1)
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カロンの森

 宝石から飛び出したガストの上位種は、セシリアさんの指示通りに、レイラの斧を二人でうんしょと運び始めた。

 あれほど手間をかけさせられた影法師とそっくりな魔法生物が、重たい斧を持ち上げ、かいがいしく俺たちの馬についてくる様子は、見ていて少しおかしかった。


「道中の危険は?」


 俺がレイラに尋ねると、先にマイが応答した。


「もちろん、野生動物が生息しているから注意して。熊とか虎とかいるらしいから」


 カロンの森は、村の近くの森の中では一番大きな森だった。村の近くと言っても、教会の鐘楼に登って西の方を見渡して初めてその縁が見えるくらいには遠い。当然、俺も初めて足を踏み入れる森だった。


 実際に足を踏み入れてみると、入会地としても利用されている北森やはなれ森とは、まったく様子が違っている。まったく踏み荒らされていない背の高い草が辺りを覆っていて、馬の踏む土は腐った草木でいくらか柔らかい。木々は相変わらず高くそびえて日を遮っているけど、その木々にたくさんの蔦が走っているあたり、植生の違いを実感する。


「そんなでかい動物、村のあたりじゃ見たことないけど・・・」


 もしも村のあたりにまでそんな大型動物が出没したら、ガストのときと同じくらいには騒ぎになるかもしれない。特に、獰猛な熊や虎は冒険者の討伐対象にも指定されることもあるくらい、素人には手に負えない恐ろしい存在だと聞いている。


「村までわざわざ狩りに来ないくらい、この森は豊かで、大型動物が渦巻いているってこと。わたしも、この森には好き好んで近寄りはしないわよ」


 後ろから、セシリアさんのセクシーな囁きが聞こえる。

 優しく腰に添えられた両手を、あらためて意識してしまう。馬を歩かせるだけで済んで良かったと思う。走らせたら、セシリアさんに後ろから抱きつかれることになる。それはちょっと嬉しいけど、緊張してしまいそうだ。


「つまりは、常に敵襲注意ということだ」


 レイラが左右を警戒している。いちばんはじめ、山猫を見つけたときには、レイラがその存在に気づいていた。きっと今回も、研ぎ澄まされた勘で相手を見つけてくれるはずだ。


 聞きなれない鳥の声が「アオッ」と響いた。割と大きな鳥が木にとまって、こちらを不思議そうに見下ろしている。翼を少しだけ広げると、黄色と赤の鮮やかな羽根が見える。


「あれはロシレッタの方に生息してる、海オウムね。こんな内陸まで飛んできてるなんて・・・」


 ロシレッタ出身のマイがすぐに解説してくれる。


「鳥の生息地は、まだよく調査できてないの。だから、同じ鳥に地域によって全然別の名前が付けられることもあるんだって。冒険のついでに、そういうのも記録してみようかしら」


「学者にでもなるのか?」


「マイなら、そういうのもあっているかもな」


 俺たちがそう口にしたとき、隊列の右脇の茂みが揺れた。


 グァウル!


 喉を鳴らすような音と同時に、レイラの馬に何かが飛びかかる。


「敵だ!」


 叫びながら、俺は馬を飛び降りる。ハードノッカーに腕を通し、茂みに倒れたレイラと白馬の元に走り込む。


 ふいに、傍から大きな動物が飛び出してくる。

 突然の攻撃に俺の反応は遅れてしまった。鋭い爪が肩に突き立たてられ、重たい体が俺を押し倒すすさまじい重圧としてのしかかる。


 ゴアァッ!


 トラ柄の巨体が俺の左に飛び退く。見ると、首に矢が刺さっている。パートの素早い射撃が、的確に急所を捉えたみたいだ。


 この間隔で俺とレイラに攻撃したとは思えない。相手は2匹だ。


「レイラ! 無事か!?」


「ダメ!! 早くっ! なん、とか!」


 悲鳴にも似たレイラの声が、茂みの向こうに聞こえる。しかし、首に矢を受けた虎がその道をふさいでいる。


「すぐ行く!!」


 俺は踏み込んで、虎の飛び出しを誘う。動物の本能か、相手はもう一度全体重で俺を押しつぶそうとする。しかし、人間の学習能力をなめてもらっては困る。

 俺は重心を引き気味に構えると、身をかがめて、飛びかかる虎の下に体を滑り込ませる。前足の爪を躱した直後、俺は両肩で虎の腹を突き上げた。


 バスン!!


 虎の大きな体躯がひっくり返されて、地面に叩きつけられる。そこに、細剣を引き抜いたセシリアさんが喉をひと突きする。


 それを視界の隅に捉えながら、レイラの元に走り込む。


「この! ああっ!」


 レイラは足を馬に挟まれ、その上から虎がのしかかって、身動きがとれないまま虎と戦っていた。左腕に食いつかれていたが、その腕を引いて虎の動きを封じつつ、短刀を虎の目に突き刺している。


「アレン! 早くっ! 腕がっ!」


 それでも、虎の威勢は落ちていない。前足でレイラの体を抑え、レイラの腕を引きちぎらんばかりに、胴を引く。


 反射的に、俺の拳が突き出される。炸裂音が響く威力の拳を受けても、虎は食らいついた腕を離さない。立て続けに拳を繰り出す。


 3発目の拳が虎の骨を打ち砕いたとき、ようやくレイラの腕は解放された。


「アレン! 後ろ!」


 息を吐こうと思ったとき、マイが叫ぶ。

 何が起こったかわからなかったけど、俺は茂みの中に顔面から突き倒された。


 とっさに身を翻しながら繰り出した肘打ちが、血だらけの虎の大口を横殴りにした。


「生きてたのかよ!? パート! 射て!」


 金属鎧のあるレイラと違って、俺が噛みつかれたら首ごと引き抜かれてもおかしくない。


 虎が再び口を広げたとき、またしてもパートの放った矢が虎に突き立てられた。

 一瞬虎を躊躇させるが、再び大きな口を広げて、俺の首に牙をつきたてようとする。


 ・・・ストラル・スルセア・エスパドル!


 マナの刃が、虎の首を切り裂いた。

 すんでのところで、虎が力を失う。


「パート! こっちも!」


 レイラが悲鳴をあげる。


 斜め上から矢が飛んできて、レイラにまたのしかかろうとした虎の脳天に、矢が突き立った。それでも虎はよろよろと2歩だけレイラに向かい、ついに崩れ落ちた。


「二人とも! 大丈夫!?」


 茂みをかき分けて、マイが顔をのぞかせる。


「レイラの手当てをしたら、これどかすの手伝って」


 食いつかれこそしなかったものの、俺は力尽きた虎の下敷きになっていた。

 傷は、レイラの方が重いはずだ。


「左足と左腕をやられた。馬も手当てしてくれ」


「ああ・・・なんてこと・・・」


 マイが絶句するのが聞こえる。レイラの傷はやはり重いのだろう。でも神聖魔法があれば、腕ごと引き抜かれない限りなんとかなる。


「パートは付近の警戒を! いい位置取りだ!」


 ひどい負傷で激痛に悩まされているはずのレイラが、パートに指示を出す。

 パートはいつの間にか付近の木に登ってあたりを観察している。


「虎の縄張りなら、他の生物はいないわよ」


 セシリアさんが顔をのぞかせて、虎の亡骸を抱えて持ち上げようとする。やっぱり、セシリアさんじゃ力不足だ。


「こんなのがごろごろいるって言うんじゃないよな?」


 手当てを受けてレイラが立ち上がったところで、それに寄り添うマイに尋ねる。なんとなく、答えはわかっていた。


「蛮族も寄り付かない森なの。あとは、わかるでしょ?」

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