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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
時の抵抗(1)
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気の抜けた出発

「いや、レイラ。それは…いくらなんでも、無理だと思う」


 大斧を担いだレイラを見て、マイがため息交じりに言う。親父から怪力の腕輪を借りてみても、やっぱり力不足で、レイラの足元がおぼつかない。


「それに、そんなの、馬が保つの?」


「それについては…」


 レイラが斧を振り下ろして地面に突き立てると、馬にまたがった。すでに馬には、宿泊用の毛布がくくりつけてある。


「たぶん大丈…んっ、とっと」


 馬の上から、地面に突き刺さった斧を片手で引き抜こうとしても、力がうまく入らないみたいだ。馬の方がわずかによろけてしまう。


「すまん、アレン。手伝ってくれないか?」


「俺? たぶん俺じゃ持ち上げらんないよ、これ」


 そう言いながら、斧を持って引っ張ってみる。腕だけで引こうとしたら、肩が外れそうなほど軋んで、俺は思わず手を離した。


「なんだこれ!! レイラ、これ頭おかしいって!」


「アレン違うんだ、腰を入れて持ち上げろ、腰を」


 いや、もうそういう問題じゃない。いったいこんなものを、どうやってレイラは担いでいたのか、さっぱりわからない。


「いやレイラ、これは無理。俺の力じゃ、すこし持ち上げるのでやっとかも」


 もう一度レイラが馬上から引き上げようとして、馬の方がバランスを崩す。


「ふむ…仕方ないな。歩くか」


「だーめ。諦めて」


 馬を使わずに歩いてしまうと、調査に使える時間が減る。それでは元も子もない。


「でもレイラが戦えなかったら、調査どころじゃないだろ? それなら歩いた方がマシなんじゃないの?」


「あー、うーん、それもそうなんだけど…」


 そう言って頭を抱えたマイの後ろから、声が投げかけられる。


「お困りのようね、冒険者さま」


 大きなリュックを背負ったセシリアさんが姿を表すと、レイラがすかさず馬からおりて一礼する。


「急にお願いしてしまって、申し訳ない」


「恩がありますから、お気遣いなく」


 セシリアさんは頭を下げずに、手のひらで空気を撫でた。


「それでその斧ですけど、村から出たら、私に任せてください。護身用に魔法生物を2匹連れているんです。彼らに運ばせましょう」


 そう言うと、セシリアさんが石を取り出して、指に挟んで示してくれる。石の中には、黒い影が渦巻くように動いていた。


「何が入ってるの?」


 俺が思わず疑問を口にすると、セシリアさんより先にマイが応じた。


「ガストの…ちょっと強いくらいのやつ…ですか?」


 興味ありげに覗き込んでいたマイは、その視線をセシリアさんの方に向ける。セシリアさんは頷いて、マイの予想が的中したことを教えてくれた。


「影法師みたいな?」


「あんなには強くないの。あのとき使ってたら、きっと死んじゃってたでしょうね」


 そう応じて肩をすくめてみせたセシリアさんは、すぐに宝石を小さな袋にしまった。


「よし、これで問題は解決だな」


 レイラが満足げに言って、斧を思い切り引き抜いた。パートがバイクの魔動エンジンを作動させると、唸りが辺りに響く。


「それで…私は、誰の背中に?」


 左右を見ながらセシリアさんが問いかける。俺の馬の上にも、荷物がくくりつけてあって、レイラの馬にもあって、パートはもうマイを乗せている。これらが意味するのは、つまり…


「考えてなかったな」


「え?」


「いえ、違うんですよ! 考えてましたからね! 考えてましたとも!」


 マイが慌てて取り繕うが、どう見ても予定があったとは思えない状態だ。セシリアさんが苦笑する。


「馬を、借りてくればいいかしら?」


「すみません、ほんっとすみません!」


 マイが平謝りする一方で、レイラが俺の馬の荷物を解き始めた。


「一番安心するのはアレンの後ろだろう。斧を持たないなら、荷物は私の馬が引き受けられる。いいか?」


 軽々とテント一式を持ち上げたレイラが、首を傾げる。珍しい女性らしい仕草に、少しどきりとさせられる。


「俺よりセシリアさんの方じゃない?」


「その方が、みなさんも安心かもしれませんね」


 俺の言葉にかぶせるように同意したセシリアさんは、俺の腿に手を置いて、ふわりと馬上にまたがった。その動きで、あたりには花の香りが振りまかれる。セシリアさんの手が、俺の腰に優しく添えられた。


「よし、これで大丈夫だ。出発だな」


 縛り付けたテントをバシンと叩くと、レイラは再び斧を引き抜く。地面には、もう5つくらいの斧の跡が残されていた。


 改めて、レイラが俺たち全員を見くらべる。


「到着したら、私とセシリアさんで拠点確保。マイの指揮で3人は遺跡調査。パートは弾丸を温存して、弓矢で戦うように」


「改めて、消耗がひどいわね」


 パートの後ろから、マイがため息まじりに言う。実際、これで強敵に襲われでもしたら、全員揃ってくたばってしまいかねない。


「私にまで話が来たのも納得ね」


 俺たちの窮状を理解したセシリアさんも、同じ調子で嘆じてみせる。


「それでも、やらねばならん。以降、泣き言は無しだ。遺跡を発見して、村に朗報を持ち帰るぞ」


 高く登った太陽を受けながら、俺たちの遺跡探索の旅が幕を開けた。

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