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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
穏やかに、賑やかに
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予期せぬ味方

 ルキスラ帝国の最南端にある小さな村。

 元は宿場町として栄えていたけど、今は守りの剣も失われて、蛮族たちに狙われ滅びの一途をたどっていた。そんな村。

 俺の故郷で、俺の生きてきた場所。


 そしてもうすぐ、立ち去る場所。


 村に帰り着いたとき、俺の頭に浮かんだのはそんなことだった。


「蛮族は打ち倒したぞ!!」


 俺たちが全員無事に帰ってきたのを見ただけで、村中が祭りみたいに騒がしくなった。レイラはそれに拍車をかけるみたいに、馬上から拳を高く掲げて鬨の声をあげる。

 めったに見ることのなかったいろんな楽器が持ち出されて、村のあちこちで演奏がはじまった。


「ドレイクをやったか!」


 騒ぎを聞きつけて現れた親父の第一声は、それだった。


「俺がトドメを刺したんだぜ? お・れ・が!」


 親父にだけは、俺は戦果を誇張する。その方が親父が喜ぶってわかっていたし、そのくらいならレイラたちだって許してくれるはずだ。


「よくやった! こりゃあまたご馳走を作らないとな!」


「ノリスさん!」


 俺の肩に腕を回して大笑いする親父に、レイラが声をかける。


「おお、お疲れ様! いやあ、うちの息子をこんなに立派に鍛えてくれて、ありがとうございます」


 酒も飲んでないのに、酔っ払ったみたいに豪気に笑う。


「いえ、アレンにはこちらも助けられています。ただ、ひとつ、相談があって…」


 そう言うと、レイラは荷物からバスタードソードの残骸を取り出す。


「鍛え直すのはもう無理だというのはわかるのですが、何か使ってやれないものでしょうか?」


 差し出された残骸を手に取ると、親父はいろいろな方向からそれを見て、状態を確かめる。


「この具合だと、二つ考えられます。まず、つばと持ち手を削って短剣にすることです。それなら、残りの刃を鍛えればなんとかなるでしょう。もうひとつは、同じく鍔を削って槍の刃先に加工することができます。この場合、あまり強度がありませんから、レイラさんの戦いに連れて行くのは難しいでしょうね」


 やっぱり相棒を失うのは心苦しいのだろう。


「では、短剣に加工してもらえますか? つばは、削らないようにお願いします。…父の形見なので」


 父の形見。

 なんとなくそんな気はしていた。名家のお嬢様が単身で国を離れて冒険者をやるなんて、よほどの事情があるんだと。


 マイから聞いた話を考慮に入れれば、たぶんレイラのお父さんはあまりいい死に方をしていない。パートにレイラを委ねて、レイラは追われるようにフェンディル王国を後にしたのだろう。

 そしてレイラの父を襲った何かに対する恨みと憎しみを、戦いの中で爆発させてきた。人を殺す人族、盗賊を心から憎んでいる本当の理由も、それなのかもしれない。


「わかりました。そういうことなら、責任を持ってやってみましょう。ただ、ディザに戻られたら、ちゃんと鍛冶屋にお願いした方がいいです。私の加工だと、そこまで質のいいものは作れません」


「はい。しかし、武器がなければ、遺跡探索もままなりませんから」


 レイラが応じる。仕事として依頼された以上、遺跡探索までこなしたいのは事実だ。でも今の俺たちの状況では、そんなことをやり遂げるのは不可能だ。


「いや、レイラ。いくらなんでも、遺跡探索は無理だよ。レイラの剣もこれで、パートの弾丸も、もう底をつきそうだし…」


 レイラが少しだけ俯いてしまう。責任感の強いレイラのことだ。村の付近の安全を確保したことと、村の未来の糧になる遺跡を調査することと、どちらも達成しなければ自分で自分を許せないのだろう。


「この村にある剣で、レイラさんの力に耐えられるものは、正直言ってひとつもありません」


 盗賊にやられたフォルマンさんの息子バートランドが使っていたレイピアは、たしかにレイラの力で敵を切り捨てると、3度目くらいにはへし折れてしまいそうだ。


「ただ、ひとつだけお貸しできる武器があります」


 親父がニヤリと笑って、くるりと向きを変える。


「こちらへ。アレンも来い」


 村人の輪の中から俺たち3人だけで抜け出して、親父の後を追う。マイとパートには、村人たちの喜びの犠牲になってもらうことにしよう。


 それにしても、レイラに貸せそうな武器?

 剣なんて、親父の言う通り、この村にはまともなものがない。


 親父が向かった先は、意外にも、教会だった。


「つい先日、ここにいい武器が届いたんですよ」


 そう言うと、親父は俺たちの顔を見比べる。

 つい先日? 俺が知る限り、そんな話は聞いたことがない。

 疑問に思って、最近、教会で起こったことを思い出す。


「…まさか!」


「やっと気づいたか、アレン。遅いぞ。」


 いや、いくらレイラが俺を凌ぐ怪力の持ち主だとしても、あんなものを扱いきれるとは思えない。


「どういうことだアレン? 何か知っているのか?」


 レイラはまだ気づいていないみたいだ。

 他ならぬ俺たちが、この教会に一つの武器を運び込んでいたことに。


「レイラ。俺たち、ここで戦っただろ?」


「ん? そうだな、ヤーマと…ああ! そういうことか!!」


 親父が満足そうな笑みを浮かべて、レイラに顔を寄せる。


「使いこなせますか? レイラさん」


 ボガードソーズマンの使っていた質の悪いショートソードや、タロスウォーリアーが使っていた体に癒着した大剣は、レイラには使うことはできない。でも、人族に化けて歩き回るオーガが使っていた大斧なら、当然人族にだって使うことができるし、レイラの怪力で振り回しても耐えてみせるだろう。


 逆にレイラの筋力さえ追いつけばという条件があるのが問題なだけだ。


「持ってみればわかります」


 レイラの目が、力強い覇気に満ちる。あのとき人間が持ち運べる重さじゃないと言って騒いでいた大斧。教会の裏手に回ると、刃を下にして、それは立てかけて置かれていた。


 俺と親父が見守る中、レイラが歩み出て大斧の柄を両手で握る。


 腰に力を入れてレイラが腕を引くと、大斧が持ち上がってレイラの肩に乗った。しかし、レイラもそれを軽々と持っているわけではなさそうだ。両足を肩幅まで開き、両手で大斧をうまく支えながら、なんとかバランスを取っている。


「運べないことはない。だが…現実的ではないな」


 あのレイラが根を上げる重さ。俺が持ったら、斧に潰されるんじゃないだろうか。


「しかし、これはいい案だ」


 そう言うと、一歩踏み込んで斧を振り下ろす。その重さだけで、斧は地面に深く突き立てられ、レイラが手を離しても倒れなかった。


 改めて考えると、レイラはこれを盾で受けたというのだから驚きだ。あのとき俺たちは、マイの魔法が直撃した甲斐あって余裕を残して勝利できた。でももしそんな幸運がなくて、一撃でも斧が俺の体に当たっていたら、たぶん真っ二つだっただろう。


「ノリスさん。この村で魔法の品を取り扱っている方はいませんか?」


「怪力の腕輪ですか。それなら、私の家に一つあります」


「なら、遺跡の調査が終わるまでお借りしてもよろしいでしょうか? それからアレン」


 レイラが俺に手招きする。親父には聞かれたくないことでもあるんだろうか。


「まだ村に残っているようだったら、遺跡調査にセシリアさんを連れていく」


「へ?」


 素っ頓狂な声を上げてしまう。


「こんな大斧を使うなら、補助魔法が必要だ。彼女ほど魔法を使いこなしている人は、この村にはいない」


 レイラが、セシリアさんのことを“人”と呼んだ。

 まだ俺でさえ戸惑っていることを、レイラはすっかり飲み込んでしまったみたいだった。


「わかった。頼んでみるよ」

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