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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
分かたれた二つの種族
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巨龍墜つ

 ドレイクが空中で大きくバランスを崩した。

 体をねじって、もがきながら落下する。


 地響きが轟き、片翼を失ったドレイクが地に落ちた。


 その無力な姿を、翼を広げたレイラが見下ろす。


「自慢の翼もそんなものか!」


 今や空に君臨するのはレイラだった。

 ドレイクは這いつくばりながら、尻尾を大きく振って体勢を立て直す。


 形成は逆転した。


 俺は大地を強く蹴って、再び巨大な体躯へ突進する。

 空からはレイラが降下する。


 風を切るレイラの早さに、ドレイクの首は追いつかない。レイラが両手に持ったバスタードソードが、ドレイクの脳天に突き立てられる。


 その力で、首が大地に叩きつけられた。

 すでにそこで、俺は右腕を引いている。


 拳を振り抜く。弾丸のように鋭い拳が3発、龍の鼻を打ち砕く。


 剣を引き抜いたレイラが高く宙返りして、俺の後ろに着地する。


 ドレイクが口を大きく広げる。


 ブレスだ!


 俺は首を少しだけ回し、レイラに目配せする。

 レイラが頷く。


 ドレイクの口からマナが解き放たれると同時に、俺は左、レイラは右へと跳躍する。

 巨龍が首を回すより早く、俺とレイラはその首に一撃を叩き込む。


 反対側から俺の拳に押され、レイラのバスタードソードが深く突き刺さった。

 おびただしい量のマナが走り抜けている首に、風穴が開く。途端に、マナが首からほとばしり出た。


 爆発的なマナの衝撃で、レイラが弾き飛ばされる。

 もう回復手段はない。このまま俺が仕留めるしかない。

 俺はドレイクの首に飛び乗る。


 ツノにしがみつく。ドレイクが首を左右に振るだけで、腕が引きちぎれそうなほどの力がかかる。


 あと一度。あと一度だけ攻撃機会があれば、俺はこいつを仕留められる。


 隙を作ろうにも、レイラは至近距離から吹き出したマナで、バスタードソードを飛ばされてしまっていた。マイも魔力切れでなす術がない。


 …あと一人、うちには腕のいいのがいるじゃないか。


 大きく振り回される頭の上からでも、闘志を失っていない鷹のような視線がこちらを貫いているのがわかる。あとはお前のタイミングで、こいつを止めてくれればいい。

 発砲音なんて数えられなかったけど、その眼力。まだ弾丸はあるんだろ?


「パート! 撃て!」


 荒れ狂う龍の首。それにしがみつく仲間がいる状態。それでも、パートなら当ててくれる。


 ドラゴンの片目が、弾け飛んだ。


 世界を揺さぶるような悲鳴をあげながら、龍の首は空を仰いで動きを止める。

 俺の両足が、龍の首についた。


「くたばれ!! 三下ァァ!」


 拳を叩き下ろす。衝撃でドラゴンの首が叩き落とされ、俺の体が宙に浮く。

 落下しながら、もう一度拳を握る。


「まだまだァァ!」


 再び炸裂音が響く。再び、衝撃で俺の体が浮き上がる。ドレイクの首は、ついに地面に叩き伏せられる。


「こいつでェェェッ! どうだァッ!」


 肩と肘でマナが破裂する。右腕の骨が悲鳴をあげる。

 レイラが剣を突き立てたその脳天に、俺の右手が轟音とともに突き立てられる。


 衝撃がドレイクの首を抜け、大地を揺らす。


 ドレイクの動きが、止まった。


 …勝った。


 俺はそれを理解していた。しかし、右腕が上がらない。


「レイラ! アレン!」


 マイが、涙で上ずったような声をあげて、こちらに近づいてくるのを感じる。


 できることなら、笑って応じてやりたい。

 それに、レイラの無事を確かめたい。


 でも、俺の膝が、右腕が…全身が、言うことを聞かない。


 俺の視線は、ドレイクの頭に突き立てられた拳を見たまま、動かない。


 足が、ぐらつく。

 視界が回って、自分がドレイクの首から転げ落ちたのがわかった。


「アレン!」


 悲鳴にも似たマイの声がして、地面に倒れこんだ俺をマイが覗き込む。


「レイラ! アレンに手当を!」


「レイラは、無事か?」


 やっとのことで、声を出す。

 それだけで、なぜか胸が痛い。肋でも砕けてるんだろうか。


「よくやった、アレン」


 続いて、レイラが俺を覗き込む。その額には、血が流れた跡がある。


「レイラ、無事でよかった」


 左手をようやく伸ばして、その頰に触れる。

 至近距離であれほど大量のマナを密集して受ければ、腕のひとつ、引きちぎられてもおかしくない。結果から言って、バスタードソードを手放した判断が功を奏したのだろう。


「すぐに治療する。私の魔力は、残っているからな」


 レイラが俺の左腕を握ると、そこから白い光が俺を包んだ。

 体が常態を取り戻していく。その感覚で、俺は負傷の原因を理解する。骨がやられたみたいだ。

 最後の回復から、攻撃の直撃を受けた記憶はない。ということは、俺の力に俺の体が耐えられなかったということだ。


「パートは?」


「こちらに」


 パートが応じて、俺の視界に現れる。他の二人のように、しゃがんで覗き込むことはなく、銃の弾倉を確認しながら立っている。


「いい一撃だった。あれがなきゃ、倒せなかった」


 レイラの魔力では、回復力が及ばないのか、まだ、俺の体が言うことを聞かない。倒れたまま、瞼でパートに礼をする。


「お力になれて光栄です」


 弾倉を閉じたパートは、小さく一礼する。


「よし、立てそうだ。レイラ、ありがとう」


 俺が言うと、握っていた左腕をレイラが強く引いて、俺を立ち上がらせる。そのままその腕を肩に回して、俺に肩を貸す姿勢をとった。


「大丈夫だよ、レイラ」


 神聖魔法があれば、傷が長引くことはない。全身の疲労感は抜けなかったけど、ひとりで立てないなんてことはない。


「馬までは、こうさせてくれ」


 レイラは、俺を見ずに言う。


「また、手柄を取られてしまったな」


 歩き出した俺たちを、マイが戸惑ったような目で見送る。


「いや、今回のも、全員の手柄だよ」


 今回も、心からそう言えた。俺ひとりなら、戦うのを諦めていた。レイラがいたからこそ、2度も折れかけた闘志を保つことができた。マイがいたからこそ、俺は死なずに済んでる。パートがいたからこそ、俺はトドメを刺せた。


 レイラが指笛を吹いた。すぐに、馬の蹄の音が聞こえ始める。


「アレン…」


 肩から腕を外すと、左手を握ったまま、俺を真正面から見る。


「私は…人が無茶をするのを、見るのが…苦手だ」


 レイラの瞳が、わずかに赤く充血している。


「だから、私の後ろに着けと言いたい」


 レイラは俯いてしまう。次の言葉を出そうとして、自分の心と戦っているのかもしれない。


「でも、アレン。私には、お前の力が必要だ。ひとりでは…勝てない」


 もう一度、俺をまっすぐに見たレイラの瞳は、力強さを取り戻していた。


「こんなに戦わせて、すまないと思っている。だが…ありがとう」


 そこまで言うと、駆け付けた馬の手綱を手に取る。


「アレン、お前の馬は、また道草か?」


 辺りを見渡すと、俺の相棒は岩陰で草の匂いを嗅いで首を振っている。


「レイラ! アレン! また出たよ! 剣のかけら!」


 後ろから、マイが大きな声を出しながら手を振った。

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