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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
分かたれた二つの種族
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反撃の狼煙

 レイラが飛び上がって大きく剣を振るも、相手を捉えられない。

 的が大きいはずなのに、パートの弾丸も巧みにかわされてしまう。


 ドレイクは空中で転身して、俺に向かって吠えるように口を突き出す。

 実体化した大量のマナが光になって押し寄せる。

 熱を持ったガラスのように、俺の肌を切り裂きながら突き抜けていく。

 焼けるような痛みが全身に広がる。


 耐えられないほどではない。しかしこれに耐えても、俺に何ができるわけでもない。あの巨大な体躯に押しつぶされるように、蹂躙されるだけだ。


 翼の一撃は、力の圧倒的な差を理解させるには十分すぎた。


 技量とか、魔力とか、そういうものじゃない。

 ここにあるのは、重量の圧倒的な違いだ。


「アレン! 戦え!」


 レイラがもう一度、岩を蹴って跳躍する。

 白い翼を広げて、高く舞い上がる。すでに身を守るための盾を捨て、両手で、ただ相手を断ち切るためだけに、剣を振るう。


 翼が引き裂かれる。


 銃声。


 ドレイクが、空中でバランスを崩す。


(踏み出せ…)


 俺は自分に言い聞かせる。

 土を蹴る。足を、マナで突き動かす。


 膝が軋むような跳躍。俺は、バランスを崩したドレイクの翼めがけて、弾丸のように突き進む。


 マナで体を動かせば、空中でも少しは姿勢の制御が効く。

 拳を、振り抜いた。


 炸裂音が鳴るほどの威力は出せない。

 それでも、俺の拳はドレイクの翼に突き立てられた。


 闘志を取り戻した俺を、光が包む。マイは戦況判断を見誤らない。俺を回復するか迷ったのだろう。


 俺たちの攻撃を立て続けに受けたにもかかわらず、ドレイクは空中で体勢を立て直す。俺が着地したときには、ドレイクは再び高く舞い上がり、再び降下姿勢に入っていた。


 狙いは俺だ。

 奴は、始めに倒すのは俺だと宣言した。それにこだわっている。


 勝負を仕掛けよう。


 俺は仁王立ちして、ドレイクの降下を待ち構える。

 凄まじい勢いで、ドラゴンと化したドレイクが迫る。人の足より太い牙が、大きく開かれた口の中で鋭い殺気を放っている。


「アレン!」


 レイラの声が聞こえた。

 俺は牙を受ける。大腿骨が粉々に砕け、激痛が走る。

 俺の体が急激に加速して、空中に引き上げられる。

 全身が押しつぶされそうな重圧。歯を食いしばって、大地に引っ張られる意識を繋ぎ止める。


 眼前では、巨大な赤い瞳が俺を睨みつけていた。


「アァァァッ!」


 考えることなど何もない。俺は全身のマナを両腕に集中させる。


 振り下ろす拳から、炸裂音が響く。

 本来なら威力の出ない一撃。それでも、マナで加速した拳の威力なら、龍の鱗を貫いて、上顎の骨を打ち砕ける。


 もう一発。渾身の一撃を叩き込む。

 堪え兼ねたドレイクが、口を開いて俺を離そうとする。


 意味はない。


 そうわかっていながら、俺はもう一撃を、引き抜かれた牙に向かって放つ。

 凄まじい炸裂音と同時に、大岩が砕けるような音が響く。


 俺は牙を掴む。


 ドレイクが俺を振り払おうと振るった力が、そのままヒビの入った牙に加わる。


 メリメリッ!


 大木がへし折れるような音がして、俺は牙ごと弾き飛ばされる。地表はもうはるか下だ。体が言うことを聞かないうえ、腿に開いた大穴のせいで左足が全く動かない。


 それでも俺がこんなことをやったのは、アテがあったからだ。


「レイラ!」


 想像を超える速度で地面が迫る中、レイラが翼を広げて跳躍する。空中で俺を抱きかかえると、翼で風とマナを捕まえて急激に減速する。強烈な慣性に歯をくいしばる。同時に、白い光が俺を包んだ。


「アレン、無茶をするな!」


「レイラ! 見ろ! 奴の牙をへし折ったぞ!」


 俺は自分の頭がおかしくなったような気がした。

 だって、こんな状況で、腿に穴まであけられて、食いちぎられかけて、それでも俺は…楽しかった。次は奴にまたがって、脳天を叩き割ってやろうと考えると、面白くて仕方がなかった。ちょうど腿の傷がふさがったところで、俺とレイラは着地する。


 俺は抱えていた牙を地面に打ち立て、空から降下するドレイクを睨みつける。


 ドラゴンの表情なんて読めたもんじゃない。それでも、俺には奴の怒りが見えるようだった。上あごにヒビを入れられ、あろうことか片方の牙をへし折られ、チンピラ風情にここまでやられたドレイクなど、王の名にふさわしくない。


 でも、俺は教えてやらなくちゃならない。


 その程度のことで怒り狂って、俺を殺すためにまたマナの息を吐きつけようとするあいつにふさわしいのが、あんな大空じゃないってことを。


 奴は地に落ちて、這いつくばって惨めに死ぬのがお似合いだ。

 蛮族の王だかなんだか知らないが、俺から見れば、ただの羽根つきトカゲだ。


「レイラ! 奴がマナを吐き終わったところを狙え! 奴の狙いは俺だ!」


 レイラは頷くと、俺から距離を取って高く跳躍できそうな大岩に向かう。


 さあ来い、トカゲ野郎。お前のマナの嵐なんて、俺には怖くねぇ。


 ドレイクの口から、光り輝くエネルギーが吐き出される。

 俺は身をかがめて衝撃に備える。


 マナのエネルギーが俺の肌を焼き切っていく。

 それでも、俺は倒れない。足を地につけて、踏みとどまる。


「アレン! 回復はこれが最後! あとはパートが!」


 全身傷だらけになった俺を光が包んで、マイの最後の魔力が使われた。

 パートの弾丸の回復量は、マイに比べればあてにできない。


 もう無茶はできない。次の降下を受ければ、俺はもう戦える状態じゃなくなる。でも、そうはならない。俺の天使が、貴様を叩き落とす。


 天使が、舞った。

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