解き放たれる力
もう一度、俺とレイラが仕掛ける。
拳が空を切り、ドレイクは首を傾けるだけで弾丸をもかわす。
レイラの叩きつけるような剣撃は、右腕の小手で止められる。
レイラの剣撃を受ければ、大抵の生物が両断される。片腕で剣を振るっていたとはいえ、腕くらい吹き飛ばすのは造作もないはず。
その一撃を、いともたやすく片腕で止めてみせた。
ひょっとしなくても、俺たちは化け物を相手にしている。
相手の剣先が動く。
どこに動くかなんてわからない。俺はとにかく飛びのく。
足元を、マナの刃がかすめていく。
怯えている暇はない。回転して両足が地面に着くと同時に、回し蹴りで足元を払う。
しかしその体は、俺の足が当たるより先にふわりと舞い上がってしまう。
俺とレイラが立て続けに飛びかかるが、どちらも空を切る。
パートの弾丸も、その体を捉えられない。
「タロスウォリアーの性能も、言うほどではないようだな」
そう言って、少し俺たちから距離を取る。
「しかし、貴様たちが鍛えられた戦士であるのは認めなければならんな」
ドレイクが左腕を振ると、その周りのマナがドレイクの体に集まっていくのが見える。
「ファナティシズム!」
マイが叫ぶ。
「防御を捨てて、殺しにくる!」
体の状態を変える魔法か。いいだろう。俺だって、本気を出す。
再び、マナを集めて筋肉を隆起させる。
今度は先にレイラが切り込む。
ドレイクは回避せずに、その刃を体で受け止める。
俺の拳が、マナで突き出される。
強烈な破裂音が響く。
肉体を打ち砕く一撃。鎧を貫き、確実にエネルギーを体に伝えた。
その全てを、微動だにせず受け止める。
ドレイクは、笑っていた。
レイラが飛び退く。
俺の判断が遅れた。
再び、体が弾き飛ぶ。左腕から胸まで、強烈な薙ぎ払いが俺の体を抉っている。
そこに魔力が流れ込んできて、傷口をさらに押し開く。
一瞬、呼吸が止まった。
喉が詰まって、咳をすると、鮮血が飛び散った。
光が俺を包む。左胸に感じていた、空気が抜ける感覚が収まる。
「アァァッ!」
レイラが雄叫びをあげる。
ドレイクの脇腹をバスタードソードが深く抉って、止まった。
気力を振り絞って、俺も拳を振るう。急所を捕らえなくてもいい。がむしゃらに全力の拳を叩き込む。
ドレイクの動きが、完全に止まった。
「撃て! パート!」
俺の叫び声と同時に、弾丸がドレイクの真っ赤な瞳に直撃する。
魔力が炸裂すると同時に、ドレイクは後ろに飛び上がる。
魔剣を空に向けて掲げると、半分が砕けた顔で、なおも俺たちを睨みつける。
あの状態で、生きている。
「ようやく貴様たちの攻撃を受けられたぞ。しかしその程度か!」
魔剣から、俺にも見えるほどの黒い波動が立ち上る。
「遊びは終りだ!」
魔剣が黒く輝く。暗い光。
あたりの光を全て飲み込むような、人に恐怖を直感させる…暗さ。
それがドレイクを飲み込み、俺たちの視界を一瞬奪う。
巨大な翼が光の中から現れる。
「竜化した! アレン! 危ない!」
マイの叫びに俺の体が反応すると同時に、得体の知れないマナの塊が滝のように俺に叩きつけられた。
全身を焼き尽くすように、引き裂くように、マナが俺の体を突き抜けていく。
マナの奔流が止まる。俺の全身の皮膚は、すでに火傷と傷でズタボロになっている。
漆黒のドラゴンが宙に舞い上がる。
人間などとは比べ物にならない、巨大な体躯と翼。
見るものを焼き尽くさんばかりの、闘志に満ちた赤い瞳。
間違いない。
ドレイクが竜に変身した。
「これとやりあうのか?」
もう一度白い光が俺の傷を癒すなか、俺は呆れたような口調で声を漏らす。
「怖気付いたか?」
レイラが構えたまま、いつもの力強い声で言う。
「いや。ドラゴンにしては、ちいせぇと思ってな」
自分に余裕があることを確かめるために、俺は冗談を言う。
「奇遇だな。私も、そう思っていたところだ」
相手から片時も目を離さず、レイラも応じる。
精一杯の強がりだというのは、お互いにわかっている。
闘志が、恐怖心で崩れ落ちそうになるのを、俺たちは感じている。
だからこそ、二人の力で、二人の闘志を支えなければならない。
「行けるか?」
「仕留めるのは、俺だ。」
レイラが小さく鼻で笑う。
二人なら、まだ、戦える。
「来るぞ!」
高空からドレイクが滑空する。
鷹が獲物を狙うように、その目は俺を捕らえて離さない。
この巨体をどう避ければいい?
後ろに逃げても追われるだけだ。横は? あの巨体の前に誤差にしかならない。それなら…
俺は前に走る。滑空降下を仕掛けるドレイクの真下に向かう。
ドレイクは身を翻すと、滑空しながら翼で俺を打ち払う。
たかが翼と思った俺の間違いだ。重さが違いすぎる。
全身が岩に叩きつけられたみたいに、強烈に押しつぶされたかと思うと、俺の体は20mは弾き飛ばされる。地面を転がるが、受け身を取って立ち上がることができる。
これでも、噛みつかれなかっただけマシだ。
もう一度飛翔するより先に、可能な限り殴りつけなければならない。
でも、こんな奴に触れれば、それだけで俺の体が弾き飛ばされる。
一体、何を殴れというのか。
俺の足が、止まった。