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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
分かたれた二つの種族
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いざ、出陣

「かなりの打撃を与えたことは事実。でも、相手の総戦力がわからないのも事実。常に退却のことを頭に入れて、柔軟に判断して。いい、レイラ?」


 マイは出発前に何度も繰り返した注意を、パートの背中からもう一度口にした。


「耳にタコができるぞ」


 レイラは馬上で耳をふさぎながら、悲鳴をあげる。


「でも大切なの!」


 その様子を見て俺が笑っていると、マイが標的を俺に変える。


「アレンにも言ってるの! 二人とも、後退ってことを知らなすぎるんだから!」


 たしかに、俺とレイラならなんとかなるだろなんて思ってしまっているところがある。でもこの一週間、それでなんとかなってきたのは事実だ。


「大丈夫だって。俺だって死にたくはないんだから」


 そう言って俺も相棒にまたがる。


「あれだけ死にそうになってる人が言う?」


 マイは不満顔だ。このままだと、また同じことを言われる。


「いつもは相手が一体だけでしょ? 今回は違うの。消耗戦になったら、いくら二人が強くてもこっちの魔力が…」


「お先!」


 俺はそう言って手綱を振って馬を蹴る。


「あ! こら! アレン! ちゃんと聞きなさい!」


 後ろからマイが大声で叱りつける。レイラの笑い声が少し聞こえると、


「あ、こら! レイラも! パート! 早く!」


 と聞こえる。今回は俺たちが前衛だ。どれだけマイが叫んでも、聞こえないふりができる。

 マイ先生にはちょっと悪いけど、生き残ることを優先できる俺たちなら、本当にそれが必要だとわかったら撤退だって選べるはずだ。


 白馬を駆ったレイラが俺の横につける。


「アレン! マイの言うことももっともだ。私が撤退を指示したら、ちゃんと従ってくれ」


 レイラまでも繰り返し忠告する。つまり、危なっかしいのは主に俺ということなのだろうか。それとも、マイから見て危なっかしいレイラから見てもなお、俺が危なっかしい奴に見えるということなのかもしれない。


「わかってる!」


 大きな声で応答する。俺だって死ぬ気はない。それはいつもそう言ってきたし、レイラにだって伝わっているはずだ。


「それから! 今回は、また私が仕留めてみせるぞ!」


「いいや、俺だ!」


 その宣言にだけは、何も考えないで即答する。


「なっ!? 一度くらい勝ったからって調子に乗るな! 私は負けんぞ!」


 顔を見なくても声の調子だけで、子供みたいな意地の張り方をしている表情が思い浮かぶ。


「レイラ、ちゃんと前見てるか?」


「なっ、み、見てるぞ! 当たり前だろ!」


 レイラの方を見なくても、動きと表情が目に浮かぶ。

 なんだか、頭に浮かぶその姿が少し愛しくなって、口角が上がってしまう。


「こら! 笑うな!」


 レイラに見られてしまったみたいだ。

 でもこれは、レイラが思っている笑いじゃなかった。俺は、レイラが前も見ずに馬に乗っていたから笑ってるんじゃない。そんなこと、俺はうまく説明できないんだけど。


 心の鼓動が少し高鳴った。


 しばらく、レイラの顔うまく見られないな。

 理由があるわけじゃないんだけど、なんだか恥ずかしくなって、嬉しくなって、目を泳がせてしまう気がする。


「とにかく! 全員で生き残るぞ! アレン!」


「任せとけ!」


 俺は心からそう応答する。レイラもマイもパートも俺も。全員で生き残って、明日の昼に帰還する。それ以外の結末は、なしだ。


 村から旧街道沿いに馬をしばらく走らせると、街道の敷石の間から草が生えてきて、さらに進むと敷石すら見えなくなって、道はただの轍になった。


 ルキスラ帝国の領域から離れれば、世界は急激に自然に覆い尽くされ始める。〈大破局〉前の名残のような壊れた石柱が所々に放置されている以外は、膝丈くらいの柔らかそうな草が風に波を作っている。


「高位魔法が使えるとはいえ、こんなところを一人で移動しているとは、ラマンさんは恐ろしいな」


 レイラの言う通りだ。多くの商人は、一度に大量の商品を輸送する代わりに冒険者や傭兵を雇い、大規模なキャラバンを組んで移動する。さすがの盗賊たちも、そんな隊商を襲撃することはできない。そして大規模な隊商が主流になれば、盗賊の規模も大きくなる。


 そんな危険地帯を悠々とラマンさんが移動していけるのは、俺の想像を超えた不思議な力でもあるのかもしれない。


「俺も喧嘩には自信あるけど、一人で自由都市連合まで行く気にはならないな」


 いくら殴り合いに強くても、20人とかで殺到されるとさすがに戦っていられない。魔法ならなんとかする方法があるんだろうか。


 しばらくするとレイラが手で合図して、全員減速する。


「そろそろ山に差し掛かる。相手の斥候が出てくるかもしれない。奇襲に警戒すること。行くぞ」


 ドレイクがいるということ以外、俺たちはこの先のことは何も知らない。

 地図があるわけでもなければ、作戦があるわけでもない。

 これまでで一番の情報不足の中で、俺たちの蛮族殲滅戦が幕を開けた。

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