陽動
表通りに抜けると、想像を絶する光景が広がっていた。
黒い人影みたいなものが、そこら中で、何をするわけでもなくぼんやりと立っている。
「おいレイラ、これか? ガストって」
馬を止めて俺が尋ねると、レイラが腕を緩めてあたりを見る。
「そうだ。始めるぞ」
馬の左右に二人で飛び降りる。レイラは剣を引き抜き、俺は拳を握る。
「アレン! 何も考えず、片っぱしから排除しろ。いいな!」
「言われなくても!」
俺は踏み込んで、手頃な一体に殴りかかる。かろうじて衝突するような感覚があって、黒い影はタンポポの綿毛みたいに砕けて消えていく。
こんな手応えのない作業でも、繰り返せば辛くなる。
レイラもあちこちの黒い影に、次々に斬りかかっている。
村のみんなは、家に閉じこもったのだろうか。今はそれを確認する暇もない。
流れるように、舞うように。できる限り無駄な動きを失くしながら、次から次に殴り飛ばす。
表通りを半分ほど進んだところで、通りの向こうで稲光が走った。
誰かが戦ってる?
「まったく嫌になるぜ!」
大声が聞こえる。考えるまでもない。親父の声だ。
「ノリスさん、持ちこたえて!」
今度はセシリアさんの声。
通りの向こうで、親父とセシリアさんが防衛線を張っている?
「親父! そこにいるのか!」
俺が大声を上げると、すぐに反応が返ってきた。
「おせぇぞ! アレン!」
声のする方から一条の光が走る。
そこにいた黒い影たちが、蒸発するように、消えていなくなる。
凄まじい威力だ。
「神聖魔法だ!」
レイラが驚く。いや、親父が魔法を使えるって話は聞かない。
「スタンリーさんもいるの!?」
「はい! でも魔力が持ちません!」
マイの言う通りだ。こんな数を相手にしたら、魔法ではらちがあかなくなる。
「昨日のオーガに合わせた陽動だ! どこかに本丸がいるぞ! 気をつけろ!」
親父の声。
圧倒的数の敵を前にして、考えるのを止めていた自分に気づく。
もしヤーマが生き残っていたとしたら、この駆除に協力するふりをして俺たちの誰かに攻撃を加えるはずだ。たぶん、回復役のマイから制圧するだろう。
そこで、俺たちを他の将と挟み撃ちにする。
つまり、いま、俺たちの後ろには何か大物が来るかもしれないということだ。
影法師か、ドレイクか。その両方か。
「レイラ! マイたちが危ない!」
どちらがきたとしても、二人だけで相手するのは不可能だ。
「親父! 本丸は南だ! 雑魚は任せた!」
黒い人影の向こうに、大声を届ける。
「無茶いうな!」
親父が返すが、きっとなんとかしてくれるだろう。
引退したとはいえ、俺くらいには強いグラップラーだ。
「アレン。いいのか。向こうにはラミアがいるんだぞ。」
レイラの目つきは鋭い。あくまでセシリアさんを信じてはいないようだ。
「いまはセシリアさんを信じるしかない。行こう。マイたちを助けないと」
有無を言わせず、俺はレイラの手を取る。自分の相棒のところまでたどり着きたかったが、そんな暇はなさそうだ。
道端で乗り捨てられていたパルウィリーさんの馬に飛び乗ると、すかさずレイラも俺にしがみつく。
元来た道を走り抜ける。
マイたちが遭遇戦になっているなら、パルウィリーさんの土地に入る交差点。
表通りを抜けると、丘を下る道に畑が広がっている。
その先にパートが立っている。銃を構えて、撃った。
まだ生きている。
少し遅れて発砲音が聞こえる。
「レイラ! ついたらすぐにとび降りろ!」
マイは? マイはどこだ?
目をこらすと、商店街にいた奴よりも一回りもふたまわりも大きな影が、腕を大きく振っている。
納屋の影か!
そう思った瞬間、納屋の壁が吹き飛んで、何かが飛び出してくる。
人?
まさか!?
パートがマントを翻して、弾き飛んだ何かとの間に体を入れる。
発砲音。
パートが守るということは、間違いない。マイだ。
レイラが俺の肩に手を乗せ、馬上に立ち上がって翼を広げる。
「行け! レイラ!」
レイラが舞い上がって、マイの元に向かう。
俺がやることは一つ!
「この野郎ォォォッ!」
影法師がパートをなぎ払おうと振った腕に、馬ごと体当たりする。
その瞬間、俺は手綱を手放して前に飛ぶ。馬がはじかれて、畑に横たわり泡を吹く。
なんとか受身を取って、俺は着地した。
戦況は最悪だ。
マイがやられれば回復が間に合わない。
体重の軽いマイとはいえ、納屋を突き破って吹き飛ばす威力だ。
ハードノッカーを強く握る。
「貴様の相手はこの俺だ! 影法師!」
威勢のいい声を上げてみるが、勝算はない。
いや、そう断じるのは、相手の動きを見てからでも遅くない。
俺は踏み込む。




