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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
蛮族の影
32/83

マイ様は名探偵

「マイ、どうしたんだ? 行程の確認くらいなら夜でもいいじゃないか」


 レイラが愚痴を言いながら椅子に座る。


「アレン。扉を閉めて」


 俺とパートが部屋に入ると、厳しい口調で指示する。


「どうしたんだよ、いったい」


 言われた通りに扉を閉めると、マイが声を落として話し始める。


「アームランドなんて街、存在しない。あるのはフットランド。イルマーの隣町」


「何か考えてるなと思ったら、カマかけてたのか」


 俺も声を落とす。つまりあのドワーフ、理由は知らないが嘘をついている。


「それから、ラマンさんが旅立ったのは、私たちがインビジブルビーストを討伐する前。ラマンさんから聞いたなら、盗賊退治の方が真っ先に出るはず」


 落ち着かないのか羽ペンを手に取ると、マイはいつものようにその羽で頬を叩き始める。


「レイラのことを羽根つき人間って言ったでしょ。これも変なのよ。ラマンさんから聞いたなら天使様って呼ぶはず。そんな呼び方している人、この村にもいないでしょ?」


 マイはヤーマの第一声から警戒していたっていうのか。まったくとんでもないエルフを味方に持ったものだ。心強いったらない。


「つまり、ヤーマはイルマーの出身でもない。それに、ラマンさんにも会ってない。そして、私たちがいる間にこの村を訪れた行商はラマンさんだけ。つまり、この村に着いた時点で私たちのことを知っていて、この宿に泊まっていることを聞き出せるのはおかしいのよ」


 しかし、それらの情報が何を意味するのか、俺には判断がつかない。


「これだけで、遺跡探索の日程を遅らせてもいいくらいの問題よ。わかってる? レイラ?」


 これまでのマイの推察を聞く間、一言も発さなかったレイラにマイが問いかける。


「うーん…アレン。ヤーマを見るのは間違いなく初めてか?」


「ああ、ドワーフ自体初めて見たよ」


 レイラは顎を親指と人差し指で挟んで、目をつむっている。その横顔はなかなか様になる。


「僭越ながら。重要なのは、敵性因子か否かという点だけです。彼が敵性因子なら、どのような背後関係があり得るか、推論してみてはいかがでしょうか」


「そうね、さすがパート。ありがとう」


 マイが新しい羊皮紙を取り出す。


「ヤーマが敵だとして、考えられる情報の経路は二つ。つまり、村の内部か、村の外部か。村の中に味方がいるとしたら、ラミアが濃厚ね」


「それなんだが、多分違うぞ」


 レイラが否定する。マイの推論をはっきりと否定するのは珍しい。


「ヤーマを見るのが初めてということは、これまで情報交換をしてこなかったということだ。ましてやアレンとセシリアさんは親しいからな。もしも結託していたなら、一度くらい見たことがあるはずだ」


 ラミアがセシリアさんと決まったわけじゃないけどな。

 俺は心の中で主張する。


「なるほど…。逆に外側だった場合、昨日インビジブルビーストを少なくとも1匹仕留め損ねたのが原因ね。これなら、インビジブルビーストの件を知っているのもおかしくない」


 こっちの方が妥当な推論のような気がする。でもそれって、もしかしてすごく嫌な予感がしないか?


「嫌な予感がする」


 マイがまったく同じことを口にする。


「つまり、あのインビジブルアサシンに指示を出してた蛮族がいて、そいつらの新しい密偵としてヤーマが送り込まれてきたってことにならない?」


 マイが羊皮紙に走り書きを加えていく。

 俺が思ったのも、まったく同じことだった。


「ドレイクだな」


 レイラが断言する。


「嘘だろ…」


 思わず嘆息が漏れる。もう蛮族なんて遠い山の向こうに排除されたんじゃなかったのかよ。仕事してくれよ、蒼鷲騎士団。


「インビジブルアサシンに命令できるってことは、ドレイクかオーガのレベルの蛮族がこの付近にいると考えた方が…」


 マイが硬直する。


「どうした?」


「アレン、いまわたし、なんて言った?」


「インビジブルアサシンに命令できるなら、ドレイクかオーガのレベルの蛮族がいる、って」


 マイが羽ペンをテーブルに置いて、両肘をついて頭を抱える。


「最悪…最悪だわ…。レイラ。今夜は寝ずの番を組みましょう」


「寝ずの番? どういうことだよ!?」


「アレン、声を落とせ」


 マイが顔を上げると、一瞬にして血の気が引いてしまったのがわかる。よほど恐ろしいことに気づいてしまったに違いない。


「オーガよ。オーガ。人の心臓を食べて、その人に化けるの。あの大斧で気付くべきだったわ。あんな重たいもの、人族には運べっこない」


「やられたな。密偵かと思ったら、暗殺者か」


 マイの一言で、会議室は重鈍な空気で包まれたのだけはわかった。

 俺だけが事態を飲み込めていない。


「なあ、それって強いのか?」


 冒険者の間では常識なのかもしれないけど、俺はオーガという蛮族を知らなかった。


「その剛腕はあの大斧を見ての通り。その知性は先ほどの会話を聞いてわかる通り。さらに悪いことに、オーガは魔法も使える。姿が消えることはないが、人族に化けられるうえ魔法が使えるインビジブルアサシンだと思え」


 いつも口調が変わらないレイラまでも、ため息交じりの絶望感入り混じる声で応じる。


「明日の朝に旅立ってるのが、私たちの命でないことを祈りましょう」


 マイが笑えないジョークを言った。

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