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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
蛮族の影
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ヤーマ・ケラトア

 親父の呼びかけに応じてエントランスに出てみると、たしかに背の低い髭もじゃのずんぐりした肌の浅黒い男が、大斧を担いで立っていた。


「私が、この村で仕事をしている冒険者のレイラだ。旅のものと聞いたが」


 レイラが先に挨拶する。


「おお、あんたが噂の羽根つき人間か。ずいぶんなご活躍らしいじゃないか。俺はヤーマ。ヤーマ・ケラトアってんだ」


 エルフの次に人口が多い種族と聞くけど、ドワーフを見たのはこれが初めてだ。

 この村に来てからたったの6日で、いったいどこからどうやって活躍の評判が流れたのだろうか。ラマンさんから聞いたのだろうか。


「そんなに活躍が噂になってるんですか?」


 横からマイが口をはさむ。


「ああ、そりゃあな。なんでも、インビジブルビーストを丸ごと退治したらしいじゃないか」


 あの激戦が遠い昔のような気もするけど、実際にはつい昨日のことだ。噂の足は早い。


「そんなことまで聞いているのか。ずいぶん人気になってしまったものだな」


 レイラが独り言のようにいう。評判になっているのはまんざらでもないようで、声色に嬉しさを隠しきれていない。


「どこでそんな話を聞いたんですか?」


 マイは情報の出所にこだわっている。


「行商人から冒険者の話を聞いて、この村について尋ねてみたらみんな知ってたよ。ずいぶん好かれてるみたいじゃねぇか。いいことだ」


 歯を見せて、ヤーマはシシシと笑う。悪い奴ではなさそうだが、あまり好感が持てる感じもしない。なんというか、もじゃもじゃの髭が不衛生だ。


「ラマンさんかな」


「そうでしょうね」


 マイが同意するが、明らかに目に緊張がうかがえる。何を考えているのか訊きたいけど、ヤーマの前では止しといたほうがよさそうだ。


「ヤーマさんも、今夜はここにお泊りですか?」


 マイの警戒心は、鈍感そうなヤーマには伝わっていないだろう。こんな大斧を振り回す奴と喧嘩になんてなりたくない。それも、ここはうちの店だ。何が壊れてもすべてうちの損害になってしまう。


「ああ、そのつもりだがね。おたくらはまだ仕事があるのか?」


「うむ。この近場で一仕事しないといけないんだ」


 レイラの快活な返事。遺跡のことは伏せておかなければ、先に手を出されると利益が少なくなってしまう。遺跡は金鉱脈に似ていると親父がよく言っていた。早い者勝ちの争奪戦だ。


「うまい話なら、俺も噛ませてくれねぇかな?」


 今度はヤーマはグフフと笑う。ドワーフって、皆こんな感じなんだろうか。


「それはダメです」


 マイが口を挟む。


「なんでぃ、厳しいな」


「だってあなた、強いでしょ? そんな大斧担いでたら一目でわかります。私たちの仕事が無くなっちゃうじゃないですか」


 マイが腰に手を当てて口をとがらせる。こういうときの表情の作り方は本当にうまい。男だったら、その可愛らしさにすぐに折れてしまう。


「へっへっ、しかたねぇ嬢ちゃんだなぁ。どうせ俺だって明日の朝には出発さ。その仕事だって、すぐに済むわけじゃないんだろ?」


 よく笑う男だ。その度に髭全体が震えて、なんだかやかましい。


「ああ、大仕事だ。明日の朝出発なら、まず無理だな。それより、どこの出身だ? ロシレッタか?」


「いや、自由都市連合の方だ。あれの南にイルマーって街があるんだが、そこの出だ」


 自由都市連合の街の名前なんて、よく覚えていない。マイなら知っているかもしれないけど、さっきから何かを考えているみたいで、訊くに訊けない。


「ドワーフっていうから、アームランドかと思いましたよ」


 マイが応じる。さすがはマイだ。自由都市連合の都市の名前まで知っているなんて、とんでもないエルフだ。


「いやいやそっちじゃねぇよ、イルマーだ。よく言われるんだけどな」


「では、夕飯のときにでも、自由都市連合の方の話を聞かせてくれ」


 レイラが握手を求めると、ヤーマは素直に応じる。


「以後お見知り置きを、羽根つきさん」


「レイラ、私たちはまだ会議が」


 マイが厳しい口調で言う。どうかしたのだろうか。


「ん? ほとんど決まったじゃないか」


 俺もそう思う。このまま夕飯でもいいんじゃないだろうか。


「レイラ、しっかりしてよ。まだ行程の地図、確認してないでしょ」


 マイはそれだけをいうと、一人踵を返して会議室に帰ってしまう。珍しく有無を言わせぬ態度だ。


「ということみたいだ。また後で」


 レイラは、いつものハキハキした口調で挨拶を交わすと、マイの後を追う。俺とパートもそれに続いた。

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