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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
蛮族の影
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未知は遺跡にあり

「というわけで、お勉強です」


 マイが羊皮紙のメモの束を持って、いたずらな笑顔をつくる。

 会議室にはマイ先生と、できのいい生徒が一人とできの悪い生徒が二人ならんだ。


「そもそも遺跡には、大きく分けて3種類のものがあります。神紀文明時代、魔法文明時代、魔動機文明時代の3つの遺跡です。遺跡の初期調査では、その遺跡がどの時代のものなのか特定する必要があります」


「知ってるよそのくらい。親父から聞いた」


 遺跡の調査を提案したのは他ならぬこの俺だ。あのときは、まさか自分が調査隊に加わるなんて思ってもみなかった。


「ではアレンくん、どうやって特定するのかな?」


 言われてみれば、どうやってわかるんだろう。


「ああそうだ、文字とか?」


 前に魔動機文明語がどうとか、マイが言っていた。つまり時代によって文字が違うんだろう。


「うん、正解。他にも防衛用に残されている魔動機とか、魔法生物で見分けることもできるの。でも、文字も魔動機も魔法生物も残されていなかったときには、建築様式とか建材の加工方法とか、そういうところから特定することもできるのよ」


「それを俺たちが知っておく必要は、あるのか?」


 机に向かって一方的に何かを教えられた経験なんて、母さんに文字を教えられて以来なかったから、俺はあんまり居心地が良くなかった。


「ではアレンくん。魔動機文明時代の遺跡によく見られる防衛用の魔動機を3つ挙げ、その攻撃方法を教えてください」


「んなもん、知るわけないだろ」


 両腕を頭の後ろで組む。マイも意地が悪い。俺が知らないとわかって、こんなことを聞くんだから。


「これを知っているといないとでは、戦闘の安定感が違うでしょ? だから勉強しておいて欲しいの。魔動機とか魔法生物は、人族とか蛮族とか動物とかの常識が通じないから、先に知っておかないと痛い目を見ることがあるからね」


 そう言うと、マイは一つのスケッチをテーブルに置く。図太い四つの脚に支えられた大型の魔動機で、上半身は太りすぎた人間が肩に飾りのついた鎧をつけたみたいになっている。その肩のうえに用途のわからない大きな円筒が付いて、手は銃になっている。


「これはドゥーム。一番有名な警備用魔動機よ。ちなみに、人間がこのくらい」


 横にその大きさの半分ほどの大きさの円を描く。


「手は銃になっているんだな。この肩の筒はなんだ? 望遠鏡か何かか?」


 レイラも同じことを疑問に思ったらしい。


「それは大砲。巨大な弾丸を打ち出す銃だと思ってくれればいいわ」


「こんなでかいのが銃!? やっぱり、金属を打ち出すのか!?」


 人の拳よりも大きな金属が飛んでくることになる。そんなものに当たったら、それだけで命が危ない。そのうえ魔力が炸裂するのだから、ともすれば跡形もないかもしれない。


「その通り。知らないで飛び込んでたら、二人とも危なかったでしょ?」


 まったくだ。遺跡に行くということは、今の世界で通じない常識が存在する世界に行くということ。つまり甘く見ていれば、まったく予期せぬ事故や攻撃に見舞われる可能性があるということだ。


 飽きたのか、パートが横で本を読み始める。一人だけ知っているからって、ちょっとずるい。


「今日は、こういう危険な敵を解説していきます。遺跡が魔動機文明時代のものと決めてかかるのも危ないから、私の知ってる範囲で8種類くらい」


 敵の解説なら、俺だって少しは聞く気になる。レイラだってそれは一緒だろう。


「お願いします! 先生!」


 ふざけてそう呼んでみると、マイはまんざらでもなさそうな表情をする。

 嬉しくて笑うのを必死にこらえているような表情。先生って呼ばれるの、実は好きなんじゃないだろうか。


「先生! 他には、どんな敵がいるんでしょうか?」


 レイラも気づいたのか、同じように呼びかける。


「しかたないなあ! 先生が教えてあげましょう!」


 先生と呼ばれて鼻高々のマイは、嬉しそうに講座を続けた。

 腕が銃になっていたり水を打ち出したり、さらに大型のドゥームが存在したり、魔動機の種類は実に豊富らしい。一方で動き出す石だったり、石や鋼でできたゴーレム、あるいは触れた武器を溶かしてしまう生物まで、魔法生物も実に複雑怪奇だ。


 そんな奇妙奇天烈な生物の講座を受けていると、いつのまにか日もすっかり傾いていた。


「疲れた!」


 全部の特徴なんてとても覚えられたものじゃなかったけど、とりあえず聞いたことがあるのとないのとでは大違いだ。あとはマイがその場で教えてくれるはずだ。


「よし! これで明日は安心して、遺跡探索に行けるね。お疲れ様」


 マイ先生もようやく満足したようだ。


「距離を考慮に入れれば、遺跡調査は3日か4日掛かりでやることになる。野営の備えだが、分担を改めるぞ。アレンが加わったからな」


 そう言うとマイが新しい羊皮紙を取り出して、必要物資の名称を書き込んでいく。


「滞在は短くしたい。手早く調査を済ませた方が、運ぶものも少なくなるからな。馬の食事まで持って行くとなると、1日でも大した量だ。パートのバイクでマイを運ぶなら、テントをアレンが持ってくれ。毛布はアレンと私で2つずつ分担だ。松明やロープは私の馬に持たせる。保存食は各自5日分を持て。何があるかわからん。水についても各自で確保すること。森の奥に飲み水があるとは限らないからな」


 レイラの歯切れのいい指示が飛ぶ。それを聞きながら、マイが羊皮紙に手早く記録する。


「現地での分担だが、マイが遺跡調査の指揮を頼む。私は野営地の確保に回る。アレンとパートはマイの指示に従って、遺跡内部の安全を確保するように」


 レイラなしで未知の魔動機や魔法生物と戦闘というのは、少し心細い。


「全員で探索を進めてから、野営地の確保をするのはまずいのか?」


「気持ちはわからなくもないが、ダメだ。遺跡の近くで馬を放置すれば、野生動物や防衛システムに攻撃されるおそれがある。一日中誰かが監視して敵襲がなかった安全地帯という保障がなければ、前線拠点にするのは危険でもある」


 レイラなりに考えているみたいだ。でも、それなら俺が拠点確保に回った方がいいんじゃないだろうか。これまで3人で旅してきたわけだし、連携はそちらの方がうまくいきそうなものだ。


「それなら、」


 俺が口を開くと、レイラが手でそれを制する。


「いや、私が拠点確保だ。相手の性質を聞いただろう。だいたいの敵が金属や石、ゼリーの体を持っている。刃で切れる相手じゃない。新しくハンマーでも買えばいいのかもしれないが、あいにくラマンさんはもう出発してしまったそうじゃないか」


 俺たちがディザから帰ってきた日、ラマンさんは自由都市連合に向かって出発してしまったらしい。次に来るのは一週間後くらいだ。


「遺跡の出入り口付近をはじめに確保してもらえれば、あとは私一人で大丈夫だろう。いいかな、マイ?」


「それが一番いいと思う。けど、レイラと私たちの連絡手段も確保したいところね」


 お互いに危機が訪れた時にそれを知らせ合う警報は、確かに必要だ。でも、声も届かないところに何かを伝えるなんて、魔法使いでもない限り到底不可能だ。

 パートが何も言わないところを見ると、それを解決する魔動機も作り出せないらしい。


「これは今後の課題ね。何かいい方法が思いついたら、忘れないうちに共有しましょ」


 マイがそういったところで、部屋の扉がノックされた。


「はい? どうしました?」


 会議中に親父が扉を叩くのは、これが初めてだ。まだ食事の時間というわけでもなさそうだが。


「失礼します。ヤーマという旅のドワーフが来てまして、冒険者の皆さんに会いたいらしいです」

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