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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
蛮族の影
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守りの剣は失われ

 一仕事終えると、まずは村長に報告に行くというのが今回の契約の決まりらしい。

 それで村の出資金から報酬の一部をもらって、次の仕事の経費に充てるわけだ。


「あとは遺跡探索だけですかね。素晴らしい仕事ぶりと言う他ありません。ありがとうございます。アレンも、ありがとう」


 俺たちを出迎えた村長は、俺たちに深々と頭を下げた。


「いえ村長さん。お礼はすべてが済んでからにしてください。ようやく村の障害を取り除いたというだけであって、未来を勝ち取るためには遺跡の調査が首尾よく終わらなければなりません」


 こうやって人前で話しているときのレイラは、ものすごくたくましくて、力強くて、頼りになる感じがする。食堂のレイラとは本当に大違いだ。


「まったくその通りです。しかしそうでなくても、冒険者の皆さんがいらっしゃってからというもの、村の者の顔がぱあっと明るくなったんです。アレンだって子供の頃から見てきましたが、こんなに生き生きとしているのを見るのは、初めてです。こうやって、この村がまた息吹を取り返したこと。それだけでも、私はなんと感謝を申し上げていいのかわからないほど、感謝しております」


 予定していた滞在は2週間だった。その半分も経っていない6日目。元の依頼に含まれていなかったインビジブルビーストの駆除まで終わらせて、残るは遺跡探索のみ。依頼者にしてみれば、素晴らしい冒険者を捕まえられたことを神に感謝する気持ちだろう。


「村長さん、実はひとつご相談があります」


 マイが口を開く。まさかラミアの件を伝えるつもりだろうか?

 いくら村長とはいえ、村人に蛮族が紛れ込んでいるなどと聞けば、ひどいショックを受けるはずだ。


「以前この村を訪れた冒険者4人が、はなれ森に踏み入ったのちに行方不明になったと聞いています」


 マイが羊皮紙を取り出して、メモを見ながら話す。


「それで、その方々の弔いは行われましたか? つまり行方不明ということは、遺体が回収されていないのではないかと思うのですが…」


 どういうつもりなんだろうか。ラミアの話に進むにしては、遠回りすぎる。しかし、マイのことだからきっと考えがあるんだろう。


「たしかに、遺体が発見されたと言う話は聞きません。しかし、それがなにか?」


「もしそうだとしたら、アンデッドになっている恐れがあります。冒険者は生きることに強い執着を持ったまま亡くなってしまうことが多くあり、各地でアンデッドと化した姿で発見されています。森の奥に魂を縛られているので危険性は低いのですが、スケジュールに余裕もありますから、念のため討伐して弔ってあげようかと」


 アンデッド。ティダンを信仰するこの村にとって、その響きはかなり強い影響力を持つ。

 この信仰では、蛮族以上にその存在が許されてはならない。


「たしかに私もそれには気を揉んでいました。しかし森には獣も多いと聞きますから、何もできずに来たのです。以前の冒険者様方が、死を受け入れられていればいいのですが…」


「村長さん。この村には守りの剣がありますか?」


 レイラが話題を変える。

 守りの剣というのは、魔動機文明時代の遺産で、村の中に蛮族が入れないように、魔法の障壁を築く力を持っている。昨日手に入れた〈剣のかけら〉をエネルギーにしていると聞いたことがある。


「いえ、それが…」


「俺から話すよ」


 村長が言い淀むのを見て、俺が引き受ける。


「以前はあったんだ。人口も多くないから、弱いやつがひとつだけ。俺が子供の頃のことだから、俺も覚えてなくて親父から聞いた話なんだけど、冒険者も出入りしていたし、〈かけら〉の儀式も行われていたんだ」


 でも、新街道ができて状況が変わった。


「何年か前から〈かけら〉が不足するようになって、もう守りの剣が仕事をしなくなっちゃってね。それを知ったディザの役人が、守りの剣の移動を命じてきた。新街道沿いに新しく建設されたっていう、ウェラフっていう新しい街の人口がこっちを超えそうだから、配置換えをしたいってことでね」


 まったく勝手な話だ。村人たちを守る最強の盾。命綱といってもいい守りの剣を、勝手に寄せ集まった人々が増えたからそちらに持っていくなんて、何度考えても許せない。


「しかし、そもそもこんな辺境の村に守りの剣が置かれていたこと自体、帝国の慈悲みたいなものでしたからね。人類の宝をここで腐らせるよりは、使ったほうがいいというのも事実です」


 村長がそう思っているというより、そう言って自分を納得させようとしているのは明らかだった。守りの剣を差し出すことを条件に巡視の衛兵を増員してもらっていたが、それも今ではすっかり減ってしまっている。約束は無視され、いまや帝国から見れば、この村なんて事実上の棄民だ。


「それでは、せっかく〈剣のかけら〉を得たというのに、この村のためには使えないということですか…」


 レイラは残念そうに少しうつむく。

 〈剣のかけら〉は守りの剣のエネルギー源になる。〈剣のかけら〉が安定して納められるようになれば、村の周りに蛮族がいてもやすやすと侵入を許すことはない。でも、そんな安泰はこの村とは無縁だ。


「では、遺跡で守りの剣を手にいれるようなことがあれば、必ずこの村のために持ち帰ります」


 すぐにいつもの覇気を取り戻すあたり、やはりレイラが頼りになるリーダーだと感じる。


「ええ、よろしくお願いします。それと、今回の報酬なのですが…」


 村長が申し訳なさそうにいう。もとは依頼に含まれていなかった案件だ。報酬の用意がなかったのかもしれない。


「額が、少なくなります。パルウィリーさんの奥様からいくらかご出資をいただきましたから、それでも少しは用意できたのですが…」


 そう言うと村長は四つの麻袋を取り出す。


「お一人700ガメルほど用意できました。残りは、遺跡の調査が終わったらお渡しします」


「十分です。パルウィリーさんの奥様のご体調はいかがですか?」


 そういえば、レイラたちは初日にパルウィリーさんの家に話を聞きに行っていた。

 最近病気になっていたらしく、奥さんを全然見なくなっていたけど、話を聞けたのだろうか。


「ええ、冒険者様方が透明の獣を討伐したと聞いたら、『やっと安心して眠れる、私からも、お礼をあげて』と言って、穏やかに眠ってしまったそうです。それでパルウィリーさんが2000ガメルを包んで持ってきてくださいました」


「それはよかった。ひどくうなされていたみたいだったので、心配していたんです」


 つまり病気ではなくて、インビジブルビーストが姿を表すのを見たか何かで、恐怖にうなされていたということらしい。たしかに改めて思い出してみても、あの化け物は気味の悪い姿をしていたと思う。


「またはなれ森に行くなら、行ってお声かけしてあげてください。きっと元気になっていることでしょうから」


「わかりました。では、我々はこの辺りで失礼します。遺跡調査の朗報をお待ち下さい」

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