表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
深林の逆叉
23/83

白馬は駆ける

 馬の脚は早い。帰路は短かった。


 レイラとの楽しい小旅行は終わって、またあの問題まみれのモリス村に帰る。


 結局、ディザの街中をよく見る暇もなかった。道が石畳で建物がとにかくたくさんある、というくらいのことしかわからなかった。

 でもレイラだってずっと冒険の仕事をしているんだから、あまりディザの街を出歩いてはいないのかもしれない。


「村は、大丈夫だよな!?」


 駆ける馬の背中で、朝の空気が頬を撫で、耳元で唸りをあげる。


「大丈夫だ! マイたちがいれば、心配ない!」


 屈託無いレイラの声。

 翼を広げて、大地を滑るように駆ける。

 イーダの言う通り、その姿はペガサスそのものだ。


 昇り来る朝日に草原の朝露が反射して、光の海を渡る橋みたいになった旧街道を、ひたすら駆け抜ける。


 しばらくして、朝食を用意する煙が地平線の先に見えて来る。


「うん! 朝食だな!」


 レイラが大声を上げる。


「レイラ! この馬の力を見たい! 全力を出すぞ!」


 このくらいの距離なら一息に駆け抜けてくれるはずだ。

 鐙に載せた足に力を入れ、内腿を絞る。手綱を、一振り。


 並走していたレイラの白馬を一気に引き離し始める。


(早い!)


 こんな馬、乗ったことがない。なんて早さだ。

 身をかがめる。もしも俺が軽ければ、この馬はもっと早く、風のように駆け抜けて見せたはずだ。少しでも馬力を邪魔しないように、馬に身を寄せる。


 飛んでいるみたいだった。

 一つ一つの蹄が打ち下ろされる間に、世界が後ろに吹き飛んでいく。


「最高だぜ! 相棒!」


 俺は思わず雄叫びをあげる。

 みるみるうちにモリス村が近づいてくる。


 この辺で休ませてレイラを待とう。

 手綱を引いて馬を抑えようとする。しかし抑えられない。


「おいおいおい、もういいんだぜ? なあ相棒。腹でも減ったのか?」


 言ってみるが、全く速度が落ちない。


「おい、俺が主人だろ? 言うこと聞けよ!」


 ちくしょう。全力で手綱を引く。

 ようやく速度を緩めてくれる。多少気性が荒いどころか、ずいぶんな聞かん坊じゃないか。


「よーしいい子だ。どーどーどー」


 十分に速度が落ちたところで、首を優しく叩く。


「お前、俺のこと嫌いなのか? 頼むぜ? 昼からの仕事はキツイんだ」


 後ろからレイラが駆けてくる。


「すごい速さだったな!」


 それに合わせて、俺もまた馬を走らせる。


「でも止まれって言っても止まらなかった。まだ打ち解けきってないかな」


 それでもなんとなく、気が合いそうというのはわかるから不思議だ。従順な馬よりは、これくらい個性があったほうが俺に釣り合う。

 まったく、イーダは人と馬を見る目がある。


「アレンみたいな馬だな!」


「なんでだよ!」


「同じじゃないか! 私が止めたのに、いつも出過ぎる!」


 言われてみればそうかもしれない。

 蜘蛛のときも、身を危険にさらすなと言われて、俺は一人で蜘蛛のところに行った。

 盗賊のときも、下がって敵を引き付けるはずだったのに、下がらずに魔法を受けてしまった。


「イーダに何か言ったのか?」


「言ってるわけないだろう! アレンがわかりやすすぎるんだ!」


 まったく不名誉だ。言うことも聞かずに前に出る。それが顔に書いてあるほどの猪突猛進さ。相手につけこまれたら、すぐに孤立させられそうだ。


「しかし前衛は出過ぎるくらいが丁度いい! 私は頼りにしているぞ!」


 頼りにしている。いい響きだ。


「このパーティの最前衛は、俺がいただきだな!」


 そう言って、また馬を加速させる。


「なっ! 私は譲らんぞ!」


 今度はレイラも食いついてくる。


 横に並んで、追い抜かれる。


 レイラの馬もやる。あるいは、翼で鎧の重さをなくしているのか。


 そのあたりで、二人とも速度を緩めた。モリス村の北門にたどり着いたのだ。


「馬なら、宿のそばに冒険者用の厩舎がある。そこに運ぼう。マイが伝えてくれてたら、親父が用意しといてくれてるはずだ。」


 馬の上から見る村の景色は、また一つ違って見えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ