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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
深林の逆叉
19/83

予期せぬ旅立ち

 苛立ちは収まりどころを得なかったけど、俺は溜飲を下げる。

 ここで言い争っても仕方がない。もっと情報が必要だ。

 セシリアさん以外の誰かが、ラミアだということを示す情報が。


「それで、私に考えがあるんだが…」


 柄にもなくレイラが作戦を提案する。


「その危険な植物たち、利用できないのか?」


 小さな沈黙の後、マイが口を開く。


「…まさか、相手を食人植物にぶつけるってこと?」


「そうだ。植物ならそんなにグルメじゃないだろう。人族も蛮族も、たいして変わらないんじゃないか?」


 グルメじゃない腹ペコヴァルキリーに言われてしまっては、食人植物も屈辱だろう。

 しかし、悪くない案のような気がする。


「でも森の中は相手のテリトリーよ? 罠なんて張れないし、戦闘が始まれば移動もままならないでしょ? 相手を危険植物のところに誘導するなんて、無理じゃないかな」


「いや、レイラが飛べばいいんじゃないか? それで相手を誘導して回れば、戦わないでうまくやれるかも」


 3人が3人揃って、俺を黙って見る。それから3人でお互い顔を見合わせると、レイラが口を開く。


「人族が飛べるわけないだろう。頭、大丈夫か?」


 この反応はまったく予想外だった。予想の遥か斜め上だ。

 たしかに普通の人間は飛べない。エルフだってドワーフだって飛べないはずだ。

 たぶん、ルーンフォークも飛べないだろう。でもレイラは違う。


「その羽根は何のためにあるんだよ!」


 思わず声が大きくなる。


「ああこの羽根か? これは飛べんぞ。ラマンさんのところまでだって、走って移動してたじゃないか」


 言われてみればそうだ。しかしそんな大きな羽根が見掛け倒しだなんて、とても信じられない。

 きっとまだ使い方を知らないだけで、練習すれば飛べるようになるんじゃないだろうか。


「羽根がついてるのに飛べない生き物なんて、見たことないぞ。それ、たしかなのか?」


 あえてレイラではなくマイに尋ねる。レイラ個人が飛べるか飛べないかというより、ヴァルキリーという種族が飛べるか飛べないかを知りたいのだ。


「文献で読んだ限りでは、飛べないらしいよ。ただ降下速度を操るくらいのことはできるって。あとこの羽根、本当は収納できるはずなんだけど…」


「それは私の趣味に反するんだ。かっこいいじゃないか、この羽根」


 椅子に座ったまま、羽根を左右に広げて、自慢げな顔で俺たちを代わる代わる見る。


「あー、うん、いいと思うよ」

「うん、かっこいい、かっこいい」


 適当な賛辞にもかかわらず、レイラは満足げに羽根を閉じる。


「部屋で毎日手入れしてからしまってるんだぞ。私のチャームポイントだからな!」


 チャームポイントなら仕方ない。明らかにそれ以上の注目を集めている気がするが、レイラが気にしないなら俺の知ったことではない。


「とにかく、レイラは飛べない。似たような方法で相手をおびき寄せられればいいんだけど…」


 マイが話を戻す。


「僭越ながら」


 パートがいつもの前置きを挟んで、口を開く。


「馬で走り回るというのはいかがですか」


 高さが取れないなら、機動力で上回ろうということか。さすがパートはいいアイディアを出す。


「悪くないんだけど、わたし馬には乗れないよ? レイラは乗れたと思うけど…」


「俺も、少しくらいなら乗れるぜ」


「パートは、馬に嫌われる体質だったな」


 レイラがそう言うと、パートが心なしか目を伏せる。パートにも感情らしきものがあることを伺える初めての表情の動きに、俺は少し安心する。


「騎兵が二人か。何体いるかわからないインビジブルビーストを撹乱しながら、危険植物のところに誘導するのには、ちょっと心もとないんじゃない? それに万が一落馬したら、敵中孤立だよ?」


 たしかに危険だ。慣れない森の中を、読み方を教えてもらったばかりの地図の通りに馬を走らせなければ、作戦は失敗。よくて敵中孤立。悪ければ危険植物の餌食だ。


「この村に魔動バイクはありませんか?」


 マナを動力として駆動する大型魔動機。魔動バイクの噂は聞いたことがある。しかし、そんな洒落たものがこの村にあるはずもない。ディザなら話は別だろうが。


「そもそも馬にしたって農耕用の馬しかいないから、森を走るっていうのは難しいかもな。荷車を引く馬とも違うだろうし」


 八方塞がりだ。でもこれを討伐しないと、おちおち遺跡探索にも行っていられないし、この村は滅びの道へまっしぐらだ。


「やむを得ん。ディザに戻るぞ」


「おいおい! 逃げるのかよ!」


「違う! 馬と魔動バイクを手配しに行く。マイとパートはここに残って本の調査を続けてくれ。何かあればスタンリー司祭とも協力して、村の防衛に専念しろ。決して打って出るなよ」


 レイラの有無を言わせない指示が飛ぶ。

 俺がこの村を出る?

 冒険者になったときにそんな日がもうすぐ来るとは思っていたけど、こんなに早くその機会を得るとは思わなかった。


「今すぐ出れば、夜のうちにディザには着く。一泊して、朝に馬と魔動バイクで戻れば、休憩を挟んでも明日の昼のうちに作戦を決行できる。マイ。簡単でいい。森の地図を複写してくれ。アレン。一泊分の荷物の用意を。15分後、出発だ」


 全てが急だった。

 子供の頃から話にだけは聞いていた城塞都市ディザ。15分後には、そこへ向けて出発することになる。そして今夜はディザの街に一泊できる。


「了解!」


 マイが小気味良い返事を返したのを合図に、俺も立ち上がる。マイは羊皮紙にペンを走らせ始め、パートは積み上げてあった本を手に取り、俺とレイラは荷物を整えるためにそれぞれの部屋へ向かった。

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