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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
深林の逆叉
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見えない敵の指揮官は

「よう、冒険者さんたち。買ってくかい?」


 会議室に戻るため商店街を抜けていると、ラマンさんが声をかけてきた。

 パートが歩み出て、一言だけ「銃を」と言う。


「ニイちゃん気取ってんな。ほらよ、ディザでも新式の銃だ。あのテンペストの改良型。やっとルキスラから外にも流れてきたんだぜ。どうだ?」


 長銃を取り出すと構えてみせ、すぐに弾倉を開いて閉じ、また構える。


「射程は30mと月並みだが、テンペストシリーズ伝統の装弾数6発の弾倉は他の銃じゃ再現できないぜ。さらに、こいつには改良型の魔力ブースト機能が付いているというから、驚きだ。ほら、持ってみな」


 銃が投げ渡される。商品をそんな風に扱うなよと思うけど、ラマンさんなりのやり方なんだろう。


「銃ってのは、初めて持った時のインパクトで決まっちまう。どうだ、その軽さ。取り回しが効く程よい長さの銃身から、立て続けに放たれる6発の弾丸を想像してみな。魔力ブーストの爆発力で、ニイちゃんに駆け寄るゴブリンやボガードなんて…」


 銃を構える姿勢をとって素早く左右に振り、両手を挙げて肩をすくめてみせる。


「一瞬で撃退さ。どうだ? アレンの誼みもある。もっとぼったくってもいいんだが、定価の2000ガメルで売ってやろう」


 ラマンさんが冒険者から商人に転じた理由がよくわかった気がした。こんな風に言われたら、間違いなくアタリの買い物だと感じて、満足して取引ができる。


「あと、そうだ、天使様。バスタードソードを使ってたよな?」


 パートの返事を聞く前に、レイラに呼びかける。


「今は手元にないんだが、来週この村に来る時には、フランベルジュを仕入れてきてやるよ。刃波打つ炎のような大剣だ。天使様の腕力でぶん回せば、二度と立ち上がる蛮族はいるまいさ。楽しみにしてなよ」


「刃波打つ…見栄えはいいのかもしれんが、それは使い勝手がいいものなのか?」


 思いの外、レイラは慎重な客のようだ。


「ちっちっ、甘いよ天使様。その刃の鋭さはあのグリアレイターを凌ぐと言われている」


「なっ! あの魔剣グリアレイターをかっ!?」


 その剣についてはよく知らないけど、レイラが簡単に手玉に取られたことだけはわかった。マイもそれを感じ取ったのか、頭を抱えてため息をついている。


「それはすごいな! そんなに鋭ければ…ああ、どうなる! すごいぞ! それは…すごいぞ!」


 興奮するレイラの傍で、パートが懐から金貨袋を出す。中身を確認すると、そのままマルッとラマンさんに投げ渡す。


「いい冒険者はいい買い物をする。これからもどうぞよしなに」


 ラマンさんは金貨の枚数を確かめると、ニカっと笑う。


「その剣、絶対持ってきてくれよ! 絶対だぞ!」


 レイラはまだ言っている。果たして天使様はいい買い物をするいい冒険者なのだろうか。


「ほらレイラ、今はないんだから。行くよ」


 そう言うと、マイが興奮気味のレイラの片腕を掴んで引っ張ろうとするが、レイラを動かすには力不足だ。


「マイ! この凄さがわからんのか!? こう…ほら! ブンと振ったらズバッだぞ!」


 ラマンさんの口上を聞いたあとじゃ、レイラの説明は意味不明を通り過ぎた何かにしか聞こえない。俺たちは、レイラが商人に転職する心配だけはしなくてよさそうだ。


「わかったから、今は蛮族退治の話が先だ」


 俺もそう言って、マイと一緒にレイラの腕を掴んで引っ張る。

 なおもラマンさんに大声で約束を取り付けるレイラを引きずりながら、俺たちは宿に戻った。


 会議室に着いた頃に、ようやくレイラの興奮が収まってきた。これからは極力、食事と剣の話はしないようにしよう。


「それで、インビジブルビーストの件なんだけど…」


 滞在4日目だというのに、すっかり馴染んでしまった会議室。

 地図を見ながら、マイがおもむろに口を開く。


「何か引っかかると思って考えてたんだけど、わかったの。あのね、インビジブルアサシンって呼ばれてる蛮族、知ってる?」


 俺たちは互いに顔を見合わせて、揃って首を振る。


「勉強不足ね。でも珍しい種族なのは確か。インビジブルビーストのなかでも知性に優れていて、ともすればその辺のドレイクより戦闘能力は高い。そんな種族」


 蛮族の王とも呼ばれるドレイク族。下級のドレイク族よりも強いということは、つまりたったこれだけの人数で戦える相手ではないということだ。


「インビジブルビーストたちに指示を飛ばせるとしたら、ドレイクやオーガよりもこれを警戒するべきじゃないかなと思うの」


「しかし、それは仮定の話だろう? 警戒するに越したことはないが、警戒しすぎて臆病になれば討伐はできないぞ」


 レイラの意見ももっともだ。

 俺たちの手に余ろうと、この村のためには討伐しなければならない。


「私も、討伐を中止しようって言いたいわけじゃないの。ただ、作戦が必要。レイラがいくら剣を振っても、アレンがいくら拳を突き出しても、パートがどれだけ狙い澄まして射撃しても、相手に躱されるかもしれない。そんな状況になったときに、全員を生きて返せるほど私の魔力も無尽蔵じゃない」


 マイの意見ももっともだ。最悪の状況を想定しておくに越したことはない。

 しかし拳で殴ることしか頭にない俺に、作戦を立てることなんてできない。

 その辺りはマイとパートの担当だろう。


「それでノリスさんとラマンさんは、むかし北森に調査に入って、生態調査と詳細な地図を作ったことがあるらしいの。その頃にはインビジブルビーストもいなかったって。もしもそのまま生態が変わってなければ、有利な地形とかあるかもしれないでしょ?」


 親父はそんなことまでしていたのか。冒険者時代から、よほどこの村のことを気に入ってたんだな。母さんのことを気に入ってただけかもしれないけど。


「その地図がこれ。集会場で保管されてて、テレジアさんが貸してくれたの」


 まったくいつの間に借りてきたんだか。マイが単独行動したって言ったら、俺が酒に酔っ払って意識が飛んでいた夜の間くらいだ。あの戦いの後すぐに次の問題のことを考えていたなんて、切り替えの早さに驚きを隠せない。


「アレン、この機会に地図の読み方を教えておくよ? 冒険をするなら、絶対に必要だから」


 そう言うと、地図を広げて左隅にピンを打つ。

 マイは地図の見方の解説を挟みながら、地形の特徴を整理する。


 つまり、危険な植物が多すぎてうろつくだけで大変なところに強敵が潜んでいるから、作戦は困難を極めるということだった。そのうえ相手が知性を持っているせいで、一度破れた俺たちの前にそう簡単に姿をあらわすことはないと。


「つまり虎穴に入らずんば虎児を得ず。討伐するためには、この危険植物渦巻く北森の深部に入っていく必要がある、ということね」


 絶望的だ。何から何まで相手にとって都合がいい。つまりは、天然の要塞を利用して、蛮族が街道を荒らしているということだ。この村が消耗するのも頷ける。


「それから…アレン、一つ聞きたいことがあるんだけど…」


 これまでハキハキと話していたマイが、急に言い淀んだ。

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