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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
深林の逆叉
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祈り

 村長の家の前でみんなが待っていた。


「よし、アレン。これが盗賊退治の報酬だ」


 レイラが小さな麻袋を突き出す。


「報酬? 俺が?」


 そう言ってから、今は俺もこの村に雇われた冒険者だったことを思い出す。


「君が加入して、我々の取り分は減ったんだ。それに値する仲間だと、我々が考えているということを忘れるなよ」


 これまでも散々人を殴ってきたが、それで金をもらったことなんてなかった。

 拳を人のために振るう。

 そんな可能性が存在するなんて、考えたこともなかった。


「そういうことなら、いただくよ。いくらだ?」


「ざっと1000ガメルだ」


「ぶっ!」


 思わず吹き出してしまう。


「なんだその額!? 冒険者ってそんなに貰ってるのか!?」


 一晩戦っただけで、2ヶ月分の生活費だ。


「新しい装備を買ったり消耗品の補充をしたり、お金はすぐになくなるから」


 マイにそう言われて、セシリアさんのところで買った薬草の値段を思い出す。たしか600ガメル。でも、まだあの薬草を使ったところは見ていない。


「たとえばパートは、ラマンさんがいなくなる前に、蜘蛛退治の分と今回の分を使い切る予定らしい」


「そうなの?」


 無口なパートが応じるとは思わなかったけど、あえてパートを見て訊いてみた。


「はい。私は、新しい銃を買う予定があります」


 意外にもパートが自分で応じてくれる。たしかに銃は高そうだ。その代わりルーンフォークは食事がいらないから、金を使う機会が少ないのか。


「まずはフォルマンさんたちの墓に挨拶に行こう。それから、インビジブルビーストの討伐について作戦会議だ」


 フォルマンさん。俺がもう少し早く走れれば、間に合ったかもしれないのに…。

 そんなことを考えても仕方がない。それはわかってはいたが、考えないようにするのは難しかった。


「そうだ、あの気持ち悪いやつ、今日中に討伐するのか?」


 昨日ラマンさんを迎えに行ったときに殴り倒した、皮膚の削がれた人間みたいなとにかく気持ち悪い生物。あんなのが北森にうじゃうじゃいるのかと思うと、それだけで鳥肌が立つ。


「ごめん、それについては、私からストップをかけます。でも詳しくは作戦会議で。まずはスタンリー司祭に挨拶しましょう?」


 教会は村長の家のすぐ近くにある。ルキスラ南部の通例に漏れず、この村では太陽神ティダンが信仰されている。十字に輝く円い太陽の紋章が教会の随所に象られている。


 俺は詳しいことは知らないが、ティダン信仰の中心はアンデッドの忌避にある。

 この世界で最も忌むべき対象は、蛮族よりも先にアンデッドなのだそうだ。


 この辺りはマイの方が詳しいだろう。もっとも、マイの信仰する神がなんなのか、俺は知らないのだけれど。


「スタンリー司祭。無事に討伐を終えましたので、フォルマンさんの弔いに参りました」


 重い扉を押し開けて、レイラが大声で呼びかける。

 レイラの力のこもった声は、いつ聴いても心地よい。


「これは冒険者様方。昨日は、お疲れさまでした」


 奥からスタンリー司祭が姿を表す。胸元の聖印を握って、祈りの姿勢をとる。


「私とマイは信仰神が違いますが、別の形式で祈りを捧げてもよろしいでしょうか?」


 エルフのマイは当然として、レイラも違う神を信仰しているとは意外だ。ひょっとして、ルキスラ以外の出身なんだろうか。


「ええ、構いませんよ。できれば、ルミエルの神格であることを期待しますが」


「その点はご心配なく。私がリルズの信徒。マイは…」

「アステリアです」


 妖精神アステリアなら聞いたことがある。たしかティダンを巡って、月神シーンとの三角関係の恋の伝説が伝わっている神様だ。

 結局、月神シーンが太陽神ティダンの妻になって、アステリアは恋の争いに負けた…はず。


 …それっていいのか? ここってティダン教会だよな?


「それはよかった。ティダン様も歓迎なさることでしょう」


 なんだか別の意味で歓迎しているように聞こえてしまう。

 神様が不倫するわけもない…のかなぁ。


 俺はこの村の出身だから、一応ティダン信徒ではある。といって神様の声は聞こえたことがないし、その力を借りて神聖魔法を使うなんて、とてもできたもんじゃない。


「パートって、神様、信じてるのか?」


 尋ねると、パートはほんのわずかに顔をしかめる。


「私はルーンフォークです。神とは交流できません。したがって、神に祝福された種族の一員ではありません」


 それもそうか。たしか人族の中でも、人間とエルフ、ドワーフあたりだけが神の祝福を受けているという話だ。その中でも、きっとレイラたちヴァルキリーは別格なんだろう。


(神様に祝福されてるっていう実感、あまりないんだけどな)


 こんなところでは言えないから、心の中でつぶやく。本当に神様がいるなら、こんな言葉も聞かれてしまうんだろうか。


 フォルマンさんの一家がおさめられた墓の前で、思い思いに祈りの姿勢をとる。


(俺の力不足のせいだった。どうか安らかに眠ってください…。奥さんも、バートレイも…)

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