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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
悪人の裁きは
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圧倒的制圧

 その瞬間、遺跡から雄叫びが上がった。


「罠だ! そいつを殺して逃げろ!」


 中から声が上がる。

 まだいやがったのか。数ばかりは多いクズどもが。


 しかし、これで魔法使いが姿を表す可能性がある。この状態で魔法の直撃を受けたら、立っていられるか怪しいもんだ。


 しかし、そんなことは関係ない。魔法使いはレイラたちがなんとかしてくれる。


 意識を集中すると、再び筋肉が膨れ上がるのを感じる。


 飛びかかるように盗賊を殴り飛ばす。

 あばらを持って行ったかもしれないが、根性があるならまだ向かってくるだろう。


 全身の血液が沸騰するのを感じる。俺の闘争本能が爆発している。

 剣も、斧も、槍も、子供が投げたボールみたいに、他愛もない攻撃に思える。


 そこに、声。


 ヴェス・ザルド・ル・バン ストラル・スルセア・・・エスパドル!


 眼前が歪む。この呪文、ラマンさんが使っていたものだ。

 気づいたときにはもう遅い。


 腹の辺りが熱くなる。闘志とは無関係に、俺の体が膝をついた。

 腹を触ると、真っ赤な血が溢れている。


「そこまでだ!」


 レイラの声が響く。魔法使いがレイラの大剣に弾き飛ばされるように倒れる。

 続いて、レイラの横から光の弾が4つ、勢いよく飛んでくる。俺の周りに立っていた盗賊たちが吹き飛ばされた。


 レイラが、倒れた魔法使いにもう一度大剣を振り下ろす。


 ほとんど同時に、遺跡の2階がパァッと明るくなる。

 パートが制圧の合図をあげたのだろう。


 マイが俺に駆け寄ると、暖かな光が俺を包んで腹部の傷がふさがっていく。


「魔法がこんなに早いなんて、俺、聞いてないぞ。」


 失いかけた意識をすんでのところで保って、俺は膝をついたままマイに訴える。

 初めて魔法を受けたが、あんな速度で発動されたら躱すなんて到底不可能だ。

 剣士であっても魔法を学ぼうとする理由がわかった気がする。


「マイ! アレンは無事か?」


「危なかったみたいだけど、大丈夫!」


 大声のやり取りの後、レイラがこちらに歩み寄ってきて、思い思いに負傷箇所を抑えてうずくまる盗賊たちに殺気のこもった視線を向ける。


「よくやった、アレン。あとは任せろ。」


 そう言うと、レイラは大剣を振り上げる。


 任せろって、何を?


 そう訊こうとした瞬間、バスタードソードは怯えきった盗賊の頭を叩き割った。


 俺は息を飲む。

 マイも完全に硬直している。


 その様子に、重傷を負った盗賊が這いずって逃げようとする。


 しかし、レイラは歩み寄って、その体を踏みつけ、両手で大剣を突き刺す。

 あまりに一方的な暴力だった。


 振り返ったレイラの目からは、明らかに正気が失われている。


「レイラ!」


 俺は立ち上がって、レイラの両肩を抱く。


「落ち着け! 相手はもう戦えない! 殺さなくてもいいんだ!」


 レイラは何も言わずに俺を押しのけ、バスターソードを振り上げる。

 その眼下には、俺が腕をへし折った盗賊が足だけでもがくように後退っている。


「レイラ! やめろ!」


 背後から両腕を抱えるようにレイラを取り押さえる。

 マイもその足に飛びついてレイラの動きを止める。


「離せ! 私は! 盗賊など!」


「レイラ! あなたの敵はこの人たちじゃない!」


 マイが叫ぶ。


 少しの沈黙が流れて、レイラの力が抜けた。


 恐る恐る拘束を解くと、レイラは誰とも目を合わせることなく踵を返してしまう。

 その背中に、誰も声をかけることができなかった。


「アレン手伝って。この人たちを“拘束”しないと」


 遺跡から姿を現したパートが、どこから持ってきたのかロープを握っている。その視線の先には動かなくなった魔法使いの姿。


「死んじゃったのは…1、2、3…4人ね」


 4人? レイラが斬ったのは3人だ。


「俺、誰か殺したのか?」


「はじめに殴りかかった人よ。顔が半分つぶれてる。あなたは見ないほうがいいわ」


 手加減できなかったとはいえ、あまり気持ちのいい話ではない。


「でも、こいつらが暴れださないように、あなたもまだここにいてもらっていい? 私達だけだと、ちょっと不安だし」


「ああ、わかった」


 すでにパートが一人を縄で縛っている。マイもロープを受け取って、うずくまる男を縛る。


 なにか、すっきりしない。

 ハードノッカーを外してベルトに掛ける。


 その場に座って草をむしった。

 人殺したちを殺した。それだけのことだ。


 しかし、レイラの殺し方は違った。

 いや。人を殺すのに、いい殺し方も悪い殺し方もない。


 俺はこれから、こんなことを繰り返さないといけないんだろう。

 人間も、蛮族も、動物も。立ちはだかるならば、次々にこの拳で命を奪わなければならない。


 いずれこんな気持ちにならなくなるんだろうか。


 そのとき俺は、喜んでもいいのかな。

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