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クセモノたちの輪舞曲  作者: 早瀬
悪人の裁きは
13/83

対盗賊戦

 3つのマギスフィアが用意された。


 パートの魔力から言って、2つに録音し1つを再生すれば、一度魔力の補充が必要になるらしい。とはいえ内部の魔動ジェネレーターから魔力を絞り出せば、直ちに魔力を全回復できるという。人造人間の仕組みはよく分からない。


 もちろん、あらかじめ録音して休息を挟んでから行けば、魔力の補充なしでも十分に戦える。


 俺たちは、さっそく1つ目の録音機に音声を記録する。

 ささやくような唸るような、そんな声で「よくも」とか「呪ってやる」とか、そんなことを繰り返し言っておく。


 続いて、悲鳴の記録。

 男の盗賊は必ずいるだろうということで、声は俺が担当した。

 ついでに「こっちはダメだ!」とか「表へ逃げろ!」とか、そういうことも言っておいた。

 そんな言葉を言った後「や、やめろ!く、くるなぁ!うわぁぁぁっ!」という悲鳴を残しておいて、この声を最後に人の姿がなくなっているという寸法だ。


 もう1つの録音機には、俺たちが雄叫びをあげて突入するような声を記録しておく。これで、相手はアンデッドとともに切り込んできた狂信者の集団に畏怖することになるはずだ。


 あとは、前門で俺が全力を尽くせばいい。

 はじめは相手に舐められて、戦い始めたら苦戦させる。そのくらいの奮闘だ。


 それらの用意を済ませて、パートの休息を挟むと、図らずも決行は夜になった。

 アンデッドもどきを利用するには請け合いのタイミングだ。


 出発前、親父が倉庫から別の装備を取り出してきた。


「こいつはハードノッカーと言ってな。お前の握力があれば使いこなせるだろう」


 拳の全面を覆うような金属板を、包帯のような紐で複雑に結んで拳に固定する。


「これ、顔面に当たったら死ぬな」


 素振りをしてみても拳の速度は全く落ちない。こんな金属を俺の拳の速度で直撃させれば、並の人間ならよくて気絶だ。


「相手も人間だ。殺せとは言わんが、相手は殺しにくる。生き残りたければ、手加減だけはするな」


 そう言うと、親父は俺の背中をバシンと叩く。


「今度はひどい怪我はしないから、安心して待っとけって、母さんには言っといて」


 そう言い残すと、外で待っていたレイラたちに合流した。



「なんでランプつけないの?」


 しばらく進んだところで、率直な疑問を口にする。

 月明かりのおかげでやっと3人の姿は確認できるが、それより先は見えたもんじゃない。


「私にも見えていないが、あの二人は夜目が効くんだ。エルフはそういう種族だし、ルーンフォークだってそのくらいの機能は搭載している。」


「ひょっとして、俺が戦う時も暗いの?」


「いや、その必要はない。相手を挑発する時には松明をつけたほうがいいだろう。相手からも見えやすいし、一人というのがはっきりわかるからな。」


 夜目が効くという二人の背中を追って、夜の村はずれを進む。

 しばらく進むと、パートが止まるよう手で合図した。


「では、私は裏に回ります。10分後に計画を実行しましょう。」


「気をつけてね、パート。」

「何かあればすぐに撤退しろ。最悪、敵は逃がしても構わん。」


 マイとレイラがそれぞれに挨拶を済ませる。最後にパートは俺のほうを見て、互いに頷いた。


「じゃあ、私たちも遺跡の脇に隠れるから。」

「無茶はするなよ、アレン。」


「雑魚相手に無茶なんて、したくてもできねぇよ。」


 深刻そうなトーンの二人に、冗談を返す。そんなに気を張ってしまったら、調子が出ないじゃないか。


 さて。


 呼吸を整える。少し時間がたったら、はじめに俺が挑発する。敵の人数も知らずにやってきた愚かな若者として、決闘を申し込む。


 あとのことは仲間たちに任せればいい。


 よし。


 松明に火をつけて、俺は一歩を強く踏み出す。暗がりに慣れていた目に、松明がいくらか眩しい。


 まっすぐに進むと、すぐに遺跡が見えてきた。暗がりの草原にたたずむ石造りの遺跡。

 きっと〈大破局〉以前には、何かの施設として栄えていたんだろう。それこそ、研究員御用達のレストランだったのかもしれない。


「おい! クソ盗賊ども! フォルマンさんの敵討ちだ! 俺と勝負しやがれ!」


 腹の底から声を出す。

 相手を騙そうなんて思っていない。これは俺の本心でもある。


 すぐに中が騒がしくなる。

 ここで当たりだった。クソ盗賊どもも、今日で運の尽きだ。


「おい、ガキが喚いてるぞ!」

「黙らせてこいよ!」


 中から酔ったような声が聞こえる。


 しばらくして、中から3人の男が姿を表す。


 俺は松明を足元に置く。


「昨日俺の村を襲撃したのは、お前たちだな。クズにはお似合いのツラしてやがるぜ」


 左右のハードノッカーをぶつけ合って挑発し、ファイティングポーズをとる。


「おい、こいつ剣も持ってねーぞ」

「無謀ってのは寿命を縮めるなぁ、あんちゃんよ」


 3人揃って、剣を引き抜く。

 得物を持った相手とは初めて戦う。それでも基本は同じだ。


 相手が剣を引き抜き終わったか終わらないか、その瞬間には、すでに俺の拳が一人の顔面に突き刺さる。


 かろうじて反応した盗賊は、拳を頬で受ける。しかし、俺の拳は風より早い。

 その瞬間には、左の拳があばらを砕く。さらにその場で回転して、右腕の裏拳で顔面を薙ぎはらう。

 金属に覆われた拳で相手の頬骨は砕かれ、顔の右半分が陥没する。


 死んだか、気絶しただけか…俺には関係のない話だ。


 俺の怒りに満ちた目と尋常ではない動きに恐怖を覚えたのか、一人が大声を上げる。


「おい! こいつやべぇぞ! 手伝え!」


 こちらの思う壺だ。

 そろそろ裏口で心霊現象が始まるはず。あとは俺が数に押されたふりをして、少し後退すればいい。そうすれば敵の背後から、レイラたちが斬りかかってくれる。


 もう一人の盗賊が斬りかかってくるが、その剣は止まっているようにすら見える。


 左の拳が空を切る。しかし、回避動作で大きく開いた懐に俺を招いてしまっただけのことだ。


 右の拳がみぞおちに突き刺さる。相手の体が浮き上がって、3mほど背後に吹き飛ぶ。


 俺は再びファイティングポーズをとって、残る一人を挑発した。

 その顔は、完全に怯えきっている。


 その背後から、さらに4人が、思い思いの武器を構えて現れる。

 遺跡の中から、録音した音声で「裏はダメだ! 表に逃げろ!」という俺の声が聞こえた。もうすぐ偽の突撃音声が開始されるはずだ。


 盗賊どもが一斉に雄叫びをあげて、俺に斬りかかってくる。

 躱しきれるか?


 左右から繰り出される刃物を、体が感じるままに躱していく。相手の重心の位置が手に取るようにわかる。盗賊の5連撃は、俺にかすりもしない。


 一番飛び込みやすい一人を選んで踏み込み、拳を3発叩き込む。

 腕を折ったか?

 しかし、まだ立っている。


 背後から、脇腹に刃が刺さる。

 深く肉をえぐるが、その程度で俺のバランスを崩せると思わないほうがいい。


 死角からの初撃を除いて、俺は全ての攻撃を躱す。

 脇腹に刺さった槍を引き抜いて脇に挟むと、盗賊ごと持ち上げて払い飛ばす。


 大したダメージはないだろうが時間は稼げる。


 腕を折った盗賊は、痛みに耐えかねたのか、腕を押さえて膝をついた。


 次に動けるのは3人。


 右足を地面に擦らせて回避姿勢をとる。

 間に合わない。斬撃が左腕を裂く。


 ダメージは重くないが、出血がひどい。


 作戦通り、下がりながら戦いたい。しかし、下がってしまうと次の攻撃を一方的に受けてしまう。ここは前に出るしかない。


 殴り合いの喧嘩では、臆病になったほうが負けだ。

 俺は、踏み込む。

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