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サウナ

 湯屋の大拡張工事を始めてから、一ヶ月が経過した。

 女性専用の脱衣所も完備、番台の位置もそれにあわせて移動させ、男女両方の脱衣所を見渡せるようになった。


 洗い場、湯船も女性専用を設けたため、男性客は女性の裸を見ることはない。

 ただその分、女性専用のスペースは男性の三分の二ぐらいとやや狭く、男性側には存在する二階部分もない(その場所は男女共用のくつろぎスペースだが)。


 また、女性が男性の湯屋に入ることは、女性本人が望めばOKとした。

 これはどうしても家族で一緒に入りたいという要望があるためで、つまり男湯、女湯に分かれているのではなく、混浴、女湯に分かれているというイメージだ。


 あと、番台は監視の都合上、どうしても女性の裸が見える位置になってしまうが、まあ、番台が女性の事もあるし、俺が番台だったとしてもジロジロ見る訳では無いし、問題ないだろう。


 これでようやく、現代の銭湯に近い形にできた。

 この結果、思ったより女性客が訪れるようになった。

 やっぱり今まで、女性はちょっと躊躇する部分があったのかもしれない。

 こうなると、もう少し女性専用スペースを拡張しておけばよかったかなとも思った。


 そしてさらに、湯船のある入浴スペースの奥に、さらにもう二部屋ずつ設置した。

 一室はサウナ、そしてもう一室はサウナから出た後に入る水風呂だ。


 位置関係で言うと、番台から奥に進むにつれて脱衣スペース、洗い場、石榴口(ざくろぐち)を通って湯船のある浴室、さらにその奥に水風呂の部屋、扉を抜けてサウナへと続く。


 ここまででかかった改築費用は、五百両に迫る規模。

 維持、管理費もかかるし、湯屋単体ではよっぽどお客が来ないと経営が成り立たない。

 こうなってくると、料理店も含めて本気で観光施設化を考えなければならない。


 とりあえず、サウナがちゃんと機能するかどうか、テストしないといけない。

 一応、自分で入ってみて問題ないことは確認したのだが、できればこの時代の人にも入ってもらいたい。


 ……という話を、この時代で事情があって同居している、立場上は嫁という扱いの少女達に話したところ、まだ開店前の湯屋に、四人がモニターとして参加してくれることになった。


 後もう一人、同居人がいるのだが、彼女は俺が経営する飲食店の料理の仕込み作業があるため、参加できないとのことだった。残念。

 前回参加してくれた凜さんと、ユキ、ハルの双子。

 そして今回は、凜さんの妹の、優も参加してくれている。


 事前にサウナという仕組みを説明しているし、利用の方法も書いて掲示している。

 まだ開店前だから、男湯でも女湯でも、好きな方に入っていいよと言うと、

「何をおっしゃっているんですか、拓也さん。貴方も入るのですよ」

 と凜さんに言われてしまった。


「い、いや、俺はその、男だし……」

「でも、私達の『夫』ですよね? 私達、『さうな』っていう初めての施設使うの、不安ですし……ここは一緒に入ってもらわないと……」

 と、他の少女たちに同意を求める。


 ユキ、ハルの満十四歳コンビはうん、うんと同意し、そして同い年の優までも、ちょっと頬を赤くしてためらいながら頷いているではないか。

 うーん、こうなると変に意識してしまう俺の方が立場が弱い。


 一応、タオルで下半身をガードして、俺も一緒に入る事になってしまった。

 ちなみに、今回入るのは広い男湯の方だ。

 なお、少女たちも一応ロングタオルを持ってはいるが、正直あんまり隠してくれていない……。


 とりあえず、サウナに入るときのマナーというか、ルールを説明する。

 まず、やっぱり先にちょっとかけ湯をして身体を清潔にすることが大事だ。

 次に、身体についた水滴はよく拭いておく。サウナに余分な水分を持ち込まないためでもあるし、発汗効果を高めるためでもある。


 まあ、ここまではさすがに彼女たちも説明だけで分かる。

 ちなみに、この時点で少女たちの裸は何度も見ているが、気にしないようにしている。


 実は、これが重要なポイントだ。

 江戸時代に於いて、女性は裸を見られることは、現代と比べてはるかに抵抗が少ない。


 海女さんのように全裸に近い格好の者もいるし、農村部では、暑い日には男性同様、上半身裸で農作業を行う女性の姿も普通に見られる。


 これはもう、決定的に文化が違うとしか言いようがないのだが……。

 湯屋が混浴なのはもちろん、たとえば民家を訪れたとき、その庭で行水をしている若い娘の裸を偶然見てしまったとしても、じっと見つめたりしなければ、その娘は平気で行水を続けるのが当たり前だ。


 ただ、その様子をずっと見続けたり、物陰から覗いたりしたならば、その娘は不快、不審に思い、行水をやめてしまうだろう。


 現代でも、例えば綺麗なすっぴんの女の子を見つけたとして、ちょっと見てしまうぐらいならば何とも思わないだろうが、ジロジロ見つめると不審に思われてしまうだろう。それと似たような感覚なのかもしれない。


 つまり、裸をなるべく見ないようにするのではなく、見ても気にしないようにすればいい。

 これが、この時代に於いて俺が辿り着いた境地だ。

 もちろん、それも女性によって程度の差はあるのだが……。


 そしていよいよサウナへ。

 本当は温度が八十度ぐらいの乾式、遠赤外線効果のあるサウナにしたかったのだが、温度管理が難しく、あまり温度が高いのはちょっと事故の心配もありそうだったので、蒸気を炊き込めて暖かくする、スチームサウナの様な物にしている。


 温度は四十度前後、これでも汗はたっぷりとかける。

 サウナルームはそれほど広くなく、一度に入れるのは八人ぐらいだ。


 最初入ったときの熱気に、女性達はちょっとした歓声を上げた。

 席順は、なぜか俺の両隣に年下の双子が座り、対面に凜さんと優の姉妹。

 腰にタオルを巻いている他は、何も身につけていない。

 ここでも、その事を気にしないようにする。


(江戸時代ではこれが普通、江戸時代ではこれが普通――)

 俺は実は、その『気にしないようにすること』に必死だった。


 だって、年齢的に現代で考えると、俺は健全な男子高校生だ。

 そして目の前には、本当に一人の女の子として純粋に大好きな、アイドル並にかわいい同い年の女の子が、裸で座っているのだ。


 しかも、その隣には彼女のお姉さん。

 二つ年上、現代なら女子大生で、こちらもかなりの美人、それも裸。


 そして両隣に、やはり裸の、相当可愛い双子の女子中学生が、両側から俺に寄りかかているのだ。

 ……うん、これは通報されるレベルだ。


 少なくともこの状況を母親や妹が見たら、卒倒してしまうだろう。

 (江戸時代ではこれが普通、江戸時代ではこれが普通――)

 と、ここで凜さんが、あっと声を出す。


「……もう汗が滲んできました……これで良いんですよね?」

 見てみると、彼女の額や頬、そして首筋から、豊満な胸元にかけて、既に汗が雫になるぐらいに浮き出ている。


 隣の優を見ても、白い肌に水滴が浮かび、その純粋な美しさに思わずドキリとさせられてしまった。


「あ、ああ……そうだよ。その汗の中に、身体にとって不要な物が含まれているんです」

「……なるほど……うん、気持ちいいかも……」

 ……なんとなく、凜さんはその綺麗な身体のラインを俺に見せつけてきているような……。


 それに対し、優も手の甲で額の汗をぬぐったりしているのだが……大好きな高校の同級生、ムチャクチャかわいい女の子が、目の前で、裸でそんな仕草をしているとしたら……。


 はっ、いけないっ! つい、よからぬ妄想をしてしまう。

 いや、妄想じゃなくて現実で……。


 と、ここで両隣の双子も、俺から身体を離し、ちょっとだるそうな目で、汗をいっぱいかいて、手のひらでパタパタと顔を仰ぎだした。


 ここではっと我に返った。

 これ以上ここにいたらのぼせてしまう。


「そろそろ頃合いだから、みんな外に出よう」

 と、サウナからの退出を促す。


 扉をあけ、隣の水風呂へ。

 ここでもいきなり入るのではなく、まずは水を浴びて全身の汗を洗い落とす。

 その冷たさに、双子はキャアキャアはしゃいでいる。

 そして順番に水風呂に浸かる。これはあんまり長時間でなくていい。


 この手順を二、三回繰り返して、最後に洗い場で身体を石鹸で綺麗に洗う。

 女の子達は、お礼と言って、交替で俺の背中を流してくれた。


 結構みんな、あまり大はしゃぎすることなく(俺がオモチャにされることもなく)、真剣にサウナについてモニターしてくれた。

 彼女たちに感想を聞いてみると、今までにない心地よさ、気持ちよさで、クセになりそう、とのことだった。


 水風呂で身体を引き締めるのも健康に良さそうな気がするし、汗と一緒に本当に身体に溜まっていた毒が出て行ったような気がする、なにより、身体中がすっきりした気分になれた、とも。


 出来れば『前田邸』でも同じような物があれば嬉しい、とのことだが、さすがにそれは無理そうだ。サウナに来たければ、この湯屋を利用するしかない。


 しかし、彼女たちからそういう意見が出ると言うことは、このサウナ自体が本当に良かった、という事になる。


 その日から本格運用が始まったこのサウナ設備、すぐに評判となって、客足は順調に伸びた。

 特に女性客の伸び率がすごかった。


 サウナの効果も、どちらかと言えば女性の美肌効果の方がメリットは大きい。

 女性専用スペースの充実もあり、他藩からもこれまで以上に定期的に訪れる客が増えていって、連日大賑わいとなった。


 今回混浴した少女たちからは、また俺と一緒にサウナに入りたいと言われたが、そう毎回開店前に入っては、いろいろ無駄も多い。


 彼女たちから混浴スペースに入ってくれば俺との混浴が可能だが、他の男性客に、裸を見られるのはまだしも、密着したり、触られたりするのは嫌だという。


 うーん、確かにそれは俺も嫌だ。

 しかし、俺達がそう考えると言うことは、他の客も同様の事を考えているのではないだろうか。

 特に、内湯のないほとんどの一般家庭では……。


 家族だけで、他人の目を気にせず和気藹々と入れる、家族風呂――。

 俺の頭の中に、そんな単語が思い浮かんだ。


 今回以上に、少女たちとみんなで仲良く混浴する、そんなちょっといけない? 妄想も。


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