7 不思議な少女
通されたのは、広いリビングのような部屋だった。
立派なレンガ造りの暖炉が目につく。
それ以外の家具は最低限の生活ができそうな物しか置いておらず、テーブルや椅子も装飾がほとんどない簡素なものだ。
「……私、ハイラです」
リビングに入るなり、美女が自己紹介をしてくれた。苗字はないのか、それとも名前だけを名乗ったのかわからないが、こちらも同じように自己紹介を返しておく。
「俺はレオと言います」
「レオさんは、どこかへ向かわれる途中だったんですか?」
「ええ……まあ、ちょっとこの辺りに用事があったんですけど」
どう答えたらいいか決めかねて、俺は言葉を濁した。
「なるほど。用事ですか」
ハイラは特に詮索することもなく、俺の言葉に納得した様子。俺は不信感を持たれないうちに話題を変える。
「あの……村の中が大変なことになってますけど、何かあったんですか?」
この村がミナーヴァに破壊されたことはベイルから聞いていたが、偶然通りかかった旅人という設定なら、一応知らないふりをしておいたほうがいいと思ったのだ。
俺の問いかけを聞いたハイラは少し表情を曇らせ、ぽつりぽつりと語り出した。
「突然空に巨大な影が空に現れて、光が射してきたんです。光の柱のようなものが空から降ってきて。気が付くと村はあんな状態になっていました。……私たちはこの家に隠れていて、なんとか無事だったんですけど、他の人はおそらく……」
空に巨大な影? それがミナーヴァってことか。そんなにデカいのか。
ハイラの話を聞いた俺は不思議に思ったことを問うてみる。
「……私たち、ということは他にも生き残った人がいるんですか?」
「えっ、あ、いえ……」
何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのか、ハイラが慌てている。失言はしていないはずだが。
そんなことを思っていると、廊下から足音が聞こえた。
「……お母さん?」
次いで廊下から子供の声。振り返ってみると、六歳くらいの少女が廊下からこちらを覗いていた。
他にも人がいたようだ。
髪の色が茶色であることを除けば、ユノはハイラと瓜二つだった。人形のように整った顔立ちが印象的だ。ユノの瞳と目が合う。猫のように大きく丸い瞳は、吸い込まれそうなほど深い紅色だった。
その瞳を見つめていると、俺は妙な既視感に襲われる。
なんだ、この感覚は……。
「ユノ。出て来ちゃダメっていったでしょ……」
ハイラは困ったように言い、ユノと呼ばれた少女を廊下の奥に追いやろうとするが、身をよじって嫌がり、俺の許へ駆け寄ってきた。
そしてなぜか俺の服を手で掴み、じーっとこちらを見つめてくる。
何かを語りかけてくるような強い眼差し。この瞳、やっぱりどこかで見たことがある。
どこかで会ったかな?
いや、でも俺に子供の知り合いなんていないし。妙だな。勘違いか。
ユノの身長は一メートルほどで、俺の腰くらいしかない。
「ちょ、ちょっとユノ……す、すみません、レオさん。たまによくわからないことをするんです」
どうやらハイラは酷く混乱しているようで、おろおろと手を宙に漂わせる。
「いえ。大丈夫ですよ」
「……レオ?」
首を傾げるユノ。レオって名前なのか、そう問いかけれているような気がした。
「こんにちは。ユノちゃん」
俺は目線の高さを合わせるためにその場で屈み、ユノと向かい合う。
あまり表情の変わらない子だな。でも、そこが人形みたいで可愛い。
「……こんにちは」
ユノは小さな声で挨拶を返してくれた。
天使のようだ、と思った。